03-7
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こんなに清清しい気持ちになるのは久しぶりだ。心にずっしり乗りかかっていた錘が全部取れた気分。
まだユリカと離れなくて良いと決まったわけじゃない。
けど、ここからは自分の力次第だ。
自分の運命は自分の力で切り開く。この表現が大げさだとは思わない。本当に、私にとってユリカは人生そのものといっても過言じゃないから。
確かにハードルは低くない。
〝世界選手権で優勝する〟
それはつまり、ユリカを倒さねきゃいけないことを意味する。
私たちの実力は拮抗している。今シーズンの勢いもほぼ互角。そうなると勝つのは難しい。私が完璧な演技をしてようやく五分なのだから。
練習に励む。少しでもエレメンツの完成度を高めて、プログラムもより成熟させる。そして後は本番に臨むだけだ。
私は軽やかにトウループを決めて、一息つく。
リンクを見渡しても、ユリカの姿はない。この時間は私が貸切している。だから私とコーチ以外には誰もいない。
リンクを一人で使える時間は、残り五分。私は最後にもう一度トウループを練習することにした。
勢いをつけて、そのままスピードを殺さずにハーフターン、左足から右足に軸足を移して、左足のトウを突く。そして一回転、二回転、三回転、────だが回転が足りずに前向きのまま降りてしまい転倒。
次の瞬間にはいつものように衝撃。
この技<・・・>の着氷率は七割五分。完璧な成功となると五割といったところか。
とても試合で使える精度ではない。だけど────
ロマノフコーチから出された条件。
今年の世界選手権で頂点に立つ。
可能性は十分にある。
オリンピックのアフターシーズン、当然全体のレベルは下がっている。メダリストは軒並みリンクを離れ、代わりに次の五輪を狙う若手にチャンスがめぐってくる。
もちろんエカチェリーナアニシナのようにベテラン選手も多い。だが、積み上げた実績にも負けない勢いが私たちにはある。
女王候補者<プリンセス>はそんなに多くはない。
私にも十分その可能性はある。
最も実績のあるベテラン、アニシナは今シーズン不調。もちろん立て直してくれば、彼女は強敵になる。
だが、一番の敵は言うまでもなく────ユリカだ。
低迷していたアメリカに現れた星。全米を背負う彼女の力は誰もが知るところだ。今のところ実力は拮抗している。
一騎打ちになれば、どちらが勝ってもおかしくない、まったくの五分。
だが、彼女には伝家の宝刀がある。
去年の全米選手権、見事に成功させたあの大技。
────トリプルアクセル。
まだ国際大会での成功こそないが、練習での成功率は決して低くはない。そして彼女はその技を大舞台に向けて練習していることを私は知っている。
もし彼女がそれを成功させれば。
そのとき彼女に対抗するには、それと同等かそれ以上の業が必要だ。
それが────




