05-3
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メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。
なんとも彼女らしい力強い曲。“氷上の戦乙女”その真価を発揮するにふさわしい選曲だろう。
真紅の衣装。胸には十字架。その前で手を組んで祈るようなポーズ。まるでそれは戦場で葬った敵に対する手向けのよう。
そして、祈りを終えた彼女は、再び戦火へを身を投じる。
ヴァイオリンの旋律に載せて、彼女は剣を抜く。流麗なヴァイオリンの旋律に乗せて、氷にそのブレードを刻み付けていく。
やがてヴァイオリンは息を潜める。
そこから前半の二連続のジャンプ。
まずは。
左足アウトエッジに乗って、わずかな踏み込みからトリプルルッツ。
彼女得意の最高難度のトリプルジャンプ。だが、そこから彼女はさらに────トリプルループ!!
世界中で彼女にしか出来ない最高難度のコンビネーション。大技で一気に観客の心をつかんだ。
さらにもう一つ。得意のトリプルループ、難なく決める。
これで序盤は完璧。
いったんスローパートに入る。
スパイラルからコンビネーションスピン、さらにデスドロップからのフライングシットスピンとエレメンツを重ねる。
スローパートにも彼女の真価が発揮される。
基礎的なスケーティングスキルの高さが、優しい曲調を崩すことなく丁寧な印象を与えさせる。
静かだからこそ、基礎的な部分で粗が目立ってしまうところで、彼女は綺麗なスケーティングができる。
ここから演技は後半に入る。
ジャンプの得点が1,1倍になる魔法の時間。
同時に疲労がたまり、ミスが多い悪魔の時間でもある。
そこに彼女は大きな見せ場を持ってきている。
怒涛の五連続ジャンプ────
体力が減ってくる後半に連続でジャンプを持ってくるのはとても難しい。
どれかが失敗すれば、そのままずるずる立て直す暇もなく残りの全てのジャンプを失敗、ということになりかねない。
まして後半五連続は、前代未聞の荒業。
けれど、彼女は今シーズン、それを着実にこなしてきた。
そして今日も、それは再現されるだろう。
その最初はまず二つ目のトリプルルッツ。得意なジャンプだけに高さ飛距離ともにすばらしい。
さらにもう一つ得意なジャンプのトリプルサルコウから+ダブルループ+ダブルループの三連続のコンビネーション。セカンドにループをつけるのはすごく難しいが、難なく決めてみせる。
そして。失敗するとすれば、ここだろう。
失敗してくれれば私はぐっと楽になるが……
彼女がやや苦手としているトリプルフリップ────だが。今日の彼女はそれも決めてしまう。
さらに立て続けにダブルアクセルからダブルアクセルのジャンプシークエンス。そして最後のトリプルトウループ。
────完璧。
すべてのジャンプをまさかのノーミスで終える。
やはり────
「どうやら、攻めなきゃいけないようだな」
コーチが隣でつぶやいた。
「うん、最初からそのつもり」
しかし。
ライバルの完璧な演技にもかかわらず、私は焦ってはいない。最初からそうだと思っていたこともあるが、それ以上に、
「今日はなんだか知らないけど、やれる気がする」
これもなんの根拠も無いスケーターの勘。
「俺もそんな気がするよ」
コーチもそういう。それは心配させまいとして言っているのではない。おそらく本心だろう。
本当になぜだろう。
負ける気がしない。
「世界選手権にいくのは、私。楓じゃない」




