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#9 — 共鳴(レゾナンス)

「――ドォォォォン!!」


その日の放課後、冥府めいふアカデミーの裏庭に小規模な爆発音が響き渡った。続いて、何かが激しく地面に叩きつけられる音がする。


「がはっ……!!」


リュウの身体は数メートルほど吹き飛ばされ、芝生の上を無様に転がった。両手からは黒煙が上がり、無残にも焦げ付いている。


その様子を、レイが相変わらずの無表情で見下ろしていた。

「今日だけで何度自爆すれば気が済むのよ、バカ」


リュウはボロボロになりながらも、必死に頭を上げた。「……どうやら俺の身体には、自害の才能が備わってるらしい」


隣で恵子ケイコがたまらず吹き出した。「あはは! ごめんリュウ……でも今の顔、傑作すぎるわ!」


リュウは忌々しげに舌打ちし、ふらつく足取りで立ち上がった。「お前ら、本当にひどい友人だな」


今日の放課後は、零と恵子がリュウのチャクラ制御の特訓に付き合っていた。火属性魔法の暴走に備え、あえて広くて人のいない裏庭を選んだのだが――。


現実は、これだ。


「――ドォォン!!」

再び、爆発が起こる。


「うわああぁぁ!!」


「これで六回目。……本当、救いようのないバカね」

零は冷淡に呟き、カウントするのも飽きたといった様子で息を吐く。


「このままだと、ここが演習場じゃなくてクレーターになっちゃうね」

恵子が笑いすぎた涙を拭いながら付け加えた。


リュウは地面にへたり込んだ。顔面はさらにすすで汚れ、見る影もない。「なんで魔法を使うたびに爆発しなきゃいけないんだよ!?」


零が一歩前に踏み出し、リュウの胸元を指差した。

「チャクラの循環が支離滅裂なのよ。魔導経路の許容量も考えずに、出力を無理やり押し通そうとするから爆発するの」


「こっちは制御しようとしてるんだよ!」


「それで、結果は全敗」


「……零、たまには優しく励ましてくれないか?」


「却下」


恵子がくすくすと笑い、リュウの前でしゃがみ込んだ。「よしよし。じゃあ、もう一度。ゆっくり深呼吸して。チャクラのコアだけに集中するの。無理に押し出しちゃダメだよ」


リュウは目を閉じ、恵子の助言に従った。


ゆっくりと、身体の奥にある熱が安定していくのを感じる。夕暮れの風が静かに吹き抜け、周囲の木の葉を揺らした。


リュウの周囲に漂うオーラが、嘘のように静まった。爆発の兆候はない。


「……ほう?」

零が僅かに目を細め、その変化を凝視する。


恵子も息を呑んだ。初めて、リュウのチャクラが完璧に安定していた。


「そう、いい感じ……」恵子が囁く。


リュウが期待に目を見開いた。「え? もしかして、成功か――!?」


だが、その直後だった。


――パキリ、と。


何かが壊れるような音が響き、リュウの肌の下から禍々しい漆黒のオーラが染み出した。


周囲の温度が急激に下がる。恵子の笑みが消え、零は即座に鋭い視線で身構えた。

遠く離れた場所――。

桜の木の下で本を読んでいたリンが、ゆっくりと顔を上げた。

「……また、これね」

彼女はリュウの方を見つめ、低く呟く。


凛の近くでは、宗厳ソウゲンが石造りの回廊の影から様子を伺っていた。リュウから溢れ出す黒いオーラに、その眼光が鋭く光る。

宗厳は拳を握りしめた。

あの禍々しさ……忘れたくとも忘れられない記憶の中のものと、あまりに酷似している。


「――ドォォォォォン!!」


今日一番の、凄まじい衝撃が弾けた。


リュウの身体は再び吹き飛ばされ、地面を派手に転がっていく。


「いだだだっ! クソ、なんでさっきより酷くなってるんだよ!?」


一瞬の静寂。


そして。

「あっはははは!!」


恵子がこの日一番の爆笑を上げ、零は精神的な疲労を隠そうともせずにこめかみを指で押さえた。


「……確信したわ。あんた、本当に見込みがない」


「おい! さっきのは惜しかっただろ!?」リュウが抗議する。


「惜しかっただけ」


「俺にとっては大きな進歩なんだよ!」


零は短く溜め息をつき、背を向けた。「十分休憩」


リュウはそのまま芝生に大の字になった。「もう魔導師なんて引退して、隠居したい……」


「却下よ」零は振り返りもせずに応じた。


凛は、少しだけ長くリュウを見つめていた。その瞳は冷たいままだが、奥底には微かな好奇心の色が混じり始めていた。


[イザナミ黄泉学園]


冥府アカデミーの喧騒とは対照的に、イザナミ学園のメインアリーナは窒息しそうなほどの静寂に包まれていた。


黒石で造られたアリーナの中央に、一人の少年が立っている。


不動藤田フドウ・フジタ


感情の欠落した無機質な顔。その周囲には、数十体もの訓練用ゴーレムが無残な残骸となって転がっていた。他の生徒たちはアリーナの端で、息を潜めてその光景を見守っている。


「一人で全部片付けたのか……」

「化け物だろ、あいつ……」


フドウがゆっくりと片手を掲げると、深紅のオーラが立ち昇り、その身体を包み込んだ。重苦しく、熱く、破滅を予感させる波動。


遠くからそれを見つめるイザナミの教官が、感嘆と恐怖の混じった声を漏らす。

「『欠片』との同調率シンクロが上がり続けているな……」


フドウは目を閉じた。

内側から、暗闇の奥で囁き続ける声が聞こえる。

彼はその声を恐れるどころか、慈しむように受け入れていた。


「いつの日か……」フドウが低く呟く。


次の瞬間、深紅のオーラが猛り狂った。


「――轟!!」


たった一瞬の圧力解放で、アリーナの半分が瓦礫の山と化した。逃げ惑う生徒たちの悲鳴が響く。

だがフドウは微動だにせず、埃と静寂の中に立ち尽くしていた。


「……俺が、あらゆる存在を凌駕する」


その夜、リュウは自室のベッドで深い眠りに落ちていた。

だが――あの夢が、再び彼を捉えた。


真っ赤な空。あたり一面に広がる血の海。熱い風と、散乱する瓦礫。


リュウは崩壊した世界の中に立ち尽くしていた。海のように広がる炎が全てを焼き尽くし、人間の悲鳴が絶え間なく木霊している。黒い死霊たちが空を覆い尽くしていた。


そして遥か彼方に、巨大な「何か」が聳え立っている。


呼吸が止まり、心臓が早鐘を打つ。その巨大なシルエットは、まるで地平線そのものを飲み込んでいるかのようだ。


須佐之男命スサノオノミコト


その背後には、巨大な亀裂の走った『黄泉の門』がそびえ立っていた。亀裂からは数千、数万の黒い手が這い出し、餓えたように生者の世界へと手を伸ばしている。


リュウは激しく震えた。「な……んだよ、これ……」


スサノオの足元には、ゴミのように死体が積み上がっていた。世界が、ゆっくりと終わりへと向かっていく。


巨像が、緩慢な動きでこちらを向いた。暗闇に包まれた顔の中央で、一対の赤い瞳が爛々と輝く。


そして。


「ハハハハハハハハ……!!」


地響きのような笑い声が、世界を震撼させた。


「はぁっ……!!」


リュウは跳ね起きるように目を覚ました。

肩で息をし、胸が締め付けられるように苦しい。全身が嫌な汗で濡れていた。


ふと、自分の胸元を見る。


そこには、漆黒の手形が刻まれていた。

数秒間、生々しく肌に浮き上がっていたそれは……やがてゆっくりと、闇に溶けるように消えていった。

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