衰退した辺境領地のエンジニアリング
コボルト村を立ち去った蓮とシルフィが辿り着いたのは、旧王道から外れた山間に位置するエルム領の領都であった。
かつては鉱山都市として栄えた場所だという。しかし、目の前に広がる景色は、寂れた石造りの街並みと、力なく路地に座り込む住民たちの姿だった。
「ひどい惨状ですね……。旧知の騎士団員から聞いた話では、数年前から鉱山で怪異が相次ぎ、ろくに鉱石が掘れなくなったとか」
シルフィが悲痛な面持ちで街を見渡す。
「怪異……ね。ちょっと視界(UI)の解析度を上げてみるよ」
蓮は脳内AIプロセッサの広域スキャナを作動させ、街全体と背景にある鉱脈のデータをオーバーレイ表示させた。
[Sector: Elm_Mine]
Resource Status: High Density Mana-Ore detected.
Blocker Status: Node Congestion & System Error (Loop condition).
Cause: Mana-Flow Stagnation (Silt Build-up)
「やっぱりな。怪異でもなんでもない。ただの『ノード詰まり』だ」
「ノード……詰まり、ですか?」
「簡単に言うと、地下の魔力ライン(マナ・パイプライン)に不純物が溜まって循環が止まり、暴走した魔力が怪現象として溢れ出しているだけさ。排水管の詰まりと同じだよ」
蓮は事もなげに言い放つと、街の行政を司る代官館へと向かった。
突然現れた無名の青年・蓮の言葉に、領主代理を務める若い貴族・アルドは最初は半信半疑だった。しかし、蓮が提示した精密な「鉱脈立体構造ホログラム(魔術光影)」と、完璧な改善計画書を目にして青ざめた。
「こ、こんな精緻な地図と魔力構造図……宮廷魔導士でも描けんぞ!? 頼む、レン殿! もし鉱山を元に戻せるなら、我が領の技術顧問として迎え入れよう!」
「交渉成立だ。……よし、シルフィ。さっそくインフラのリファクタリング(再構築)にかかろう」
蓮は鉱山の坑道入口に立つと、脳内サーバーから超大規模な『デバッグ・プログラム』を起動した。
「『パイプライン・フラッシング(魔力線洗浄)』――実行!」
――ズズズズズン……!
山全体がかすかに揺れ、坑道の奥から不気味な黒い霧(滞留した悪性マナ)が噴き出した。だが、それも一瞬のこと。蓮のコードによって純化された鮮やかな青い光線が坑道を駆け巡り、長年塞がれていた魔力ラインを一気に貫通させた。
『ノード詰まりの解消を確認。鉱脈の活性化率:350%に上昇』
その直後、坑道奥から戻ってきた坑夫たちが叫び声を上げた。
「おい! 高純度の魔導鉱石が、ゴロゴロ表面に浮き出てきたぞーッ!」
「怪物の気味悪い気配も完全に消えた! 掘れる……また採掘できるぞ!」
歓声に包まれる領都。
呆然と佇む領主代理のアルドに向かって、蓮はニッコリと微笑んだ。
「これにてデバッグ完了です。次は……この採掘作業を全自動化するラインを組みましょうか」




