04-1
冷たい氷が私のエッジを弾いた。半秒後、私は身体を氷に打ち付ける。練習では慣れ親しんだ感覚、痛くは無い。あるのは、またやってしまったという徒労感。
会場から、生暖かいため息が漏れる。
これですべてのジャンプを消化した。
フリープログラム、合計四回目の転倒。
あまりにも転びすぎて、本来綺麗な水色の衣装は、青だとは分からないほどに氷くずまみれになってしまった。
七つのジャンプのうち転倒は四回。きちんと着氷したコンビネーションは最初のダブルルッツ+ダブルトウのみ、もちろん狙った技ではなくトリプルルッツ+トリプルトウループに失敗して回転数が足らなかっただけだ。
もちろんそんな状態でほかの要素がまともである訳もなく、私は惰性に任せたままステップシークエンスに挑んだ。
そもそも入りからして、二、三秒遅れてしまう。その後も疲れきった体を懸命に動かすも、だんだんとズレは大きくなっていってしまう。
体力には自信がある私だが、ほとんどのジャンプが失敗ないしは不発に終わった後に体力がありあまるほどではない。
結局まったく音楽と噛み合わないまま最後のエレメンツコンビネーションスピンを終えた。
会場からはそれなりに大きな拍手、もちろんは慰めの意味しか持っていない。
私はしばし呆然と氷上を見つめた。
長い競技人生を振り返っても、これほどひどい演技はなかったはずだ。
十歳の自分の方が何倍もましな演技をしていただろう。
私は長めにうなだれたあと、我に返って、会場に礼をした。
会場から投げられる花束が皮肉にしかみえない。
リンクサイドに戻った私にデヴィスコーチは何も言わずただぽんぽんと肩を叩いた。その気遣いがありがたい。
「トータルスコア、140.22、現在の順位は第六位です」
グランプリシリーズの決勝戦、グランプリファイナル。
この大会はグランプリシリーズの成績上位者六名のみが出場を許される。つまり滑走者は全部で六名、よって六位は最下位を意味する。
だが、最下位にしても、この点数は恐ろしく低い点数だ。
昨日のフリーは調子が出ないながらになんとか手堅く演技を終えた。だからこの結果は今日のフリーの演技があまりにもひどかったことが原因。
フリーはボロが出やすいとはいえ、あまりにも悲惨だ。
コンディション最悪といっても、事前の練習ではなんとかジャンプは決まっていた。だが、本番一つ目のコンボが不発になったところから立て直せずガタガタと崩れ、結局何一つうまくいかないという。
負の連鎖はどんなスポーツでもよくあることだが、私はいままでそれを一度も経験してこなかった。
今までは、たとえ失敗してもその後ちゃんとリカバーできた。
だから今日の失敗は初めての経験。
失敗が失敗を呼ぶ――――氷上の〝魔物〟にとり憑かた。
今日まで自信が自信を呼んでどんどん積み上がってきた。それがたった一回の失敗によって崩れていくのを感じた。
原因は明白だった。
あの日聞いたフィルの言葉。
――――ユリカがさ、さっき男とキスしてるの見たんだよね
あれからいっときも頭から離れることのない呪いの言葉。
私は会場に一礼したあとすぐにキスアンドクライから立ち去った。
「コーチ、体調が悪いから明日のエキシビ欠場できない?」
本来ならあんな演技をした選手がエキシビに出場するのはありえない。エキシビジョンはその大会の成績上位者、主にメダリストが出場するのが慣例だからだ。
しかし、この大会は出場選手が各種目六人ないしは六組しかいないため、成績にかかわらず全員がエキシビに出場できる。
だが、この調子で出たところで、観客をわかせるのは不可能だろう。
「ああ、そうだな体調が悪いならそうしたほうがいいかもしれないな」
コーチは神妙に頷いた。
以前、めんどくさくて冗談でエキシビに出たくないといったときは怒られたが、今回はさすがに心配しているらしい。
ある意味当然かもしれれないが。今までスランプなど一度もなかった私が初めて大敗を喫したのだ。
とにかく一人になりたかった。
五日ぶりに本編です。
とりあえず、途中抜けていた部分を書き終わって、現在、七割方完成しています。
これからは順調に一日一回更新が出来そうです。
これから物語が動いてきます。
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