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ゆりいろ☆ステップ  作者: アメカワ・リーチ
ゆりいろ☆ステップ①
29/56

04-6

 ♪


 全日本選手権ショートプログラム当日。

 例年のように満員となったアリーナ。

 日本でのスケート人気は、かつてスケート大国といわれたアメリカやロシア以上だ。

 例えば、グランプリシリーズは、アメリカ大会やロシア大会でさえ空席が目立つのに対し、日本大会だけは常に満席。チケットを取るのは容易ではないらしい。

 もちろん、私は実際にチケット代を払って試合を観戦する機会がないので、その大変さは分からないが。

「裕樹。大丈夫。ちょっと前に比べれば、だいぶ調子もよくなってきてる」

 デヴィスコーチはいつものように私の肩を軽く叩く。

「うん」

「今の状態だと、パーフェクトとはいかないかもしれない。けど、ちょっとくらいミスしたって大丈夫だ。良いか、大事なのは全体の出来だ。まとまり。それがあれば、多少のミスもカバーできる。とにかく、最後まで滑りきれ。そうすれば、結果は付いてくる」

 コーチの最後のアドバイスを、私は胸にしっかりと刻み込む。

『十七番。白石祐樹さん』

 そのコールをきっかけに、私は一切の雑念を捨てた。

 大丈夫。自分にそう言い聞かせる。

 確かに調子は万全ではないけど、絶望的する必要は無い。

 そもそも六分間練習までまったくジャンプが決まらなくても、本番の集中力しだいで、けろっと調子が変わるケースだって山ほどある。

 大事なのは事前の調子ではなく、本番の集中。

 強さとは、十回中十回ジャンプを決めることではない。ここぞという一回を決めることだ。

 ……それはよく分かってる。

 今はとにかく目の前の演技に集中することだ。

 私は集中するために、一分間の猶予をぎりぎりまで使って、スタート位置についた。まもなく音楽が流れ出す。

 もう何度聞いたかわからない、今シーズンのショートの曲。

 ハチャトゥリアンの仮面舞踏会。

 意識を研ぎ澄ませようと努める。

 まずは、一番の山場であるコンビネーション。

 トリプル+トリプル。

 迷いは心の奥にしまいこんで。

 まずはファーストジャンプ────トリプルルッツ!!

 練習どおりの高さで、跳んでそのまま着氷、そしてトリプルトウ──

 ────着氷。

 けれど、若干氷を普通より削った感覚。

 これは……ダウングレード(つまり重度の回転不足)か、よくてもアンダーローテーション(つまり程度の低い回転不足)か。

 どちらにしても回りきってはいないだろう。減点は免れない。

 けれど転倒はしなかった。

 うん、それだけでもよしとしなければ。

 すぐに気持ちを切り替える。

 次のジャンプ。今度はステップからのトリプルフリップ。これは難なく決める。

 これで難しいトリプルジャンプはすべて終えた。少しだけ安心して、そしてもう一度気持ちを引き締めなおす。

 ここからは、ステップ・スピンとこなしていく。私の踊りに、客もしっかり付いてきているのを感じる。

 そこからさらにスパイラルを終えて、最後のジャンプ。これは簡単なダブルアクセル────けれど、

 安堵感が油断につながってしまう。

「ッ!!」

 ここで痛恨のオーバーターン。マイナス二点は転倒の半分の失点だけど、それでも大きなミスであることに変わりは無い。

 そのまま最後をレイバックスピンで締めくくるが────

 大きな拍手。

 ややまとまりに欠けた印象がぬぐえない。

 観客の拍手も、優れた演技に思わずもれたものではなく、私の実績に対するリスペクトから生まれたものに過ぎない。

 それでも今日一番の拍手ではある。

 けれど…………

 


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