新・勇者パーティ
魔王軍の幹部である四天王が討伐され、その記念式典で行われた女神の降臨の儀にて、勇者パーティの一員のカイルが追放処分となったことは、瞬く間に王国中に知れ渡った。
しかしそのすぐ後、カイルの追跡から帰還したレオンによって、実際には四天王グリムが死んでいなかったことや、カイルと共に逃げたことが報告された。
そして王国の行政官らと女神教会幹部による評議会が開かれ、一連の事件の対応策が練られた。
四天王生存の情報は、いたずらに民衆を不安がらせてはいけないのと、倒したこと自体は事実なので、秘匿されることとなった。
問題はカイルの扱いについてだった。
最初の神託の内容は「カイルは追放処分」であったため、勇者パーティを離脱して王都から逃亡した以上、何もする必要はないという意見と、「スパイとして魔王軍に通じていた」という犯罪者を逃亡させるわけにはいかないという意見で割れていた。
結局、教会としては神託を重視して、カイルは追放されたのでこれ以上は不問とした。
王国側は法律を重視して、スパイ行為を断罪するべく指名手配し、捕縛することを決定した。
カイルの首には10,000ゴールドという破格の賞金がつけられた。
通常、凄腕の暗殺者などでもせいぜい100ゴールド。1,000ゴールドともなれば犯罪組織のボスクラスだ。
にもかかわらず10,000ゴールドにしたのは王国の本気度がうかがえるところだ。
当然、賞金稼ぎを生業とする冒険者たちが色めき立ち、大変な騒ぎになりつつあった。
そしてさらに国王は、勅命として勇者レオンと魔法使いセリナにカイルの捜索と逮捕を任じたのだった。
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勇者パーティ一行は出立の準備を終え、王都正門へ向かっていた。
レオンはかなり不満気だ。
「くそ、ちょっと状況報告に戻るだけのつもりだったのに、かなり足止めされてしまったぜ…」
それをセリナが軽く諫める。
「仕方ないでしょ。 かなり大事になっちゃったからね」
その表情は暗く、心労の程がうかがえる。
そして二人を意に介せず、小鼻を膨らませてブツブツと文句を言う少女が一人。
「まったく、冒険の準備というのは面倒臭いですわね!」
なんとそれは聖女エレーヌであった。
エレーヌは普段の聖女の時とは違う、一介の冒険者風の身なりをしていた。
美しい金髪はまとめて大き目の帽子に押し込み、伊達眼鏡で顔を誤魔化している。
裾の長い厚手のローブを纏い、首から女神ルミナスのシンボルである、金色の猫を象ったエンブレムを下げているのは典型的な旅の聖職者スタイルだ。
そしてさらにもう一人、まだ幼い、10歳ほどの小柄な少年がエレーヌについて来ていた。
「エレーヌ様は特に何もしていないじゃないですか~」
体格に似合わない大きな荷物を背負っている。
少年の名はウェイン。
小間使い風の服装をしているが、実は地方貴族の三男坊で聖騎士見習である。
聖女エレーヌは今回の教会の対応について、真っ向から反対した。
曰く、「女神様が追放と言ったのは女神様が優しすぎるからであり、本心では断罪を望んでいる。女神と一体化した私にははっきりわかる」とのこと。
しかし、女神の言葉そのものを重要とする他の神官たちは聞き入れない。
話し合いは決裂し、エレーヌは自分一人でも捕まえに行くと宣言。
流石にそれは危険であると慌てた教団幹部らは、非公式に勇者に打診。
身分を隠すこと、教会の聖騎士を一人同伴させることという条件で許可することになった。
レオンは断りたかったが、教会には逆らえず、渋々認めざるを得なかった。
その後、誰が聖女に同伴するという栄誉を得るかで聖騎士団内でもめにもめた挙句、騎士団内の勢力争いと無縁な見習い騎士のウェインに白羽の矢が立ったのだった。
「それにしても聖女様は随分とアクティブであらせますね。前にむりやりついて来た時もそうでしたけど」
慇懃無礼な調子で聖女に話しかけるレオン。 やはりエレーヌの同行が気に入らないようだ。
「ふん! 今回は特別ですわ!
女神様が続けて2度も降臨し、お言葉を下さるなど、女神教の長い歴史の中でも初めてのことです。
私が直接動かないわけにはまいりません!」
自信満々な態度のエレーヌ。 レオンがすかさず釘を刺す。
「でも、冒険をなされたことはありませんよね?
そんな見習い一人連れているだけで大丈夫でしょうか。
冒険はそんなに甘いものではありませんよ」
エレーヌが足を止めた。レオンを睨みつける。すごい威圧感にセリナとウェインは思わず後退った。
「レオンさん、あなたが女神に選ばれた勇者であるのと同様、私も女神に選ばれた聖女ですのよ。
この意味がお分かりになって?
まったく舐めないでいただきたいですわ!」
しかしレオンに動じた様子はない。
「いえいえ、聖女様を舐めるなんて、そんな恐れ多い事できるわけないじゃありませんか」
笑顔で受け流す。
(これは前途多難だわね……)
セリナは大きくため息をつく。
一方ウェインはキラキラとした瞳で勇者を見つめていた。
「セリナ様、やっぱり勇者様は凄い人ですね!
あの聖女様を前にしてあの余裕! 流石です!」
「あなた、なんかうれしそうね……」
「はい! 尊敬する勇者様とご一緒できるなんて、本当に夢のようです!」
満面の笑顔で答えるウェイン。
(可愛い……癒される……)
思わずセリナはウェインの頭を撫でていた。
「うわ、ちょっと子ども扱いはよしてくださいよ」
恥ずかしがるウェイン。
その様子をエレーヌがジト目で見ていた。
「ふーん、アナタ、男二人と旅しているのにそういう話を聞かないと思っていましたら……
そういう趣味でいらしたの?」
「ちち違います! そんなんじゃありません!」
「へぇー…… ウェイン、夜寝るときはしっかりと扉に鍵をかけるのですよ」
「?」
何でそんなことを言われるのか全く分からず、首をかしげるウェイン。
「やーめーてーくーだーさーいー!」
全力で否定するほど、かえって肯定してるみたいに思えて、真っ赤になってしまうセリナであった。
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正門では教会の聖騎士団が道の左右に整列して待機していた。
聖騎士になれるのはこの国でもトップクラスの実力者だけ。
全員が美しい装飾の施された揃いの白銀のプレートメイルを着こんでいる。
それが総勢22名ずらりと並ぶ様はかなり壮観だ。
今回、聖女は身分を隠しているので、建前は勇者の見送りということになっているが、実際は聖女のためのものだろう。
レオンが門に近づくと、一斉に高々と剣を掲げる。
「勇者一行様、出立!」
号令と共に一糸乱れぬ動きで剣を掲げる聖騎士たち。
こんなことはこれまでになかったので、セリナはかなり緊張していたが、レオンの方は対応の違いに呆れ気味だ。
一方エレーヌは慣れたもの。
「お見送り感謝します。 さぁ早く出発しましょう! 行きますわよ、ウェイン」
軽く挨拶してさっさと先に行ってしまう。
「待ってください、エレーヌ様ー!」
ウェインもすぐに後を追う。
「では俺たちも行きますか」「うん、そうね」
レオンは呆然としていたセリナに声をかけ、居並ぶ聖騎士たちの間を抜けて門へと向かった。
しかし先を行くエレーヌたちが通り過ぎると、聖騎士たちは乱暴な態度でわざと大きな音を立てて掲げていた剣を地面に突き立てる。
そして一際立派な鎧を身に着けた体格のいい男が歩み出てレオンの行く手を遮った。レオンを睨みつける視線はかなり憎々し気だった。
うわべだけの作り笑顔でレオンが問う。
「なんか用ですか、聖騎士様?」
その大男は聖騎士団の団長で、名門貴族の出のエリートだった。剣の実力もかなりの物だった。
にもかかわらず、今回は聖女様との同行は許されず、勇者が共に行くという事態。
名声を持つ勇者といえど、所詮はただの冒険者過ぎない。
家柄も名誉も信仰もすべてが格上のはずの聖騎士を差し置いて聖女様との同行が許されるというのは、彼らにとって屈辱以外の何物でもないのだ。
しかも、前の騒ぎでも聖女を勇者について行かせてしまったことで、聖騎士団は怠慢であると、王侯貴族や教会幹部に罵られたばかり。
内心穏やかではない。
それは他の聖騎士たちも同じで、押し寄せる怒りの気配で空気が張り詰めていた。
一触即発の雰囲気の中、団長はゆっくりとレオンに近づくと深々とお辞儀をし、顔を寄せて囁いた。
「いい気になるなよ、勇者レオン。
本来、聖女様を守る栄誉は我々聖騎士団に与えられるべき物。
此度はお前が裏切り者カイルを知っているから、特別に許されたのだ
くれぐれも不敬は働かぬようにな……」
レオンの顔から笑顔が消えた。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ……」
団長を鬼の形相で睨みつける。
レオンから放たれる殺気にその場の全員が凍り付いたように動けなくなる。
その迫力に圧倒され団長すらまともに呼吸できないでいた。
「俺はこれから親友をぶちのめしに行くんだぞ……
お前らの栄誉何ぞ知ったことか!」
レオンは団長に吐き捨てるように言い放つと、突然の事態に失神寸前になっていたセリナの手を引いて、正門を抜けるのであった。
レオンがいなくなっても聖騎士たちは動けないでいた。
しばらくして涙目で震えてた団長が我に返る。
(死んだかと思った……
恐ろしい……あれが選ばれし勇者か)
触らぬ神に祟りなし。
団長は勇者につっかかるのはもう止めようと心に決めたのだった。




