第29章:[ぼうぎょ:348]
【ヤマ:ランクC+のモンスター】【地下での暮らしを好む、破壊者のような巨大な蟹。】
【その巨大なハサミは、たやすく巨岩を真っ二つに切り裂く。甲羅は非常に硬く頑丈で、ドラゴンでさえ傷一つつけられない。】
【俗に「山砕き」と呼ばれている。目撃されるときはいつも、巣を作るためにどこかの山に巨大な洞窟を掘っている。】
こいつを「巨大」の一言で片付けるのは、いらだたしいほどの婉曲表現だ。さっき叩き潰した木よりも、はるかにでかい。
まだ遠くにいるから正確な情報はわからないが、高さだけでも8から10メートルくらいはありそうだ。
子供の頃に見たホラー映画を思い出す。家に腕が生えて、子供を追いかけ回して食べるという話だった。
つまり、こいつは家くらいでかいうえに、おれよりランクも上ということだ。とりあえず蝶を捕まえて、ここから逃げるとしよう。
山を砕くことで有名なやつと戦う気なんて、これっぽっちも起きない。
蝶が必死におれの方へ飛んでくる一方で、蟹もそれを追いかけてこちらへ向かってくる。くそ、あいつはまだ速度がかなり低いはずなのに、それでも蟹はなかなか追いつけずにいる。
マジかよ。ランクC+のモンスターが、低レベルのランクFのモンスターにすら追いつけないっていうのか?
とんでもなく鈍いこいつは、まるで巨大な戦車みたいだ。これだけ速度が低いなら、たとえ攻撃力や魔力でおれを上回っていても、なんとかなりそうだ。
よし。[かんてい]先生、こいつのステータスを見せてくれ。
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種族:ヤマ
状態:くうふく(だい)
Lv:13/67
HP:238/311
MP:88/88
こうげき:209
ぼうぎょ:348
そくど:46
まほう:15
ランク:C+
スキル:[そうこう:Lv5] [とつげき:Lv2] [さいせい:Lv4] [だえきほう:Lv2] [じゅうげき:Lv4] [えんぼう:Lv1] [ぼうぎょかんつう:Lv1] [きはいかんち:Lv1]
耐性:[ぶつりたいせい:Lv3] [まほうたいせい:Lv3] [きりきずたいせい:Lv2]
称号:[やまくだき:Lv-] [しにくぐい:Lv2]
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おお、こいつ本当に腹を空かせてるのか。空腹で体力まで削られてるとはな。まあ、この図体を維持するだけでも途方もない量の食料が要るだろうし、レベルからして、あまり多くのモンスターを狩って食べてはこなかったんだろう。
戦わずに済むなら、あの鳥の死体をこいつにくれてやってもかまわないんだが、こいつは殺意丸出しで蝶を追い回している。
確かに巨大な蟹のほうが蝶より速いが、蝶のほうが小さいうえに飛べる。だからこそ、まだ捕まえられずにいるんだろう。
おれのところまで逃げ切れないと悟ったのか、蝶は必死に蟹の周りをぐるぐると飛び回っている。蟹のほうも同じ場所でぐるぐると体を回しながら、あの巨大なハサミで捕まえようとしている。
鳥の血の匂いに引き寄せられてここまで来たはずなのに、こっちには向かってこず、蝶ばかりを狙っている。なぜだ?あの派手で目立つ色のせいか?……ああ、さっきまで肉を食べていたからか。
まあ、自業自得だな。ダンジョンみたいな危険な場所で、おれから離れるからそうなる。
おれはすぐさま駆け出す。あの二匹の目には、まるで魚雷みたいに映っているはずだ――もっとも、目で追えていればの話だが。
あっという間に距離を詰め、蟹の脚の一本に拳を叩き込んでバランスを崩させる。そのまま大きく跳び上がり、蝶を追い詰めていた巨大なハサミの側面に回し蹴りを叩き込んだ。
そのまま甲羅の上で一回転し、蟹の背後に着地する。
すごいな!?おれ、こんなかっこいい動きできたのか!?いや、絶対違うな。これは[せんそうのたつじん]の効果だろう、武術がどうとかいうあれだ。
必死になった蝶が降りてきて、震えながらおれの背中にしがみついた。落ち着かせようと、そっと頭を撫でてやる。
怖かったよな?もう大丈夫だ、おれがここにいる。近くにいたほうがいいって言ったのはおれだけど、少し離れててくれると助かる。ここから荒れそうだし、うっかり巻き込みたくないんだ。
蝶はおれの目の穴の奥をじっと見つめると、まるで意図を汲み取ったかのように背中から離れ、おれの頭に軽く触れて一瞬だけ光を放ち、蟹の届かない高さまで舞い上がっていった。
今のは何をしたんだ?
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種族:ウォー・リッチ
状態:そくど(しょう)
Lv:18/65
HP:219/236
MP:156/226
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おお!速度のバフをかけてくれたのか。ありがとう、蝶!
そういうことみたいだな。よし、さっさとこの蟹を片付けるとしよう。あいにく、蝶を生き返らせたときのMPがまだ完全には戻っていない。格上のモンスター相手なら万全の状態で挑みたかったが、今さらどうしようもない。
それに、何かからダメージを受けたようだが、もう見当はついている。この蟹の甲羅、とんでもなく硬いな!さっきの一撃で骨が折れたわけじゃないが、まるでダメージがそのまま自分に跳ね返ってきたみたいだ。
傾いた背中を見つめながら、腕を組んで何か作戦を考えようとする。
正直、こいつのこの馬鹿げた防御を突破できる気がまったくしない。
この外骨格を打ち破って、中の本体に届くほど強い攻撃手段を、おれは持っていない。
いや、正確には持っているが、使うのは得策じゃない。[フォトンソード]というスキルと、吸収した魔法の[ばくらい]がある。どちらかを使えば大ダメージを与えられるはずだが、一撃で仕留められるかどうかまでは自信がない。
だからこそ危険なんだ。どちらも代償が大きすぎて、一度使うだけで、たとえ満タンだったとしてもMPを完全に使い切ってしまう。
剣さえあれば、[フォトンソード]はそこまでMPを必要としないはずだ。もちろん威力も多少落ちるだろうが、コストパフォーマンスとしては悪くない。
一方、[ばくらい]は詠唱と発射にとにかく時間がかかるうえ、伝導性が悪すぎて、こんな巨大な的すら外しかねない。せめて狙いをつけるための導体――槍か剣のようなものでもあればいいんだが。
だから、まだ切り札を頼りにするわけにはいかない。つまり、奥の手を使わずに、このばかげた防御をどう突破するか考えないといけないってことだ。
防御力だけの問題なら、たとえ少しずつでもダメージを与え続ければ、いずれは倒せるはずだ。だが、この蟹は[ぼうぎょ:348]という数値に加えて、[そうこう]というスキルまでレベル5で持っている。
このスキルは、モンスターの種族が持つ天然の装甲をもとに防御力を底上げする。あのムカデも持っていたスキルだ。だが、ムカデのときと違って、おれの攻撃力と魔力は、蟹の防御力のほぼ半分しかない。これ以上スキルで防御が跳ね上がったら、まったくダメージを与えられなくなる。
この世界の戦闘について気づいたことがある。数値というのは、すべて互いに結びついているらしい。攻撃力が相手の防御力と同じ値なら、通常のダメージを与えられる。だが、攻撃力が防御力のちょうど半分なら、与えられるダメージはごくわずかになり、半分未満なら、ダメージはまったく入らない。
つまり、[そうこう]がある限り、ダメージを与えるのは不可能だ。だが、もし天然の装甲の中にある本体に攻撃を届かせられれば、通常の防御力さえ意味をなさなくなり、莫大なダメージを与えられるはずだ。
だが、いったいどうやってこの甲羅を剥がせばいいんだ?
ああ……ようやく倒れた体勢から起き上がったか。ん?口のすぐ上にあるあれは何だ?甲羅の隙間から触手のようなものが二本伸びている。あれが目なのか?
よし、まずはあの目を切り落とすところから始めよう。そこからあの隙間を突破口にして、甲羅を割ってやる!
蟹が巨大なハサミを振り下ろし、おれを押しつぶそうとしてくるが、それを飛び越えて甲羅の上に乗り、[ドラゴンクロー]を発動する。片方の手が赤黒いエネルギーの塊に包まれていく。
片方の目を狙って腕を振るうが、素早い動きで両目とも甲羅の隙間の奥へと引っ込み、まるでハッチのようにその隙間が閉じてしまう。
なんて速さだ!?体はあんなに鈍いのに、なんで目だけこんなに素早く引っ込むんだ?引っ込む瞬間すら見えなかったぞ。
何かの防御機構なんだろうが、あまりにも速すぎる。まずいな、不意を突かない限り、あの目を狙って当てるのは無理だ。
少し腹が立って、目のあった隙間に全力で叩きつけてみるが、傷一つつけられない。それどころか、おれの爪のほうが少し欠けてしまった。
こいつ、硬すぎるだろ!くそ、あのムカデみたいに毒のスキルでもあれば、この隙間に毒を流し込んで、隠れた目を潰してやれるのに。
不意に、巨大な影が視界を覆う。危険を察知して、蟹の背中から一気に後ろへ跳びのくと、直前までいた場所に、あの巨大なハサミが叩きつけられた。
危なかった。こいつがとことん鈍くて助かったな。それより、今のは自分で自分を叩いたんじゃないか?確か、こいつの攻撃力はおれより高かったはずだから、多少はダメージを受けたはずだ。見てみよう。
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種族:ヤマ
状態:くうふく(だい)
Lv:13/67
HP:235/311
MP:88/88
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た、たった3ポイントだけ!?今まで当ててきた攻撃も含めて、たったの3ポイントしか減ってないのか!?
とんでもなく硬くて腹立たしいやつだな!正直、まともにダメージすら与えられないのに、どうやってこいつを倒せっていうんだ?
魔法を使ったところで、こいつのHPが3分の1になる前に、おれのほうが先にMP切れで力尽きるだろう。
くそ、もうどうにでもなれ。電気で焼いてやる、これに耐えられるか見せてもらうぞ!
蟹の腹の下に潜り込み、空いている手を押し当てて、[かみなり]の大きな電流を解き放つ。おれの腕と甲羅の継ぎ目から黄色い火花が漏れ出し、蟹はその場でびくびくと痙攣する。
ちらりとステータスを確認すると、異常状態の[まひ]がかかっているのがわかった。それを見て、ようやく手を離す。
これでしばらくは大丈夫だろう。試したいことがある間は、動きを封じておける。
そう考えていた矢先、突然その巨体が倒れかかってきた。だが、すぐに気づいて転がるように離れ、押しつぶされずに済んだ。
おれを押しつぶすために自分から倒れ込んだのか?いや、麻痺していたはずじゃ!?ステータスを確認すると、確かに[まひ]はもう消えていた。噓だろ、まだ数秒も経ってないのに!
これが[ぼうぎょ:348]と[そうこう:Lv5]の組み合わせか。あれほど危険な異常状態の[まひ]でさえ、大して長くは続かないってわけだ。
蟹はまだ地面に横たわったまま、その巨体を回転させ、ハサミを地面に引きずって大量の砂埃を巻き上げる。おれは横に跳んでかわす。
着地した直後、巨大なオレンジ色の杭が空から降ってくる。だが、その一撃は目で追えているから、十分に対応できる。
地面を強く蹴って、蟹の倍以上の高さまで跳び上がる。上から見て気づいた――さっき降ってきた杭は、おれを串刺しにしようとした蟹の脚の一本だったのか。
気のせいか、こいつ、だんだんおれの速度に慣れて、反応が早くなってきていないか?
何をする気だ!?蟹は空中のおれを見据えるように体を向けると、口で奇妙な動きを始めた。
「ギィィィィィ!!!!」
本日二度目の雄叫びとともに、蟹が口を開くと、反応する間もないほどの速さで白い液体が噴き出し、空を切り裂いておれの右足を切りつけた。
ぐぅぅっ!くそ、こいつ、本当におれの戦い方を学習してきてるな。空中に逃げると読んで、避けられないタイミングを狙って攻撃してきやがった。
バランスを崩して落下していると、巨大なハサミが空中のおれを捕まえようと迫ってくる。もう片方の腕にも[ドラゴンクロー]を発動し、両腕で軌道をそらそうとするが、ハサミはそのまま閉じておれを強く挟み込んでしまう。締めつけの力にはほとんど抗えないが、[ドラゴンクロー]の力のおかげで、かろうじて真っ二つにされずに済んだ。
だが今、ものすごい力で挟まれていて、簡単には抜け出せそうにない。[ドラゴンクロー]にもすでにひびが入っていて、そう長くはもたないだろう。
さて、どうする?




