魔法の正体は「未最適化プログラム」?
空を穿つプラズマ火柱の余波に苦笑いしながら、蓮は煙のあがる手のひらを振った。
「威力の調整用スライダーもコードに入れておかないと、日常使いで街を吹き飛ばしかねないな……」
蓮は脳内のAR(拡張現実)UIを操作し、魔法の発動出力をパーセンテージで可視化・制御できる簡易インターフェースを構築した。設定出力を『1%』に落としてから、もう一度手のひらに火を灯す。
今度は煙草のライターほどの小さな青い炎が、ちょこんと灯った。
「よし、安全装置の組み込み完了」
『警告:周辺より複数の動体反応を検知。接近中』
脳内AIプロセッサのソナーがアラートを鳴らす。
草むらを押し分けて飛び出してきたのは、体長二メートルを超える猛牛のような巨体を持った野猪――この地域の魔物「レイジボア」の群れだった。
赤い目を血走らせ、鋭い牙を剥き出しにして蓮へと突進してくる。
「うお、いきなりチュートリアル戦闘か!?」
蓮は冷静に視界へ「魔法構築ウィンドウ」を展開した。
この世界の人々が呪文を詠唱して数秒から数十秒かける魔法構築を、蓮のサイバーブレインはコンマ数ミリ秒で完了させる。
『ターゲット解析:レイジボア3頭。弱点:雷属性による神経系障害』
「雷魔法のコードを検索……あった。『サンダーボルト』」
蓮の網膜に表示された初期コードは、相変わらず無駄な詠唱文句と冗長な魔力回路で埋め尽くされていた。
Plaintext
[Spell: Thunderbolt]
1: Pray to the god of sky... (Delete)
2: Gather mana in blood... (Delete)
3: Compress and Release... (Optimize)
「いらない構文(詠唱)を全削除。魔力伝導回路を並列処理にして……コンパイル!」
蓮が指先を鳴らした瞬間――。
バリバリバリッ!!!
詠唱も魔法陣もなく、青白い電流の網が空間に一瞬で展開された。
突進してきたレイジボアたちは、悲鳴をあげる暇もなく電流に包まれ、その場に崩れ落ちて白目をむいた。
「よし、麻痺コード(パラライズ)も混ぜたから命に別状はないはず。……それにしても、やっぱりこの世界の魔法って『未最適化の古いプログラム』そのものだな」
詠唱という冗長なコードを唱えなければ発動せず、魔力の伝導効率も最悪。
だからこそ、エンジニアである蓮が少しデバッグしてやるだけで、神業のような魔法が即座に実行できてしまうのだ。
「倒した魔物、肉として使えるかな……?」
蓮が獲物に近づこうとしたその時、森の奥から金属の擦れ合う音と共に、一人の少女が姿を現したのだった。




