魔導通信網(Wi-Fi)の構築
アストラル領の採掘場が息を吹き返し、活気を取り戻してから数日。
領主のクラウスは、持ち込まれる大量の報告書と鉱山からの連絡遅延に頭を抱えていた。
「レン殿……鉱石の産出量は劇的に増えたのだが、遠く離れた現場との連絡に伝令を走らせねばならず、事故や緊急時の対応にタイムラグが生じてしまうのだ」
「なるほど、情報通信のボトルネック(停滞)ですね」
広大な領地を効率的に統治・運用するには、高速なデータ通信インフラが不可欠だ。
蓮は脳内のAR(拡張現実)UIを展開し、この世界の空間に充ち満ちるマナの波動データを測定した。
『提案:大気中の魔力微粒子をキャリア波として利用した「広帯域魔導通信プロトコル」の定義が可能です』
「通信キャリアにマナを使う……よし、インフラを作ろう」
蓮は町の中心にある高台の時計塔と、各鉱山の監視所に置かれた古い魔導水晶へと向かった。
水晶に手をかざし、サイバーブレインから無線通信用のファームウェア・コードを転送する。
Plaintext
[Network_Protocol: Mana_Wi-Fi]
Frequency = Mana_Wave_GHz
Packet_Encryption = 2090_Quantum_AES
Status = Broadcasting...
「大気中のマナを伝送路にして、情報をパケットデータ化。これで暗号化通信のバックボーンが完成だ」
さらに蓮は、加工した小さな魔導石を組み込み、簡易型の「魔導トランシーバー」をいくつか試作した。
手のひらサイズの端末に向かって、蓮が声を吹き込む。
『あー、テスト、テスト。聞こえるかい、シルフィ?』
数キロメートル離れた東の山頂にいるシルフィの手元で、端末がエメラルド色に光り、透き通った蓮の声が響いた。
『はい! はっきりと聞こえます、レン様! まるで目の前でお話しされているようです……!』
その瞬間、傍らで見ていた領主クラウスは目を見開き、膝をがくがくと震わせた。
「遠話の魔導具すら数千金貨はくだらんというのに、このような小型の石で、瞬時に音声を届けるだと……!? これがあれば、領地の安全管理も物流も十倍は加速するぞ!」
「さらにこの『魔導Wi-Fi網』があれば、広域の魔力変動をリアルタイムで監視できます。領地の防衛力も跳ね上がりますよ」
通信革命――。
近未来のネットワーク技術が、異世界の広大な領地に目に見えぬデータ網を張り巡らせたのだった。




