近未来知識で開拓するスローライフと第一歩
「レン様、本日の農地の視察はいかがでしょうか?」
「完璧だよ、シルフィ。土壌の魔力循環コードがうまく馴染んで、作物の生育速度が従来の五倍になっている」
コボルト村を救ってから数週間。
蓮は村のゲストハウスを拠点とし、近未来のエンジニアリング知識とサイバーブレインを駆使して、村のインフラ改革に着手していた。
農地には、大気中のマナを窒素やリンといった栄養素へ変換する『自動施肥プログラム』を導入。
さらに村の水場には、川の水から不純物や致死性バグ菌を除去する『分子レベル浄水システム』を組み込んだ。
「レン様の施してくださった浄水設備のおかげで、村の子供たちの病気が一気に減りました!」
「この野菜の甘さと言ったら! 王都の高級料亭でもお目にかかれませんぞ!」
村人たちは蓮を「奇跡の魔導技師」と讃え、採れたての新鮮な野菜や特産品を毎日のように届けてくれる。
科学と魔法が融合した快適なスローライフ――だが、蓮の脳内AIプロセッサは、さらなる領域の解析を終えていた。
『広域スキャン完了。この世界全体の「世界コード」に、広範囲な不具合の兆候を検知。このまま放置した場合、数年以内に大規模な環境崩壊が発生する確率:89.7%』
(やっぱりか……。村の結界もそうだったが、この世界自体の基幹システムが老朽化して崩壊に向かっている)
「レン様……? どうかされましたか?」
不安そうに顔を覗き込んでくるシルフィに、蓮は優しく微笑みかけた。
「ううん、何でもないよ。シルフィ、僕はこの村を出て、もっと広い世界を見てみようと思うんだ。世界の『コード』をもっと調べて、根本から改善したい」
「レン様が……旅立たれるのですか……!」
シルフィは一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、すぐにその胸元に手を当て、力強い眼差しで蓮を見つめ返した。
「ならば、私も共にお供させてください! レン様のその素晴らしい技術と志を、私の剣でお護りいたします!」
「ありがとう、シルフィ。心強いよ」
村人たちからの暖かい歓送を受けながら、二人は旅立ちの土を踏みしめた。
近未来エンジニアによる異世界的コード改革――その壮大な第一歩が、いま静かに踏み出されたのだった。




