第27章:[アンデッドメイカー]
おれはしばらくのあいだ、隅っこにしゃがみこんで泣きたい気分になっていた。
まあ、仕方なかったんだろうな。この呪われた称号を得るのは、最初からおれの運命だったに違いない。アンデッドとして転生した時点で、おれは悪だと見なされる運命だったんだ。
それに、どのみちこの称号は手に入っていただろう。なにせ、今回の進化の選択肢は、どれも危険で恐ろしいほど邪悪なものばかりだったからな。
くそ……。
人間の姿を手に入れるまでは、人間と出会うのを避けたほうがいいだろう。[あくのみち]は恐ろしいほど強力な称号だ。そのマイナスのパッシブ効果は、基本的に人の思考を操り、おれに対する悪印象をどんどん強めてしまう。おまけに、その悪印象を他人に広めたくなるという奇妙な衝動まで生み出すらしい。さらに、おれに関する悪意と見なされるものはなんでも増幅されて人の心に刻まれる――つまり、少しでも邪悪に見えれば、実際の何倍も悪く見られてしまい、見た目だけで悪役にされかねないということだ。
……。
ああ、もうどうでもいい。今まではこの魔法を持っていることすら意識しないようにしてきたが、この称号を得てしまった以上、[ダーク・スカル・メイジ]の最大レベルで手に入れたこの魔法を使おうが使うまいが、もう大差ないだろう。
とりあえず試してみる価値はあるはずだ。あとになって「実はすごく良い魔法だったのに、悪だと思われるのが怖くて気づかなかった」なんてことになるのは嫌だからな。どうせ悪だと思われるなら、後悔だけはしたくない。
お前の出番だ、[かんてい]先生、その実力を見せてくれ!
【魔法:[アンデッドメイカー:Lv1]】【生と死の自然の摂理に反する魔法。】
【MPを使ってアンデッド系のモンスターを作り出すことができ、三つの異なる作成能力に分かれている。】
【一つ目は、使用者の魔力を使って肉体を作り出し、マナから生み出した偽りの命をそこに宿す。】
【二つ目は、死体を使い、使用者もしくは大気の魔力を人工の魂として宿すことで死体を動かし、その死体をもとにした自我を作り出す。】
【三つ目は、彷徨う魂やその欠片を吸い集めて一つの完全な魂を作り出し、それを死体に宿すことで、新たに生まれた自我として動かす。】
【作り出されたアンデッドモンスターは、創造主に逆らうことができず、絶対服従の呪いをかけられる。一定の条件を満たした場合のみ、わずかな抵抗力を持つことができる。】
長っ!しかも、いかにも邪悪って感じじゃないか!
くそ、認めたくないが、これは本当に強力だ。基本的に、MPさえあれば無限に兵士を作り出せるし、死を恐れない従順な軍勢でこの場を埋め尽くすことだってできる。それに、機能さえすればいいモンスターなら、作っては壊してを繰り返すだけで無限に経験値を稼いでレベルを上げられるはずだ!……たぶんな。
おれを強くするためだけに誰かを生み出して死なせるのは気が引けるが、他に選択肢はない。……いくぞ。
[アンデッドメイカー]!一つ目の能力を強く思い浮かべながら魔法を発動すると、おれから黒いエネルギーが放たれ、目の前で凝縮して白い骸骨の姿を作り上げた。
おお、[スケルトン]か。おれがこの世界に来たときと同じ種族だな。
自我はないはずだから、おれのために死ぬことも気にしないよな?すまない。
目の前の骸骨の頭を殴りつけると、それは完全に崩れ落ち、骨は不気味な黒い霧へと変わっていった。
【使用者自身のマナから生み出された存在からは、経験値を得ることができませんでした。】
あ……。
…… …… ……
なんというか……すまない、骸骨さん。試す必要があったんだ。お前の命が、おれの仮説を試すためだけに存在することになってしまって、本当にすまない。
【称号[あくのみち]のレベルが1から2に上がりました】
くそ!!もう謝っただろ!?悪かったって言ってるだろ!
くそ、やっぱりおれはモンスターなんだな。はぁぁぁ……(ため息)
この魔法は封印したほうがいいのだろうか。レベルが上がればかなり強化されそうな感じはするが……。それでも、たった一体のランクFのスケルトンを作るだけで、それなりのMPを消費した。使い捨ての道具としてこいつらを量産し続けるのは、さすがに気が引ける。自我がない分、多少は良心の呵責も軽くはなるが、それでも生まれたばかりの命であることに変わりはない。
ああ、やっぱりこの魔法は封印して、二度と使わないほうがいいだろう。あまりにも危険すぎる。もしおれが[リッチ]や[ダーク・スカル・ハイメイジ]に進化していたら、この魔法はきっと大幅に強化されていただろうが、それでもおれの良心にはよくない。
おれは周囲を見渡す。ダンジョンに広がる巨大な壁や柱、そして計り知れないほど高い天井を。
このダンジョンは本当に広い。どこから始まってどこで終わるのかすら見当もつかない。もうずいぶん長く歩き続けている。それが数時間だったのか、何日もかかっているのかすらわからないが、とにかくかなり長い時間ここにいるのは確かだ。
周りのものすべてが攻撃的で、姿を見た瞬間におれを殺そうとしてくる。意思疎通できるような知性を持つ何かには、まだ一度も出会っていない。いつか人間に出会えるのかどうか、正直不安になってきた。
体はモンスターでも、心はまだ人間のままだ。孤独を感じずにはいられない。当然、人間との触れ合いを求める気持ちもある。
【耐性[こどくたいせい]のレベルが5から6に上がりました】
寂しいのは自分でもわかってるんだよ、わざわざ冷水を浴びせてくるな!!
心の中で少し叫んでみると、気持ちが少し落ち着き、憂鬱な気分も晴れていった。
まあ、とにかくそろそろ先に進むとしよう。このダンジョンの出口を見つけるまでは絶対に諦めない。そのあとは人間の体を手に入れるまで進化を重ねて、この世界に出て、いろんな人と話してみせる!
【経験値を9ポイント獲得しました】
え!?何が起きた!?この経験値はどこから!?知らないうちに何か倒したのか!?
不安になって辺りを見回すが、経験値の原因になりそうなものは見当たらない。そこであることを思い出し、あの蝶が落ちた方向に目をやると、そこに死体はなく、何かが血を流しながら遠くへ這いずっていったような、緑色の血痕だけが残っていた。
血痕をたどると、すぐに片方の羽をなくし、腹部の半分が潰れて動かなくなった蝶を見つけた。この傷を負わせたのはもちろんおれではない。飛んでいるところを鳥たちに苛まれていた、あの哀れな蝶だ。
羽を失って落下したところを、鳥の一羽が追いかけてもう少しで捕まえるところだった。あの状況ではすでに瀕死だったはずで、落下だけでも死んでいたはずだが、おれが放った魔法が鳥の腹を爆発させたことで、その衝撃波が蝶の落下速度を落としたのだろう。すぐには死ななかったのがその証拠だ。だが、それがおれの攻撃と見なされたのか、蝶が死んだときにアシスト分としてわずかな経験値を受け取ったのだと思う。……たぶんな。
哀れな蝶だ。ただ人生を楽しんで飛んでいただけなのに、殺人鬼どもの群れに出くわして、拷問されるはめになったんだな。
何かしてやれたらよかったんだが、おれが見つけたときにはもう手遅れの状態だったし、そもそもおれは呪われた存在を癒す魔法しか持っていない、生き物を癒す魔法は使えないんだ。せめてできたことといえば、お前の苦しみを早く終わらせてやることくらいだったのに、まだ生きていることにすら気づかなかった。すまない。
おれは横を向き、腕を掲げて手のひらに黒い球を作り出すと、それを全力で地面に撃ち込んだ。爆発が起こり、深いクレーターができあがる。
せめてもの手向けに、きちんと弔って埋めてやることにしよう。
……。
……正直、おれは何をやっているんだ?この蝶に対して何か義務があるわけでもないのに。そもそも、死後に弔いをされたところで、こいつが気にするはずもない。所詮は動物というかモンスターだ。そんなことを気にする自我なんて……
言いかけて言葉を止め、蝶の死体をじっと見つめる。
もしかして、こいつを生き返らせることができるんじゃないか?つまり、死んだばかりなら、魂がまだ近くに残っている可能性がある。確か、[アンデッドメイカー]の三つ目の能力の説明はこうだった――
【三つ目は、彷徨う魂やその欠片を吸い集めて一つの完全な魂を作り出し、それを死体に宿すことで、新たに生まれた自我として動かす。】
もしかしたら、魂を引き戻して体に戻し、生き返らせることができるかもしれない。だが、もし間違っていたら、ただの冒涜になる。無意味に死者を汚すだけだ。
本当に賭けてみる価値はあるのか?もう[アンデッドメイカー]を封印しようとまで決めていたのに。
まあ、試すだけならタダだ。すまないな、蝶よ。もし失敗したら、ちゃんとした葬式をあげてやるから。
手を伸ばし、三つ目の能力を思い浮かべながら[アンデッドメイカー]を使う。手から暗い力があふれ出し、蝶の死体へと染み込んでいく。死体は痙攣し、光の渦をまといながら宙に浮かび上がった。
【魔法[アンデッドメイカー]のレベルが1から2に上がりました】
どこからともなく光の粒子が飛んできて、蝶のすぐそばで止まり、漂い始めた。
なんだ、あれは?
【たましいのつぶ】【生者の魂の情報を形作るエネルギー。不完全な状態であれば、融合させて新たな魂を作り出すことができる。】
こんなことまでシステムで詳細が表示されるのか。
粒子は形を変え、人間の子供にそっくりな姿になった。数えると三つある。やがてそれらは消え、輝く球へと溶け合って蝶の中へと沈んでいった。
い、今のは不完全な人間の子供の魂だったのか?[かんてい]の説明どおり、それらが合わさって何か新しい、完全なものを作り出したように見えた。だが、あれは間違いなく人間の子供だった。動物や昆虫らしきものも見たが、蝶の欠片は一つも見なかった。くそ、おれは今、モンスターの死体に人間の魂を入れてしまったのか!
それって、おれの身に起きたこととまったく同じじゃないか?おれもきっと、ゼロが別の世界から引っ張ってきた霊魂の欠片の一つで、無理やり死体に押し込まれたんだろう。
くそっ!もし本当に人間の魂なら、こいつらをアンデッドの蝶に転生させてしまったことに、ものすごく罪悪感を覚える。
蝶はしばらく光り続けたあと、力なく地面に落ちた。傷口からは黒い液体があふれ出し、けいれんしながら、形を成そうとするかのように泡立ち始める。
そういえば、こいつはひどい怪我をしていたんだった。このままじゃ、生き返ってもすぐにまた死んでしまう。[ダークヒール]を使えばどうにかなるだろうか?もうアンデッドになっているはずだから、問題はないよな……呪ったりはしないよな?
くそ、迷ってる場合じゃない。近づいて体に手を当て、[ダークヒール]を使う。黒い光が輝いて体を包み込むと、羽がゆっくりと再生し、腹部から液体が漏れるのも止まった。
回復が終わると、黒い液体が全身を覆い、完璧な球体へと姿を変えた。
うまくいったのか?いったいこれは何だ?心配になってドアをノックするみたいに軽く球を叩くと、球は震え出し、ひびが入って、どろどろした黒い液体があふれ出した。
うっかり壊してしまったのか?いや、そうではなさそうだ。
球の中から羽の潰れた生き物が這い出してきて、そのまま地面に横たわり、休み始めた。
以前は鮮やかな青色だった羽の色は、いまや紫のまだら模様に変わっている。あの中で変化していたのだろうか。
[かんてい]先生、どうかその叡智の光を見せてくれ。
【ソウルバタフライ:ランクFのモンスター】【失われた魂の残響を象徴するアンデッドの蝶。非常に知能が高く、美しい。死後何年経っても肉体が腐らないため、衣服や装飾品などの高級品を作るために、多くの貴族に狩られている。】
本当にアンデッドになったのか。いきなり襲ってこないことを祈るしかないな。まあ、おれが作り出した以上、あの服従の呪いはかかっているはずだ。
あれが人間の魂じゃないことを、心から祈るばかりだ。もしそうなら、モンスターの、それも死者の蝶に変えてしまったことで、きっと一生恨まれるだろうから。




