第30章:チームワーク
力が強い!ビクともしない!抜け出せない!
こいつの攻撃力はおれより20以上も高い。それだけで、これほどの体格差が生まれるんだ。まだ真っ二つにされていないのは、[ドラゴンクロー]でなんとか持ちこたえているからにすぎない。だが、それもすぐに砕けて消えてしまうだろう。
おれを捕まえたまま、蟹は巨大なハサミを自分の顔の近くまで持っていく。甲羅の隙間から触手が二本現れ、おれを観察している。なんでだ?腹が減っているなら、おれはお前の腹を満たすには一番向いてない相手だと思うぞ。放っておいてくれると助かるんだが。
蟹は大きく口を開け、ハサミでおれを引き寄せる。まずい!両手がふさがっている今は[ダークブラスト]も使えないし、この状態で感電させたら、逆に締めつけが強まって潰されかねない。つまり、この状況で使えるのは一つの魔法だけだ!
透明な糸のようなものがおれの傍らに現れ、そのまま高速で放たれると、巨大な蟹の口の中に突き刺さった。
「ギィィィィィィィ!!!」
よし![みえないやり]は本当に期待を裏切らないな!うおぁあ!
傷つけられた怒りで、蟹はハサミをめちゃくちゃに振り回し、最後には近くの丘に力任せの一撃を叩き込んだ。
ぐぅぅっ!その衝撃で骨のあちこちが折れる。運よく両腕は無事だったが、もし折れていたらまずいことになっていた。だが、今の一撃はそれほどの威力で、あやうくHPが尽きるところだった。
[ダークヒール]と[さいせい]を同時に発動し、体力を完全に回復させる。
それでもこいつは離してくれず、強く締めつけ続けている!しつこいやつだな!
どうする!?[ダークブラスト]を撃つには片手が要るし、電撃系の魔法も使えない。[みえないやり]でクリティカルを出せたのは、口の中を狙えたからにすぎない。体を狙ったところで、この甲羅を貫けるとは思えない。
とんでもなくまずい状況だ。本当に、ここから抜け出す方法なんてあるのか?
[ドラゴンクロー]を解除して[フォトンソード]でこのハサミを切り落とすこともできるが、そのあとは力尽きて気絶してしまう。それこそ、確実に死を意味する。
そもそも、おれはなんて馬鹿なんだ!なんで格上のモンスターに戦いを挑むなんて間抜けな考えを持ったんだ!?
レベルと速度が低いなら何とかなると思ってたが、あまりにも軽率だった!こんなふうに、計画もなしに格上の敵との戦いに飛び込むべきじゃなかったんだ!
蟹はもう片方のハサミを振り上げ、攻撃の構えを取る。こいつ、おれを押しつぶす気だ!くそ、本当に何もできることはないのか!?やっぱり[フォトンソード]で逃げるしかないのか、だがそれじゃ力を使い果たして無防備になる!
おれ、死ぬのか?
こんなところで?
この世界でやってきたこと、全部これで終わりなのか?
せっかくファンタジー世界に転生できたのに、たどり着けたのはここまでなのか?
くそったれ!もっとこの世界を楽しんで、もっと色々見て回りたかったのに。
ん?あの猛スピードで降りてくるものは何だ?
虹色の光が、けたたましい音とともに空を切り裂きながら、恐ろしい速さで急降下してくる。そのまま蟹の顔をかすめるように通り過ぎ、片方の目を真っ二つに切り裂いた。
「ギィィィィィィィィィィィ!!」
蟹は苦痛に激しく叫びながらハサミの力を緩め、震えながらおれから飛びのくように離れていった。
今のはいったい何だ?助かったのか、どうして?
虹色の光が向きを変え、今度はゆっくりとおれの方へ近づいてくる。まさか、蝶なのか!?
光が完全に消え去ると、蝶の姿が現れ、そのままおれの肩に止まった。
助かった!本当にありがとう、蝶!お前がいなかったら、間違いなくあそこで死んでいた!
蝶は自慢げに頭を持ち上げ、まるでこう言っているかのようだった。「当然でしょう、あなたを救えるのは私だけよ!」
ははは、本当にそんなことを考えてるのかはわからないが、それでも本当にありがとう。あとで必ずたっぷりお礼をするよ。軽く頭を撫でながら、その羽に目をやる。
羽の先に、光る粒子がいくつか残っている。さっきのはあのスキルだったのか。確か、名前は[にじのやいば]だったな。
【スキル:[にじのやいば:Lv2]】【エネルギーを美しい虹色に輝く薄い刃へと変え、敵を切り裂く技。】
短いが、要点はよく伝わる説明だ。なるほど、これで蟹の目を切ったのか。あの瞬間、こいつがあれだけ素早く動いて、蟹の不意まで突けたことには驚かされる。
おれの動きのほうが速いはずなのに、目を狙って当てられたのはおれじゃなく、こいつのほうだった。
そうだ、おれは一人じゃない!こいつを守るために一人で戦おうとすることばかり考えて、計画もなく格上の相手に挑む羽目になってしまった。
だが、それは間違いだった。守ることばかり考えるべきじゃなかったんだ。こいつはおれの仲間だ。出会ったばかりだとしても、おれたちはちゃんとした仲間であって、ただ寄せ集められただけの二人じゃない。
たとえこいつのランクが、おれや蟹に比べて致命的なまでに低くても、一緒に戦うべきなんだ。おれを助けたとき、こいつだってきっと、ただ守られるだけの存在にはなりたくないと思っていたはずだ。
本当にありがとう、相棒。おれたち二人の命がかかった戦いなのに、お前を除け者にして悪かった。危険なのはわかってるし、無理を言ってるのもわかってる。それでも――一緒に戦ってくれないか?
おれの言葉が伝わったのか、蝶は得意げにため息をつく。まるでこう言っているようだった。「仕方ないわね。今回だけ特別に、あなたのために例外を作ってあげる」
表情までは読み取れないが、その目は間違いなく誇らしげに笑っている。
ん、よく見ると、羽が少し裂けている。さっきまでは粒子のせいで見えていなかったんだな。
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種族:ソウルバタフライ
状態:つうじょう
Lv:1/6
HP:2/5
MP:1/4
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やっぱりな。蟹の弱点である目を潰せたとはいえ、それでもかなりのダメージを受けていたのか。
こっちを見るよう、手招きする。
[マナドレイン]ってスキル、持ってたよな?それを使って、おれのMPを少し吸い取ってくれ。もうほとんど空っぽだろ。
蝶は小さく首をかしげる。その顔には、はっきりと「?」が浮かんでいた。
マジかよ……さっきまであんなに息ぴったりだったのに!くそ、やっぱりお互いに考えを察し合うだけのコミュニケーションには限界があるみたいだな。
蝶がそっとおれの角に触れると、背筋にぞくりとした感覚が走る。まるで、油断していた隙に背中へ氷の塊でも投げ込まれたかのようだ。
なんだこれは?MPを吸われるって、こういう感覚なのか?
もう一度ステータスを確認すると、MPが完全に回復していた[MP:4/4]。こ、こいつ、ちゃんと理解してくれたのか!?
思わず安堵の笑みがこぼれる。すぐに[ダークヒール]をかけてHPを回復させてやり、肩を軽く揺すって飛び立つよう合図する。
おれたちは互いの目の奥をじっと見つめ合う。
いいか、おれが囮になって、あの図体でかいやつの注意を引く。隙が見えたら、もう片方の目も潰してくれ。あいつはおれみたいな高度な回復手段を持っていないから、目みたいな複雑な器官は再生できないはずだ。両目を潰せたら、あとはおれが片づける。いいな?
おれの考えが伝わったのか、蝶は頷きながら高度を上げていく。
よし、今度はこっちの番だ、この野郎!おれをこんなに怖がらせたこと、たっぷり後悔させてやる!




