第38章: 危険なアアリオンの森
ルナとおれはきのこをじっと見つめながら、気配が強まり近づいてくるのを感じていた。
気配はどんどん強くなり、そして広がるように数を増していく。一体だけじゃない、五体もいる、しかもかなり速い。この辺りの難易度を考えると、だいたいランクDってところだろう。
ランクCの魔物はこの辺りだと圧倒的に強いから、群れで動く理由がない。だから間違いなくランクDだ。
近づくにつれて、重い足音が周囲に響き始める。
走っているのか?音が大きいし、地面がその騒ぎで揺れている。
おれは構えを上げて接触に備える。すると、きのこの間を突き破るようにして、五匹の大きな獣が猛然とこちらへ向かって駆けてきた。馬によく似た、四足歩行の甲虫のような魔物だ。ちょっと奇妙な見た目をしている。
【ブリフィア:ランクDの魔物】【飼育下ではとても社交的で人懐っこいが、野生で出会うと恐ろしく危険な魔物。】
【力強く、素早く、そして知能も高い。群れの中に社会的な階層を作ることができる。ドワーフや獣人など、身体能力の高い種族に騎乗用として使われることが多い。】
これじゃ、おれが知りたいことはあまりわからないな。じゃあ騎乗用の魔物ってことか。面白い……何かに乗るのも悪くなさそうだが、おれには騎乗の経験もスキルもない。だから考えても仕方ないな。
こっちに向かってきてるってことは、攻撃的だと考えていいだろう。まあ、おれのステータスは向こうの三倍近くあるし、動きを封じて、あとはルナに仕留めさせてレベルを稼がせよう。
一匹がまっすぐこちらへ突っ込んでくる。角を前に構え、おれを貫くつもりだ。
離れてろ、ルナ!隙が見えたら攻撃しろ、わかったな?!
『わかってるって!』
ルナが高度を上げる中、おれは正面からブリフィアを受け止め、その角をつかんで突進を止める。突然の衝撃に少し後ろへ押されながら、足が地面にめり込んでいく。
そして体勢を沈め、膝蹴りで角を真っ二つに折った。
「ムグゥゥゥ!」
ブリフィアが痛みに悲鳴を上げながら身をすくめる。なぜか他のブリフィアたちは別方向へ向かっていたが、傷ついた仲間を見て、おれを迎え撃つために引き返してきた。
よし、脚と角を折ってから[ダークチェーン]で拘束すればいい。それだけで動きを封じるには十分だろう。あとは外骨格に穴を開けて、ルナが[どくばり]を使えるようにする。この五匹がいれば、ルナがもう一段階進化するには十分すぎるはずだ。
残る四匹のブリフィアの突進を避けるために高く飛び上がり、数メートル離れた場所に着地する。
魔力を集中させて[みえないやり]を生み出し、やつらの脚に撃ち放つ。
だが、集中しているその瞬間、もう一つ巨大な気配が現れる。ものすごい速さで動きながら、きのこを突き破っておれの方へ向かってくる。
避けるには速すぎる!とっさに構えて防御するが、強烈な衝撃で遠くまで吹き飛ばされ、きのこの一本に激突する。きのこはその衝撃で崩れ落ちた。
こいつ強いな!どこから現れた?!この一撃で腕が丸ごと折れた。
頭を上げると、おれを打ったものが見えた。ブリフィアの倍はある巨大な牛だ。赤みがかった毛並みに、怒りで輝く黄色い目。蹄は槍のように大きく鋭く、角も大きく前方に湾曲している。しかもその顔は、どこか犬のようにも見える。
なんだこいつは?!
【ヒョルディス:ランクCの魔物】【ミョノイの平原の農民たちにとって最悪の悪夢。腹が空いていなくても、目に映るものすべてを殺す、異常なまでに攻撃的な魔物。】
【体は信じられないほど重く、毎日自分の体重の最低でも二倍もの植物や肉を食べる必要があり、平原の作物や大量の家畜を丸ごと食い尽くしてしまう。】
【その巨大で重く素早い体を使い、ヒョルディスはたった一度の突進で水車小屋をまるごと破壊したり、川を真っ二つに引き裂いたりすることができる。】
こいつ、とんでもなく危険だ!しかもランクCか。こんな短時間でランクCを二体も見つけるなんてあり得るのか?こういうのがそこら中をうろついてるってことか?
これは本当にまずいことになった。ブリフィアだけならおれにとって大した脅威じゃなかったが、やつらはこのヒョルディスから逃げていたんだ。
どうやらヒョルディスは、攻撃に耐えたおれに興味を持ったらしい。ブリフィアたちもそれに気づいたのか、もう逃げようとはしていない。むしろ、やる気満々に見える。
おそらく、おれとヒョルディスの間に生まれる隙を狙ってくるだろう。つまり今、目の前には二つの脅威があるってわけだ。
いや、落ち着け、おれは一人じゃない。ルナは格上との戦いじゃそこまで戦力にならないかもしれないが、それでも手伝う気はある。あの狂った牛の相手をしてる間、ブリフィアの気を引いてくれるだけで十分だ。
今のところやつはじっとこちらを睨んでいる。おれをどう扱うか、見極めようとしているんだろう。よし、それならこっちもこのチャンスを使って、お前を[かんてい]させてもらうぜ!
頼りにしてるぞ、[かんてい]先生!
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種族:ヒョルディス
状態:くうふく、いかり
Lv:34/62
HP:392/392
MP:311/333
こうげき:277
ぼうぎょ:212
そくど:267
まほう:145
ランク:C
スキル:
[とつげき:Lv6] [じこさいせい:Lv4] [だいジャンプ:Lv5] [ばくおん:Lv1] [かさい:Lv3] [はがねのからだ:Lv3] [おもいからだ:Lv1] [おしつぶし:Lv1] [えんぼう:Lv1] [きはいかんち:Lv1] [しょくじかいふく:Lv3] [メテオ:Lv-]
魔法:
[ちから:Lv1]
耐性:
[ぶつりたいせい:Lv3] [らっかたいせい:Lv7] [しょうげきたいせい:Lv3] [きりきずたいせい:Lv2] [どくたいせい:Lv3] [ひたいせい:Lv6]
称号:
[だいのみこみ:Lv-] [どくろつぶし:Lv-] [ざんこく:Lv-] [はんそく:Lv2]
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つ、強い。少なくともおれより強い。聞いたこともない新しいスキルもたくさんある。これは厄介なことになりそうだ。
今のところ、一番危険だと思うのは[ばくおん]と[メテオ]だ。どちらも名前からして物騒だな。
一つずつ調べて、弱点があるか確かめてみよう。
「ムアァァァァァァ!」
ヒョルディスが突然、とんでもない速さでおれに向かって突っ込んでくる。おれより速い、だが動きは見切れる。
くそ、こいつ、おれにスキルを調べさせる気なんて全くないのか?!
また当てられたら同じことになる。防ぎきれずに吹き飛ばされて、とんでもないダメージを食らうことになるぞ!
速すぎる、もう避けられない!
考える間もなく、最初の衝撃で近くに倒れていた巨大なきのこをつかみ、持てる力の全てで振り回す。
きのこはまるで巨木のようで、重さもそれに劣らない。[とつげき]の最中で避けきれなかったヒョルディスはまともに叩かれ、まるでホームランのような音を立てて遠くへ吹き飛んでいった。
す、すごい。攻撃力の属性値がここまで極端に表れるとは思わなかった。
攻撃力という属性は、その者自身の身体的な力そのものを表しているらしい。おれがまだ[こうげき:1]のただのスケルトンだった頃は、折れた剣一本を持つのすら重くて、まるで分厚い本を持っているようだった。だが今、[こうげき:239]を得たおれは、木のようなものすら片手で野球のバットのように扱えるほどの力を持っている。
あの蟹があれほど物理的に破壊的だったのは、あの馬鹿げた体格のせいだと思っていたが、実際はただ属性値が高かっただけらしい。四桁の[こうげき:1000]なんてどれほどのものか、正直ちょっと怖くなってきた。
とにかく、ヒョルディスは横向きに吹っ飛んでいき、小さなきのこを何本もなぎ倒していった。単純に放っておくわけにはいかない気がする。このまま追い回され続けるだろうという嫌な予感がするし、今のうちに片をつけておいたほうがいいだろう。
『ゼル、大丈夫か?!』ルナが心配そうに念話で叫ぶ。戦闘の場から距離を取ろうとしながら。
ああ、大丈夫だ。もう回復魔法を使ったし、腕はもう元通りだ。
ブリフィアたちを見ると、おれの視線に気づいてビクついている。こいつらに邪魔されたら厄介だな。
ルナ、おれはあの牛を追って片づけてくる。お前、こいつらの気を引いて、おれの邪魔をさせないようにできるか?戦う必要はない、ただ気を逸らして、注意をお前の方に向けさせるだけでいい。
『フンッ!あんたって本当に世話が焼けるやつね。あたしの寛大さがなかったら、あんたなんてとっくに死んでるんだから!』ルナは誇らしげに胸を張りながら、ブリフィアたちに向かって急降下していく。
その通りだな。じゃあ頼んだぞ、相棒!
そしておれは、ヒョルディスが吹き飛んでいった方向へ振り返って走り出す。全力で打ったわけじゃないから、そこまで遠くには飛んでいないはずだ。
いた!不意打ちを狙っているようだが、生憎おれには気配が感じ取れるんだよ!
ヒョルディスが茂みの中から突然現れ、強烈な突進とともにおれへ飛びかかってくる。だが今度は攻撃を読み切り、上から飛び越えるようにして避けることができた。
「ムア?」
やつは地面を踏みしめ、怒りを込めておれを睨みつける。おれも次の一手を考えながら睨み返す。
本当に、なんでいつもこんな個性的なやつばかりが相手になるんだ?このダンジョンってアンデッドのダンジョンじゃなかったのか?一体いつになったら出会えるんだよ。
ヒョルディスが再び突進してくる。おれも構えて前へ出る。両者が接触した瞬間、凄まじい衝撃と爆発するような音が、きのこの森全体に響き渡った。
離れた場所では、三人の者たちが同時にその戦闘音を耳にし、そちらへと振り向いていた。
***
戦闘から1,090メートル離れた場所、光るきのこの少し上を漂う奇妙なウナギが、爆発音を聞きつけてそちらへ振り向く。戦闘の熱気を感じ取った彼女は、高まる興奮を抑えきれず、爆発のあった方向へと滑るように進んでいく。
戦闘から1,677メートル離れた場所では、爆発音とそれに続く小さな衝撃波が、巨大なきのこの上で眠っていた奇妙な猿を目覚めさせる。突然の音に驚いた猿は、きのこの上から真っ逆さまに地面へ落ちてしまう。起こされたことに苛立ちながら、猿はきのこからきのこへと飛び移りながら、音のした方向へ向かっていく。
戦闘から1,799メートル離れた場所に、その爆発音は届いた。そこには、人間によく似た姿をした何者かがいた。赤い侍鎧をまとい、腰には刀を差し、顔には緑色の鬼の面をつけている。彼は巨大なきのこの中の虚ろな空間で、静かに座禅を組んで瞑想していたが、その音を聞くと立ち上がり、そちらへ目を向けた。そっと面に手をかけ、丁寧に外すと、肉のない、骨だけの恐ろしい顔が現れる。戦いの高揚を感じ取った彼は、面を地面に落とすと、猛スピードで爆発の方向へと駆け出した。
きのこの森の中には、爆発音を聞いた魔物が他にも大勢いた。だが、先の三人とは違い、彼らは臆病か、あるいは賢いだけあって、反対方向へと逃げていった。
ゼルはまだ知らないが、この森は「アアリオンの光る森」と呼ばれている。誰もが簡単に金持ちになれそうなほど、きのこがぎっしり詰まっているにもかかわらず、冒険者たちは近づくことすら避けている。
理由は単純だ。このきのこには毒がなく、事実上無限の食料源となっているため、数十体もの魔物を引き寄せ、そこに巣を作らせている。アアリオンの光る森は、様々な種類の魔物が住みつく、巨大で密集した巣そのものなのだ。




