第39章:[メテオ]
第39章:[メテオ]
おれとヒョルディスがぶつかる直前、おれは[まほうのほかん]を開いてアイテムを取り出し、目の前に構えた。ヒョルディスと激しくぶつかり合い、耳をつんざくような爆発音が響いた。
ヒョルディスの角とおれの盾がぶつかり合う火花の中、おれは奴の体を隅々まで観察し、あの強烈な突進にどのスキルが使われているのか探ろうとした。
奴はおれより力も強く、速く、そして頑丈だ。その上、馬鹿みたいに好戦的ときている。つまり、スキルを分析する余裕なんて一秒たりとも与えてくれないということだ。だが一目見さえすれば、奴が何を使っているのかはすぐにわかる。あとで対処すればいい。
衝突の後、おれたちは互いに距離を取り、再び睨み合った。
おれの盾はもうひび割れだらけで、縄もすっかりすり減っている。
どんな盾かって? 簡単だ。カニの甲羅を切り取って穴をいくつか開け、ルナの[きぬのせいせい]のスキルを借りた。それでおれの盾は完成というわけだ。
以前、たとえ壊れていたとしても剣を持つ機会があり、このRPGの世界の武器システムがどう機能するのかを知ることができた。だが、おれが知っていたのは武器のシステムだけで、防具や盾のようなものについては知らなかった。今回の盾のおかげで、その仕組みもようやく理解できた。
剣を持った時は、その攻撃力がおれの攻撃力に加算され、パワーアップした。だが盾は違う。防御力がおれのものに加算されるわけではなく、盾自体が独自の防御力と「耐久度」というものを持っていて、それはまるで盾のHPのようなものらしい。
攻撃力がその防御力の半分を超えると、耐久度が削られてポイントを失っていき、0になれば盾や防具は壊れてしまう。
カニの盾は防御力300、耐久度1000だ。攻撃力200を超えるランクC同士の激突で、盾の耐久度は327ポイントも削れ、今は673になっている。
もっと上手く作れていれば耐久度も高くなっただろうが、あの短い時間の中ではこれが精一杯だった。
とにかく、この不格好な盾はあと数回の攻撃しか持たないだろうから、慎重に使った方がいい。そう考えながら、おれは盾を再び[まほうのほかん]にしまった。
姿勢を低くして、両手に[ドラゴンクロー]を発動する。それを合図にしたかのように、ヒョルディスが怒り狂っておれに向かって突進してくる。
「ムゥゥァ!」
おれは軽く横に跳んで、奴の軌道から外れる。
正直、この攻撃は強力で危険だが、実に単純だ。ただ一直線に高速で突っ込んでくるだけなので、軌道さえ読めれば躱すのは簡単だ。
ヒョルディスはおれの横をかすめて通り過ぎる。怒りに染まった目が驚きを浮かべておれを見た。奴が通り過ぎる瞬間、隙を突いて腕を振るい、貫くような一撃で腹を裂こうとする。だが体に当たった瞬間、金属音が響き、おれの[ドラゴンクロー]にひびが入った。
すべては一瞬の出来事で、次の瞬間にはヒョルディスが巨大なきのこに激突し、鈍い破砕音とともにそのきのこをなぎ倒した。
何だ今の? この手応えは変だ。それなりに柔らかい部分を狙って当てたはずなのに、完全に弾き返された。
この硬さはあのカニよりもずっと上だ。だがヒョルディスの防御力自体はカニより低いはずだと確信している。
ヒョルディスが立ち上がり、ゆっくりとおれの方へ向き直る。おれはたった今攻撃した腹をはっきりと見ることができた。
鎧か? いや、おれが当てた部分の皮膚が銀色の金属光沢を帯びている。金属には四本の傷が刻まれていた。あそこを攻撃して、小さな引っかき傷しかつけられなかったのか!? 腹の皮膚はゆっくりとヒョルディスの標準的な黒色に戻り、金属の質感を失っていく。それでも四本の傷はそこに残り、皮膚が元に戻った後も少し血を滲ませていた。
なるほど、あの[はがねのからだ]というスキルはこういう効果か。実際、防御力が桁違いに上がっていて、[ドラゴンクロー]でもかろうじて傷をつけられる程度だった。しかも発動が馬鹿みたいに速く、おれがどこを狙うか正確に察知する反応の速さも尋常じゃない。
今の問題は、体全体を鋼に変えられるのか、それとも一部だけなのかということだ。いずれにせよ、狙われる部分だけを防御する反応が速すぎる。ならば正面からの攻撃は諦めた方がいいだろう。時間とMPを無駄にした挙句、毎回弾き返されるだけの気がする。
だとすれば、できることは奇襲だけだ。煙幕と[まほうのマント]を使って気配を隠し、不意打ちを狙おう。
よし、この作戦でいこう!
魔法を解放すると、体から巨大な黒煙の柱が噴き出し、周囲一帯を包み込む。同時に闇の魔力で[まほうのマント]を使い、全身を覆うマントを作り出して気配を隠す。
迷わず別方向へ走り出し、ヒョルディスにおれの居場所を悟らせないようにする。
気配を隠している以上、奴が[きはいかんち]を使ってもおれを見つけることはできない。だが奴の方は自分の気配を隠す手段を持っていないので、逆におれには奴の位置が正確にわかる。
よし、混乱してその場に立ち尽くしているようだ。絶好のチャンスだ! 奴に強力な回復手段があることは知っているが、まずは脚を狙って動きを封じてみよう。
黒煙に包まれたきのこの間を縫うように走り、ヒョルディスの気配がある場所まで忍び寄って、[ドラゴンクロー]を振るい後ろ脚を斬りつける。だがおれの一撃は虚空を切り裂くだけに終わり、その一帯の黒い霧が晴れる。
当たらなかった? ヒョルディスはここにいなかったのか!? どこにいる? 奴の気配は突然消え、どこかへ移動したようだが、正確にどこへ向かったのかはわからない。
MPを使い、[ちからのしゅうちゅう]で[きはいかんち]スキルの範囲を広げて、ヒョルディスを探ろうとする。
【スキル[きはいかんち]のレベルが2から3に上昇しました】
今はそんな暇はない! お前、どこにいるんだ!?
う、うん!? 上!?
ようやくヒョルディスを見つけた。奴は20メートルを超える高さのきのこの上にいて、上からおれを睨みつけている。
一体どうやってそんな所に登ったんだ!? お前、とんでもなく体が重いことで有名じゃなかったのか?
ネットでどういうわけか牛は家や屋根の上に登るのが好きだという話を聞いたことがあるが、実際にその現場を捉えた者はいないらしい。この世界でも同じことなのだろうか。
いや、ふざけている場合じゃない。今はそんな時じゃない。
さっきステータスで見たあのスキル、[だいジャンプ]がこれか。
【スキル:[だいジャンプ:Lv5]】【このスキルを使うと、使用者は自分の体重に関係なく、自身の身長の何十倍もの高さを跳ぶことができる】
【ジャンプは水平方向にも垂直方向にも行うことができる】
なるほど、それなら納得だ。
あの突進があまりに速すぎると思ったが、[とつげき]スキルだけじゃなく、水平方向の[だいジャンプ]を組み合わせていたわけか。
本当に厄介だ。
「ムゥゥァ!」
ヒョルディスがきのこから飛び降り、重さと勢いを乗せておれに向かって落ちてくる。前脚が金属へと変化し、空気抵抗を切り裂きながら加速する。
おい……おいおいおい! ちょっと待て!
ヒョルディスの金属化した脚が巨大な槍のように目の前の地面を貫き、大きな砂埃を巻き上げる。何とか間一髪で躱せたが、危ないところだった。あと少しで串刺しにされて潰されるところだった。
この野郎、覚悟しろ! 奴の頭がすぐ目の前にある隙に、[ドラゴンクロー]を振るって額の中心を捉える。だが衝撃の直前、皮膚が鋼に変わり、硬く頑丈になった。
やっぱりな、こんな風に正面からぶつかっても、ダメージを与えるのは無理だ。不意を突かない限り、[はがねのからだ]を突破するのは難しいだろう。
今、奴は地面に足を取られているようだ。チャンスだ。左拳に魔力を込め、再び額の中心を狙って強烈な一撃を放つ。だが今回は違う。何しろおれ独自の特別な技を使っているのだからな!
喰らえ、カミカゼパンチ!
拳全体が衝撃と共に爆発し、おれ自身も後ろへ吹き飛ばされる。同時にヒョルディスが叫び声を上げた。
「ムゥゥゥゥァァァァ!!!」
ざまあみろ、間抜けな牛め。これはおれの秘技で、残念ながらシステムには魔法ともスキルとも認識されなかった。[やみのじゅうだん]と同じ、独自に編み出した技だ。名付けてカミカゼパンチ!
単純な技だ。小さな[ダークブラスト]を作り出して握りこぶしの中に収め、それで何かを殴る。衝撃で魔法が発動し、手の中で爆発が起きる仕組みだ。射程や速度よりも破壊力を重視しているので、その分爆発はかなり強力になる。
まあ残念なことに、これをやるたびに自分の腕まで吹き飛んでしまう。[ダークヒール]で回復するのに使うMPまで考えると、あまり割に合わないんだが。
ヒョルディスは憎しみと殺気の籠った目でおれを睨みつけながら、荒い息を吐いている。
よし、効いたようだ。傷つけられたことに、明らかに苛立っている。
奴は再び突進してくる。速い突進のはずだが、なぜか今回はいつもより遅い。
躱す準備をするが、奴は突然おれのすぐ目の前で止まる。頭を振り、巨大な角がおれの横腹へと向けられる。
両手の[ドラゴンクロー]を強化・再生成し、素早い防御で攻撃の威力を逸らす。
金属の火花が視界を覆い、続けて二撃目、三撃目が死角から襲ってくる。
鋼に変化したヒョルディスの角は正確かつ素早く動くが、おれはさほど苦労せずにそれを迎撃できている。
おれの防御と反撃も、精度と威力の両方で上達している。つまり、[ドラゴンクロー]も最初の攻撃の時のように欠けなくなってきたということだ。
「ムァァ!」
角での攻撃に飽きたのか、ヒョルディスは金属化した前脚で再びおれを押し潰そうとする。この攻撃は防ぎにくい、躱すしかない!
後ろに跳んで衝突の軌道から外れる。ヒョルディスの脚は攻撃の勢いで地面にめり込む。動きが止まった隙を突いて、奴の上を飛び越え、背後へと回り込む。
これからお前がすり潰されるまで攻撃してやる、覚悟しろ!
んっ!? ぐぅぅぅっ!
態勢を立て直す前に、ヒョルディスの強烈な後ろ蹴りが左の[ドラゴンクロー]と右肩を捉える。
衝撃で遠くまで吹き飛ばされ、骨が何本か折れ、[ドラゴンクロー]にもひびが入る。だがすぐに[ダークヒール]で回復し、体勢を立て直す。
ずる賢い野郎め! まさか背後からの反撃があるとは思わなかった。
いや……そもそも牛が後ろ蹴りをすることくらい、想像しておくべきだった。その可能性を考えていなかったのは、おれのミスだと認めよう。
考えておくべきだった。前脚でも同じことをしているんだ。
ならばどうすればいい? 通常攻撃はほとんど効いていないし、魔法も同じことになりそうな気がする。まともにダメージを与える方法を見つけない限り、勝つことはできない。
隙を作って奇襲するという作戦もうまくいかなかった。奴は危険を察知する感覚に優れていて、素早く躱してくる。
まともにダメージを与えられたのは、あのカミカゼパンチを使った時だけだ。それでも大したことはなく、結局あの一撃で得たもの以上を消耗してしまった。
他に何か試すとしたら、[やみのじゅうだん]を選ぶだろう。小型化して速度に特化させている分、威力も射程もかなり小さい。だが言った通り、本物の弾丸みたいに速くて正確だ。
もし不意を突いて一発撃ち込めれば、奴が体を鋼に変える前にそれなりのダメージを与えられるかもしれない。
電撃も試してみたいところだが、あのカニとの経験から、ランクCの魔物は頑丈な体を持っていて、電気の効きがあまり良くないことはわかっている。
[やみのじゅうだん]を撃ち込むために、どうやって奴の気を逸らせばいいだろうか。また煙幕を使えば、ヒョルディスはどうせまたきのこの上に逃げるだけだろうし……
おれは大きなきのこに寄りかかりながら体を支えて立ち上がる。
……ふと考えてみれば、もう一度だけヒョルディスにまともなダメージを与えたことがあった。あのきのこの木を棍棒代わりにして思い切り殴った時だ。あの時は奴を遠くまで吹き飛ばしたのだった。
そうだ、それでいけるはずだ。あれでヒョルディスを叩き潰してやればいい。奴が鋼に変わったところで、何の意味もなさないだろう。
[ドラゴンクロー]を振るい、7メートルほどのきのこの幹を切り倒す。落ちてくるのを空中で掴み、構えを取る。
同時にヒョルディスも動きを解き、相変わらず怒りに満ちた目でおれの方を向く。
力強く地を蹴り、再び馬鹿みたいに速い突進で向かってくる。いい加減、それが通用しないってわかれよ!
巨大なきのこを振り下ろし、叩き潰そうとする。だがヒョルディスはきのこの間合いに入る前に急停止し、おれは空振りして地面を無駄に打ち、きのこを砕いてしまう。
「ムゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ!!!!」
とんでもなく大きな叫び声と共に脚に力を込め、[だいジャンプ]で高く跳び上がる。最初の時よりもずっと高く、少なくとも50メートルはありそうだ。
一体何をするつもりだ!?
空中で体勢を整えると、全身が金属へと変化する。周囲の空気が、体そのものごと燃え上がり始め、そしてヒョルディスがおれ目掛けて撃ち出される。
これはまるで……メテオか!?
とんでもない速度で迫りくる。周囲の大気を焼き尽くしながら、爆発音と本物の隕石のような強烈な輝きを放っている。
これはまずいんじゃないか? そうか……おれはもう死んだも同然だな……
は……はははは。
楽しかったが、まさか金属の隕石牛に殺されるとはな。
次の瞬間、ヒョルディスが地面に激突し、巨大な爆発を引き起こす。耳をつんざく音とともにその一帯を薙ぎ払い、いくつものきのこの木をなぎ倒した。




