王都からの使者と「サイバー魔導」の噂
鉱山の再起動、魔導Wi-Fi網の開通、そして全自動防衛システムによる魔物群の一瞬での撃滅――。
かつて衰退の一途をたどっていたアストラル領は、わずか数ヶ月で王国屈指の超高度ハイテク領地へと変貌を遂げていた。
その驚異的な復興劇と「未知の魔導技術」の噂は、瞬く間に王国の中央――王都へと届くこととなる。
ある日、アストラル領主館の門前に、豪華な紋章が刻まれた豪奢な馬車が到着した。
降り立ったのは、絢爛な絹の法衣を纏った気位の高そうな男と、護衛の精鋭騎士たちだった。
「王立魔導院・特級監察官のグレモリーである! アストラル領主クラウス、直ちに出迎えよ!」
領主館の大広間。高圧的な態度で応接室のソファに深々と腰掛けたグレモリーは、差し出された茶にも目もくれず、薄笑いを浮かべた。
「クラウス殿、妙な噂を聞いてな。この辺境で、我が国の魔導体系にない『不審な秘術』を使い、鉱山を動かし魔物を退けた者がいると。国への報告なしに違法な魔導具を製造しているとあらば、査察を行わねばならん」
「違法などではありません! これはレン殿の素晴らしい技術と知恵によるもので……」
かばおうとするクラウスを制し、蓮が一歩前に出た。
「不審な秘術……ですか。僕がやったのは、ただの最適化とネットワーク構築ですよ」
「ふん、小童が戯れ言を。詠唱も魔導陣も介さずに高出力の魔法を放ち、遠く離れた場所と音声をやり取りするなど、禁忌の古代魔法か悪魔の術に決まっている!」
グレモリーは立ち上がり、胸元の「魔法測定器」を蓮に向けた。
王立魔導院が誇る最新の魔力測定器であり、相手の魔力保持量や展開している術式を解析するための道具だ。
「見よ! 我が魔導院の至宝たるこの測定器で、お前の騙しのカラクリを……な、なんだと!?」
グレモリーの顔色が一変した。
測定器の針が狂ったように回転し、バチバチと火花を散らして煙を吹き始めたのだ。
『対象の測定機器へアクセス完了。フォーマット処理を実行しました』
蓮は脳内のARUIで軽く指をタップし、ハッキングで相手の機器を初期化しただけだった。
「あ、あり得ん! 我が魔導院の測定器が自壊しただと……!?」
「機械やプログラムは、正しく理解して扱わないと壊れやすいですからね。気をつけてください」
涼しい顔で微笑む蓮に対し、グレモリーは恐怖と屈辱で顔を歪ませた。
「くっ……おぼえておれ! このような無軌道な技術、王立魔導院が断じて認めんぞ! 近いうち、王都へ召喚状が届くと思え!」
捨てゼリフを残して逃げ去る使者の背中を見送りながら、蓮は静かにサイバーブレインのログを更新した。
(王立魔導院か……。旧態依然とした魔法理論を牛耳っている組織だな。世界のバグを治すには、いずれ中央のコードも書き換える必要がありそうだ)




