サイバーブレインと異世界転生
視界いっぱいに走る緑色のデバッグログ。
耳奥で鳴り響く、聞き慣れたシステム警告音。
『警告:心脈停止を検知。量子サイバーブレイン、緊急バックアップモードへ移行します』
(ああ……僕の人生はここで終わりか)
桐生 蓮は、2090年代のサイバー都市で、人類の脳と量子コンピューターを直結させるインターフェースの開発者だった。
研究所の爆発事故。同僚を庇った蓮の意識は、超高密度のデータ処理と共に暗闇へと呑み込まれていった。
――はずだった。
「……う、ん……?」
目を開けると、そこはコンクリートの天井でも、病院の集中治療室でもなかった。
木漏れ日が差し込む巨大な樹木。肌を撫でる爽やかな風。そして、手に触れる生い茂った草の感触。
「ここは……どこだ?」
自身の身体を見下ろすと、着ていた白衣はなく、粗末な麻の服を着た15歳ほどの少年の姿になっていた。
混乱する蓮の脳内で、予期せぬノイズが跳ねる。
『――システム再起動完了。思考領域:正常。環境ログ分析を開始します』
(え……!? サイバーブレインが……生きている!?)
蓮の脳内に埋め込まれていた近未来の最高峰AIプロセッサは、なぜか魂と共にこの身体へと引き継がれていた。
それどころか、大気中に満ちる「謎のエネルギー」を感知し、リアルタイムで解析を始めている。
『大気中の未未知粒子(コード名:マナ)を検知。脳内量子サーバーと同期完了。プログラミング言語構造への変換が可能です』
「マナ……? 魔法ってことか……!?」
蓮が試しに手のひらをかざし、「火を出したい」と念じると、脳内のAR視界に無数の文字が浮かび上がった。
Plaintext
[Magic_Core]
Input: Element = Fire
Output: Thermal_Energy
Status: Non-optimized (Efficiency: 12%)
「効率12%……!? なんだこの冗長で無駄だらけのコードは……!」
職業病というべきか、エンジニアとしての血が騒いだ。
蓮は脳内ネットワークを介して、その「魔法の構成コード」を瞬時に書き換えた。無駄な文字を削り、熱変換効率を最大化するアルゴリズムへと最適化する。
「『実行(Run)』」
――ボォッ!!!!!
蓮の手のひらから放たれたのは、小さな火種などではなく、青白く澄み渡る超高熱のプラズマ火柱だった。火柱は一瞬で上空の雲を穿ち、圧倒的な衝撃波が森林を揺らす。
「うおっ!?? 冗長性を削っただけで、威力が100倍以上になったぞ……!?」
呆然と自分の手を見つめる蓮。
『分析完了。この世界において、あなたの思考処理能力および魔法改変能力は測定不能レベルです』
近未来のエンジニアリング頭脳と、異世界の魔法。
二つが合一した瞬間、史上最強の「サイバー・メイジ」がこの地に誕生したのだった。




