番外編2 「襲撃」
レオンたちは急いで隊商が襲撃されている現場へ向かった。少し離れたところにあった大きな岩に身を潜める。
レオンが岩から身を乗り出して様子をうかがう。
すでに戦闘は終結しているようだった。
二頭立ての大きな荷馬車が三台、十数人の賊に囲まれている。賊たちは薄汚い統一性のない装備を身につけていて、いかにも山賊といった感じだ。
そして彼らの足元には数人の鎧姿の人間が倒れていた。多分、隊商の護衛に雇われていた冒険者であろう。遠目にもわかる血溜まりができているので、すでに殺されているのかもしれない。
「くそ、少し遅かったか……」レオンが歯噛みする。
山賊たちは荷馬車に乗っていた人たちを降ろし、一箇所に集めているようだった。
「人を殺さず、捕らえているところを見ると、奴隷商が噛んでいる可能性があるな……。チャコ、昨日見た顔はいるか?」
レオンの質問にチャコは左右に首を振った。
「ここからだと遠くてよくわからない……。似た感じの奴はいるけど、山賊なんてみんな同じくらい汚いからな……」
突然、カイルが何かに気付いた。
「おい、街の方から近づく連中がいるぞ。かなりのスピードだ。このままだとすぐに鉢合わせするぞ」
「何か嫌な予感がするな……。このまま隠れて様子を見るぞ」レオンの言葉にカイルとセリナが頷いた。チャコも神妙な顔で従う。
こういう時のレオンの勘は不思議とよく当たるのだ。女神の加護の影響かもしれない。
街から走ってきたのは、数台の馬車と、馬に乗った数人の街の衛兵だった。
現場が見える位置まで来てもそのまま走ってくる。
山賊たちも慌てること無く衛兵らを迎え入れた。馬車が次々と停車する。
最後尾にいた馬車だけが少し離れたところに停止する。その馬車だけ他の馬車と違い、豪華な装飾が施された、貴族が使うような立派な物だった。
「おいおい、どうなっているんだ、衛兵が山賊に協力しているだと……?」
レオンの呟きにセリナが返した。
「衛兵もグルということは、完全に計画された襲撃ね。普通の山賊がやるようなことではないわ」
衛兵たちが周囲を警戒する中、山賊が隊商から奪った荷物を、後から来た馬車に載せていく。
「山賊たちの動きも統制が取れている。あいつらは山賊のふりをしているが、ちゃんと訓練されているな……」
カイルの指摘にチャコが息を呑む。「マジかよ……」
不意に豪華な馬車の扉が開いた。何者かが出てくる。
それは太った大男だった。金糸の刺繍の施された豪奢な衣装に身を包み、金の装飾品をじゃらじゃらと大量につけている。あまりに豪華絢爛過ぎて、悪趣味さしか感じられない。
頭は禿げ上がり、目つきは悪く、絵に描いたような醜男だった。下卑た笑いを浮かべる口元も相まって、醜悪極まりない。
「またエラいのが出てきたな……きっと『ぶひゃひゃひゃ』とかって笑うんだぜ……」
レオンが変顔で笑ってみせると、チャコが思わず吹き出しそうになる。
カイルは太った男を観察して言った。
「あれは多分、キレウスの豪商ウラーベだな。噂に聞いた特徴と一致する。豪商はあくまで表の顔で、裏では街を牛耳る犯罪組織のボスらしい……」
「犯罪組織のボス?」セリナが怪訝そうな顔をする。
「そんな奴が何故こんな現場に出てきているの……?」
「さぁね。あの太り具合だ、運動不足を気にしているんじゃないかな……」
ウラーベは何やら山賊たちと言葉を交わすと、キョロキョロと周囲を見渡した。
こっちの方を向いた瞬間、ピタリとカイルと目が合う。
「!」
カイルが身を翻して隠れる。
「隠身のスキルを使っているのに、この距離でこっちに気づくだと?! なんかおかしいぞ!」
ジジッ!
カイルの気配察知に反応がある。何かが来る。
「しまった、囲まれる……!」
ザザザッと音を立てて何かが草むらの中を疾走してきた。
もう逃げるには遅い。セリナとチャコを庇うように、レオンとカイルが身構える。
草むらから黒い影が現れた。
三つの人影が、レオンたちを取り囲むように立ち上がる。
全身黒ずくめ。手には光を反射しない、特殊な金属で造られたナイフ。
——プロの暗殺者だ。
男の一人が、低い静かな声で話しかけてきた。
「……お前たち、見ない顔だな。何者だ……?」
「ははは、ただの冒険者だよ……」レオンがいつもの軽い調子で答えるが——
突然、男たちが動く。統制の取れた動きで三人同時に襲いかかってくる。
男の一人はレオンに斬り掛かっていた。しかしレオンは余裕で剣で受け流している。
もう一人はカイルに斬り掛かっていたが、攻撃は空を切った。寸前でカイルの姿はかき消えていた。
三人目はセリナを背後から狙ったが、寸前で何かが暗殺者の体を押さえつけた。身動きが取れなくなる。
——カイルの鋼糸だった。いつの間にかカイルが三人目の男の横に立っている。
「悪くない動きだけど、まだまだスピードが足りないね」
動けない暗殺者の首を軽く捻ってあっさり失神させるカイル。
残った二人の暗殺者に動揺が走った。セリナはその隙を逃さない。
「……グラスバインド」
セリナが呟いて杖で地面をコンと突いた。下草がすごいスピードで伸びて暗殺者を絡み取る。一人はあっと言う間に簀巻き状態になった。
もう一人は草をかわして転がったが、素早くレオンが取り押さえた。「逃さないよ」
チャコが呆気にとられている。
「すげぇ……」
思わず声が出た。
レオン、カイル、セリナ、三人の実力は本物だ。
暗殺者如き敵ではなかった。
しかし——
——パチパチパチパチ。
突然頭上から拍手の音が響く。
レオンたちが身を隠していた大きな岩の上からだった。
カイルが即座に反応してナイフを投げるが、拍手の主はあっさりとナイフを掴み取った。ポイッと簡単に捨て、レオンたちを睥睨する。
「お前たち、中々やるねぇ……」
耳障りな、嫌味ったらしい声。
ウラーベだった。ついさっきまで向こうで山賊と話をしていたはずの太った男が、誰も気づかぬ間に岩の上に立っていた。
たっぷり脂肪のついた腹を揺すり、ねちっこい笑みを浮かべる。
レオンは背中に冷や汗が伝うのを感じた。勇者の勘が最大級の警報を鳴らす。
(……なんだかわからないが、こいつからはヤバい気配がする……!)
カイルとセリナが身構える。
チャコはまだ状況がわかっていない。
ウラーベがゆっくりとレオンたちの方へ手を伸ばす。
バチッ!バチバチバチッ!
突然、勢いよく火花が散り、空間に魔法陣が浮かび上がる。
セリナの魔法障壁と反応しているのだ。
「なんだ? 生意気だな、儂の力が届かないのか?」
ウラーベが少し不機嫌そうに言う。
「ちょっとまずいわよ、これ……!」
障壁に力を込めるセリナの声に焦りが混じっている。
「人間の魔力じゃないっ!」
レオンはチャコの方を見ると、カイルに目配せした。
腰の剣を抜く。
それを見てウラーベが口を歪ませて嗤った。
「ほほう、やる気かい?」
完全にこちらを下に見ている態度だった。
レオンが跳んだ。岩の上に立つウラーベの喉元を狙う高速の突き。
しかし——
ウラーベは掌で受け止めていた。
「ぶひゃひゃひゃ! かなり速いが儂には通じんぞ?」
だが、剣を止められてもレオンは勢いを殺さず、そのまま身を屈めてウラーベの足を払った。
もんどりうって岩の上から転がり落ちるウラーベ。
その隙を逃さずカイルが動く。素早くチャコを抱いてダッシュ。目指すはウラーベの馬車。その馬だ。
チャコがいてはまともに戦えない。ここはまず、チャコを安全に逃さなければならない。
転がったウラーベがすぐ立ち上がる。
「こら!逃げるんじゃないっ!」
カイルの方を向くが——
「爆裂っ!」
ドガガガーン!
眩い光と物凄い爆音とともに土煙があがる。セリナの魔法が炸裂したのだ。
時短詠唱で唱える爆裂の魔法は、ド派手な光と音と煙だけで威力は低いのだが、目眩ましの効果は抜群だ。
大量の土煙が舞い、あっという間に辺りを覆い隠した。
だが、カイルにとってはこの程度は障害にならない。目標を見失わず、まっすぐ馬の方へ駆ける。
「目眩ましだとぉ! 小賢しいわぁ!」
叫ぶウラーベに土煙の中からレオンが斬りかかる。
雑に腕を振って弾き返すウラーベ。ガキィーンと鈍い音が響く。
ウラーベはどう見ても素手なのだが、まるで鎧でも着込んでいるかのようだ。
「そこのデブ、さっきからブツブツとうるさいね。この勇者レオン様が相手してやるから、ちょっとは黙れ」
剣をクルクルと振り回し、あからさまに挑発するレオン。
「ぶひゃひゃひゃ、勇者だと? 面白いな。本物か?」
その安い挑発に簡単に乗るウラーベ。たるんだ腹をバンバンと叩き、下卑た声で嗤う。
「まぁ、本物だとしても、チンケな女神の加護など、儂の力の前では無力よ。ぶちのめしてくれるわ!」
なんか思ったより話が進まない。
少し長くなるかも。




