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ヒロインは遅れてやってくる

騒ぎを聞きつけて走ってくるレオン。

こいつはマズい。逃げなければ。けどどこに?

小さな村なので、建物もまばらで隠れる場所があまりない。

一瞬の躊躇の間に距離が詰められる。目が合ってしまった。

驚いて足を止めるレオン。

「え? その顔は……? 俺? 俺がもう一人いる?」

そっか、まだ変装したままだった。 

今がチャンス!

俺はレオンに向かってダッシュ。そのまま飛び越えて向こう側へ――


ズバッ‼


レオンの剣がひらめき俺を襲う。

服は切り裂かれたが、ギリギリ腹の皮一枚で躱せた。

あっぶねぇ、もう少しで内臓をぶちまけるところだった……。


「怪しすぎるぞ、お前。何者だ……?」

冷静に俺に剣を突き付けてくるレオン。

流石は勇者、切り替えが早い。


「逃がさないで! そいつはカイルよ‼」

エレーヌが叫ぶ。

「カイルだと⁈」

みるみるうちにレオンの目に怒りの色が浮かぶ。

「俺に化けるとは、ふざけたことしてくれるじゃねぇか……」

俺に向けた剣先が震えている。


ヤバいヤバい! 本気で怒ってる‼


俺は慌てて長剣を構える。

が、レオンの一薙ぎであっさり両断されてしまう。

うわ安物じゃ話にならん!

連続で繰り出される剣を何とか躱し続ける俺。

怒りで鈍ってるのか、実力差があるゆえの余裕なのか、まだなんとか見切れるスピードだ。


このままでは負ける。逃げられない。

だからって本気で戦うのは御免だ。

生き延びるためには……


「降参‼ お前とやりあうのは無理‼」

俺は両手を高々と上げ、叫ぶ。


レオンはピタリと動きを止める。

だが、表情は変わらず俺を睨みつけたまま。油断する素振りなどまったく見せない。

「まず変装を解け。 話はそれからだ」

「わかりましたー」

俺はわざとらしく明るく返答する。

とにかくこの殺伐とした空気は駄目だ。

無理矢理でも明るくして、この場で処刑しようみたいな流れは避けなければ。

俺は自分にかけていた幻術を解いた。

色やちょっとした形を誤魔化していた力がなくなり、レオンによく似た男といった程度になる。

後はウィッグを外して、化粧を落とせば、三枚目のカイル君のできあがり。

「相変わらずお前の変装は見事だな……」

ぼそりと呟くレオン。

「お褒めに預かり恐悦至極~」

俺が軽口で返すと「チッ」と舌打ちをして、ようやく構えていた剣を下ろす。


「さっきはよくもやってくれたわね……」

エレーヌが少年と一緒に近づいてくる。二人とも顔が涙と涎で酷い有様だ。

「ぶん殴ってやりたいけど、無抵抗の者をいたぶるのは法で禁止されてるから我慢してあげる。

 けどね……」

彼女が俺の肩を叩く。突然見えない何かに縛られる感じが。拘束魔法の一種だろうか。

あっという間に簀巻きされたみたいに身動きできなくなり、バランスが取れずひっくり返ってしまった。

「ふぎゃあ!」

無様な声が出てしまった。受け身が取れなくて痛い!

とりあえず殺されることは免れたが、この先どうしよう……

先に脱出したフォウナの事も気になる。

俺を助けてくれたりするだろうか……?


不意に誰かが近づいてくる気配。

「すいません、遅くなって……」

キョロキョロと周りを見ながら歩いてきたのはセリナだった。

「なんか、私にそっくりな奴が居たんだけど、心当たりあります?

 とりあえず、魔法で気絶させたんだけど……」

すごく不安げな様子。 まぁ突然もう1人自分が現れたら驚くわな。

しかし、フォウナも捕まってしまったか。

「あー、それは多分カイルの連れね。 あなたに化けていたのだけど、何者かしら?」

エレーヌが足元に転がる俺を見下ろしながら答える。

「え? カイル? 捕まえたの⁈」

走り寄ってくるセリナ。

「待てセリナ。こいつ、簡単に捕まりやがった。何か策があるかも……」

レオンが遮ろうとして――


次の瞬間。


レオンの体が宙を舞った。

半回転して頭から地面に叩きつけられる。

やったのはまさかのセリナ。

これは酒場でチンピラがやられた技か⁈

だが、さっきとは技の威力が桁違いだ。


なんか頭が地面に突き刺さってるんですけど……


これは俺もドン引きするレベル。

流石にこれでは勇者レオンでもしばらくは立てないな。


「さっき見せていただいた技を参考にさせて貰いました」

ぱんぱんと手の埃を払いながら悠然と話すセリナ。

いや、セリナにこんなことできるはずがない。

俺は彼女に意識を集中し、幻術を解除する。


見る見るうちに髪の色、肌の色、瞳の色が変化し、体格も少し大きくなってゆく。

さっきまでの華奢な魔法使いの雰囲気はもうない。

「これ、窮屈で外したかったんですよね」

顔に着けた変装用のテープを剥がすと、目つきが鋭くなり、尖った耳がピンと跳ね出る。

1人の魔族の少女がそこには立っていた。


突然の出来事に呆然とするエレーヌと少年。


「あなた、さっき逃げたニセモノの方でしたか……本物はどうしました?」

フォウナを睨みつけるエレーヌにさっきまでの余裕は感じられない。

フォウナの実力を感じ取ったのだろう。

忘れかけてたけど、フォウナって魔王軍四天王だったんだよな……。

鎧とか関係なく強い。鎧が無い分速くなってるぽいし?

「安心なさい。彼女はカイルさんの幼馴染だと聞いていましたから、気絶させただけです。

 ですが、あなたは違いますね。抵抗するなら容赦しません。」

ゆっくりとエレーヌに近づくフォウナ。

そこに少年が飛び込んでくる。

「聖女様に無礼は許しません!」

果敢に剣を向けるが……神速の蹴りが瞬時に剣を跳ね飛ばし、宙を舞ったそれはフォウナの手に収まった。


……レベルが違い過ぎる。


フォウナは横たわる俺に近づくと軽々と担ぎ上げた。

「申し訳ないですが、カイルさんは貰っていきますね」

そんな人を物みたいに言わないでも……

フォウナはまだ動けずにいるエレーヌに向かって言った。

「追ってくるならそれもいいですけど、覚悟はしてくださいね。

 私……魔族ですから。人間を殺すことなどなんとも思っていません」

フォウナが微笑む。それはそれはとんでもなく冷酷な(かお)だった。

俺も背筋が凍るほどの。


青ざめて失禁しそうな少年と、悔しそうなエレーヌ、そして頭が地面に埋まったままのレオンを残し、俺たちは何とかその場を逃れることに成功したのだった。

それにしても拘束されて担がれたまま退場とは、なんともかっこ悪すぎる。

普通は男女逆だと思うんだけど。

ヒロインに助けられるようでは、ヒーローは難しいなぁ。


**********


レオンは気が付くとベッドに横になっていた。

頭に痛みが走り思わず手で押さえると、髪にこびりついた土が落ちる。

「……‼」

すぐに思い出した。カイルを捕まえた後、セリナが近づいてきて、気が付いたら世界が回転していた。

そして衝撃と共に意識を失った。このような事は剣聖の元で修業していた頃以来だった。


「……目覚めたわね。頭は大丈夫かしら?」

宿屋と思われる部屋には2つのベッドの他、小さなテーブルと椅子があり、エレーヌが座ってレオンを見つめていた。

「油断した……あのセリナはニセモノだったんだな?」

「そこは本当に悪かったと思っているわ……。あなたは偽セリナには会ってなかったものね。

 一度会っている私たちが気付くべきだった」

「一応聞くがカイルはどうなった?」

「あなたの思ってる通りよ。偽セリナが連れて逃げた。

 なんなのあの女。私じゃちょっと手に負えそうにないわ」

「魔王軍四天王、黒鋼の処刑人ブラックエクスキューショナーグリム……

 やはりカイルと行動を共にしていたか。

 これは厄介だな……」


コンコンというノックの音と共に人が入ってくる。

セリナとウェインだった。

レオンはセリナを見て思わず緊張し、すぐに自嘲気味に笑った。

(ニセモノに投げられたからって幼馴染に警戒するとか、俺もまだまだ修行が足りないな)

セリナはレオンが起きているのに気づきベッドに駆け寄る。

「レオン、目が覚めたのね! 頭は大丈夫?」

「チェスタにもまったく同じことを聞かれたよ。 大丈夫、問題ない。

 それより君の方は平気なのかい?」

レオンの質問に、露骨にしょんぼりした顔を見せるセリナ。

「ん~……まだちょっと首が変だわ……」

あの時、異変を察知してレオンが走り出した直後に、セリナは何者かに後ろから羽交い絞めにされ、そのまま絞め落とされたらしかった。

「ごめんなさい、私がしっかりしてなかったせいで……」

「いや、俺も軽率だった。グリムがカイルと一緒にいるのは予想していたが、あまり警戒していなかった。

 最初に見た少女の姿に惑わされていたな……」

暗い雰囲気に耐えかねたのか、ウェインが会話に入ってくる。

「あいつらは卑怯で姑息な手段で逃げただけじゃないですか!

 ちゃんと戦ったらレオン様は絶対に負けませんよ!」

力強く言い張る。

セリナはにっこり微笑んで、ウェインの頭を撫でた。

「やっぱりウェイン君はいい子ね~」

「だから子ども扱いは止めてください!」


レオンは騒がしい仲間たちに少し呆れながら窓の外を眺めた。

(カイル……。何故、お前は裏切った? 何故、グリムと行動を共にする?)

あれ以来、同じ疑問が何度もよぎる。

相変わらず答えは出ない。

(やはり、本人に直接問いただすしかないか……)

改めてカイルを捕らえる決意を固めるレオンだった。


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