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ゆりいろ☆ステップ  作者: アメカワ・リーチ
ゆりいろ☆ステップ①
33/56

05-2

 ♪


 全日本選手権、女子シングルフリースケーティング。

 フリーはショートの順位順に第一グループ、第二グループと振り分けられる。つまり、ショートのトップシックスがイコール最終グループである。

 一般的には最低このトップシックスには入っておかなければ頂点を争うことは出来ない。

 無論、新採点システムは旧採点システム(六点満点方式)とは違って、上限が決まっていないから、計算上は大逆転も無いわけではない。

 が、実際にはジャンプなどのエレメンツの上限は決まっているので、もし十回転ジャンプとかが出来るなら話は別だけど、事実上七位以下からの優勝はありえないと見て良い。

 しかし、今日に限って言えば、最終グループに入っているかどうかはさして重要ではない。

 最低条件でしかない。

 昨日私が三位につけることが出来たのは、無論転倒など大きなミスが無かったこともあるが、なにより私と三木楓以外に有力選手がほとんどいないのが大きな理由だろう。

 二位、すなわち私の一つ上に、今年の全日本ジュニアのチャンピオン、内田麻里が入っているが、これはショート特有の現象だ。ショートは、フリーよりも自由度が低いため、上位選手と下位選手の差が付きにくい。言い換えれば、ジャンプが成功すれば上位に食い込める。特に彼女のようなジュニアの選手は、まだ身体が軽いためジャンプが決まりやすいのも大きい。

 言い換えれば、フリーはそうはいかない。スピン・ステップ、そしてなにより演技構成点。ジャンプ以外の要素も重要に成るため、私たち二人が大き過ぎる失敗を犯さなければ、彼女は三位に後退する。

 具体的には二個も三個も転ばなければ、大丈夫だ。

 無論、彼女の才能はこれからどんどん大きな脅威になっていくのは間違いないだろう。けど、さし当たっては敵ではない。

 つまりこの全日本、初めから私と三木楓の一騎打ちなのだ。

 そして、彼女と私の得点差は五点。

 ジャンプ丸々一個分の得点差がある。

 普通であれば、自力での逆転は不可能。相手のミスを狙うしかないが──

 場内が歓声に包まれた。

 六分間練習。

 最後の調整を行う選手たち。今しがた、ショート一位の選手が、ジャンプを決めた。もちろん三木楓である。彼女に対する歓声。

 トリプルルッツ+トリプルループのコンビネーション。彼女にしか出来ない最高難易度のコンビネーションだ。

 彼女は六分間練習でいくつかの三回転に挑んでいるが、すべて成功。スケーティングもきわめて良好そうで、絶好調といったところか……。

 彼女の滑走順は最終グループの序盤。つまり、六分間練習の直後。

 よって、間を空けることによる感覚のズレは望みにくい。

 おそらくこのままの調子で望み、このままの調子で演技を終えるだろう。

『選手の皆さんは、リンクサイドに戻ってください』

 六分間練習終了を告げるアナウンス。三木楓以外の選手はリンクから出て行く。

「コーチ」

 私は戻って早々に、デヴィスコーチに声をかけた。

「みたところ。彼女いい調子だな」

「そう。だから──やるしかない」

 現在、五点差。

 そして私たちのフリーのプログラム、出来栄えの面ではかなり拮抗している。

 つまり、このままお互いにノーミスで演技を終えれば、私が負ける可能性が高い。

 私が申請どおりの演技を完璧にこなしたとしても、ショートの得点差を縮められず逃げ切られてしまう。

 よって、守りに入るのではなく、攻めるしかない。

 だが点差は大きい。

 それを覆そうと思ったら、

「四回転、やるしかない」

 私は決意を、告げる。

「……言うと思った」

 コーチは半ば呆れ顔になる。

 当然だ。

 四回転の成功率は練習でもせいぜいフィフティ・フィフティ。そして練習と試合とでは緊張度がまったく違う。

 練習では100パーセントの成功率でも、本番では決まらないものなのに。成功率50パーセントのジャンプに挑むのは無謀の域。

 けど、一方でクワドラプルは逆転するのにうってつけの大技。

 前半に組み込まれたダブルアクセル。これをクワドラプルトウループに変更する。

 ダブルアクセルの基礎点は3,5。

 クワドラプルトウループなら10,5。

 私と三木楓の得点差は5点。

 優にSPの得点差をカバーできる上、観客に、そしてジャッジに与える影響は大きく、この辺は演技構成点に現れてくるだろう。

 かりに転倒しても、回りきりさえすれば、6点がもらえるし、両足着氷ないしはオーバーターンでも8点はもらえる。

 確かにクリーンに決まる確率は低いが、それでもリスク対効果は悪くないはずだ。

 もちろん、転倒してすべてのエレメンツが総崩れになるという可能性もあるが────

「まぁお前はいざというときにこそ、力を発揮するやつだ」

 コーチは苦笑いしながら、私の決意を承諾してくれた。

「ありがとう、コーチ」

 さすがは小さいころから私を見てくれた恩師だ。

 私の場合は、コーチが判断を下すよりも、自主的な判断に任せるほうが良いとコーチはわかっている。

 その上で、私がどうしても判断に迷って、それをを求めれば答えてくれるし、そうでないときは私の意見に客観的な意見をくれる。

 ただ良いコーチであるだけでなく、私にあったコーチだ。

「まぁ、その必要は無いかもしれないけどな。三木楓の演技がボロボロなら、四回転無しでも勝てる」

「まぁね」

 そうなら良いけど。

 フィギュアスケートは何が起こるかわからない。直前までベストコンディションで迎えながら、結果は総崩れなんて良くあることだ。

 けれど。

 スケーターとしての勘がその可能性を否定する。

 たぶん、今日の彼女は強い。




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