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天才美少女フィギュアスケーター、ユリカ=ホワイト。
十六歳。
日本人とアメリカ人のハーフ。
その真っ白な肌と、完璧なブロンドはいつまで見ていても飽きないし、どこまでも透き通った青い目に見つめられると、どきどきしてまともに目もあわせられない。
半分日本人の血が混じっているからか、どこか幼い外見をしていて、彼女を見た人は、まず最初に口をそろえてこうつぶやく。“かわいい”と。
性格はきわめて温厚でまっすぐ。
そのほんわかとした雰囲気は、成長早い白人らしからぬ童顔とマッチしている。
女子特有の“ねばっこさ”“裏表”が一切無い。誰にでも平等に、優しく接するその姿勢には、もはや尊敬さえ抱いてしまう。
そして、見た目の可愛さに加えて、圧倒的な才能。
昨年の世界ジュニア世界の舞台では、スケートという競技が生まれてから片手で数えるほどしか成功した女子選手がいない技、トリプルアクセルを成功させて見事優勝。さらに三回転+三回転のコンビネーションも使いこなす。
ジャンプだけではなく、ビールマン、ドーナツをはじめとする難度の高いスピンやノーハンドのスパイラルをこなし、ステップではレベル4も狙える。
その小さな身体から次々と繰り出される高難度かつ繊細・流麗な技に魅了されるファンも多い。
しかし最も卓越しているのは、その表現力だ。
彼女だけの世界観は“銀盤を百合色に染め上げる”と称えられる。
ただ滑るだけであっても、単純なステップであっても、彼女の動き全てに、ある種のオーラがあって、観客はそれに飲み込まれてしまう。バレーを習っていた選手によくあるパターンだけど、理由はそれだけじゃないと思う。彼女自身の根底にある何かが、それを可能にしている。
まさに彼女の世界を作り出す。
普段の屈託のない笑顔と、氷上での“女優”としての姿。そのギャップに人々は魅了されてしまう。
一方。
私、白石裕樹。
十六歳。
現役のフィギュアスケーター。種目は、もちろん女子シングル。ユリカと同じだ。
日本生まれの、純粋な日本人だが、父の転勤で幼いころアメリカにやってきた。三年前まではアメリカの大会に出場していたものの、今では一応日本代表として日の丸を背負っている。
昨シーズンからシニアに本格参戦。
一応、今年の世界選手権のメダル候補、日本期待の若手ということになっている。
昨年の主な成績。
グランプリシリーズアメリカ大会1位。
グランプリシリーズ日本大会5位。
全日本選手権5位。
悪くない成績だけど、去年の時点ではコアなスケートファンは別として、みな私などまったく眼中にもなかっただろう。
なぜなら、昨年はオリンピックイヤー。
にわかファンないしは普段スケートを見ない一般人の注目の的は、代表争いを、そしてメダル争いを繰り広げる選手なのであって、私のようなジュニア上がりの選手ではなかったからだ。
もっとも、年齢制限のため参加できなかっただけで、あと一年早く生まれていれば、私もその争いに加わっていたという自負はある(実際に代表になれていたかどうかは別問題だけど)。
さて。
スケートは芸術であると同時に、それ以上にスポーツだ。
確かに、昔は芸術面のウェイトが大きかった。たとえば、女子で始めてトリプルアクセルを決めて選手は『女子でトリプルアクセルを跳ぶなんて見苦しい』と言って減点されたというエピソードがある。
けれど、ある天才が現れて以降、スケートはスポーツに昇華した。
いまやフィギュアスケートは完全にスポーツとして認知されている。
もちろん芸術の要素が他の競技に比べて大きいのも事実だが、しかしどちらが大きいかといえば、スポーツの要素だろう。
オリンピックを終えて、選手たちの気持ちは二つに分かれる。結果に満足したものと、絶望したもの。
フィギュアスケートがスポーツである以上仕方がない。
勝者と敗者に分かれのは自明のこと。
けれど、彼らの辿る道は大抵一緒だ。
結果を残せた人、そうでない人、どちらにしても大抵試合を離れることになる。それが引退という形なのか、お休みという形なのかは人それぞれだが。
そんなわけで、今年は次の世代を担う、言い換えれば次のオリンピックを狙う若手にスポットライトが当たる。
日本勢も同様。
オリンピックが終わり、軒並み有力選手がリンクを離れた今年、トップを狙うのは私たちということになる。
現在、私は日本で、ユリカはアメリカで、一番世界ランクが高い。
所属する国は違えど、同じ競技で同じ舞台に立ち同じレベルで戦っている。まさに切磋琢磨している。
去年の成績だけで言えばユリカに軍配が上がるものの、トータルの実力ではまさに五分五分。
それはずっと前からだ。
何年も、サイドバイサイドで歩んできた。
抜かして抜かされて抜かして抜かされ。そうやって十年間、常に二人でトップを争ってきた。
だけど。
私が頑張った理由はオリンピックで金メダルが取りたいからじゃない。
ユリカが頑張っているからだ。
ユリカが頑張っているから、私もそれを追いかけた。それだけのこと。
そもそもスケートを始めたのだって、ユリカが滑っているのを見て憧れたからだった。
私がスケートを頑張るのは、ひとえに彼女がスケートをしているから。彼女についていきたいから。
だから────ユリカがスケートをやめるなら、私もやめるだろう。




