新時代の魔導具「魔導スマートフォン」誕生
王都からの使者グレモリーが捨てゼリフを残して去った翌日。
アストラル領の執務室で、蓮は小さな長方形の魔導石を削り出し、真剣な眼差しで作業に没頭していた。
「レン様、それは何をお作りになっているのですか……?」
傍らで温かいお茶を淹れていたシルフィが、興味津々に覗き込んでくる。
蓮の手元にあるのは、手のひらにすっぽりと収まるサイズの黒く滑らかな板状の魔導結晶体だった。
「これかい? 以前作った魔導トランシーバーの進化型――『魔導スマートフォン』だよ」
「ま、魔導スマート……フォン?」
「うん。これまでのトランシーバーは音声のやり取りだけだったけれど、これは文字や画像の送受信、マップのリアルタイム表示、さらには緊急時の防衛結界の起動まで、この画面を指で操作するだけで実行できるんだ」
蓮は端末の表面に手をかざし、脳内AIから開発した専用OS『Mana-OS 1.0』のプログラム・コードを流し込んだ。
Plaintext
[OS_Kernel: Mana-OS_v1.0]
UI_Interface = Touch_Crystal_Display
Features = Voice_Call, Text_Message, Map_GPS, Emergency_Shield
Status = System_Ready
ピコン――!
静かな音と共に、黒い結晶の表面が明るく発光し、鮮やかなホログラムアイコンが整然と並び立った。
「わぁっ……! 結晶の中に、綺麗な絵が浮き上がりました!」
「試してみて、シルフィ。この緑色のアイコンをタッチすると、僕の端末に繋がるよ」
シルフィが恐る恐る小さな指先で画面を触ると、蓮の手元にある試作2号機から可愛らしい電子鈴の音が鳴り響いた。
『――通話が開始されました』
「すごいです、レン様! 音声だけじゃなく、レン様の居場所が地図の上に光る点で表示されています!」
「これで領地内の巡回騎士や鉱山の監督官同士が、いつでも正確な現場の状況を共有できるようになる。報告書を紙で運ぶ必要もゼロだ」
その後、領主クラウスにこの『魔導スマホ』を数十台納入すると、領地内の物流・治安・行政の処理速度はこれまでの百倍以上に跳ね上がった。
ペーパーレス化とリアルタイムな情報共有により、アストラル領は名実ともに「世界で最も高度にデジタル化された領地」へと進化したのだった。
そんな折、領主館に金箔の施された格式高い封筒が届く。
「レン殿……王都の『王立魔導院』および『王国議会』から、正式な召喚状が届いた。アストラル領の異例な発展と未知の魔導技術について、最高評議会で弁明せよ、とのことだ」
「ついに来ましたか」
蓮は試作スマホをポケットに収めると、シルフィと顔を見合わせて不敵に微笑んだ。
「ちょうど良かった。王都の古いシステムも、まとめてデバッグしに行くとしよう」




