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番外編1 奴隷狩り

今回から少し番外編やります。

レオン、カイル、セリナが三人で冒険していた頃の話です。

王国の南西に位置するキレウスの街は、東の共和国、南の帝国との貿易で栄える、比較的大きな街だった。

メインストリートには様々な商店が軒を連ね、たくさんの人で賑わっている。王国内では珍しい、獣人やエルフといった亜人の姿もあった。

そんな表通りから離れた街の外れ、南門の近くに、ひときわ大きな建物があった。メインストリートほどではないが、かなりの人数が出入りをしている。

——ただし、全体的に柄が悪い。明らかに一般市民とは違う空気を漂わせる人物が多かった。

それは冒険者ギルドであった。


ギルドのホールは朝から大勢の冒険者で賑わっていた。

仕事を探す者、パーティメンバーを募る者、ただの冷やかし、様々な理由で集まっている。


そんなギルドの受付の一つに、パーティらしい二人の冒険者が来ていた。

受付嬢に、剣士とおぼしきイケメンの青年が絡んでいる。

「え~、ちょっと口説くぐらいいいじゃないですか、美しいエルフのお嬢さん」

受付嬢は背が高く美しい金髪エルフだった。凛とした態度で、冷静に対応している。

「ですから、早く要件を済ませてください。後ろがつかえていますので」

「つれないねぇ……」

青年は金髪をかきあげて、ため息をつく。そんな動作の一つ一つが様になっていた。

青年の名はレオン。剣聖に認められた凄腕の剣士で、女神に選ばれし勇者。ただし、実績はまだ無く、知名度は低かった。

そんなレオンを、後ろにいたパーティメンバーの少女が小突く。

「何やってるのよ……早く仕事の契約を済ませなさい」

少女の名はセリナ。ボサボサの長い癖っ毛で、度の強そうなメガネをかけている。目の下の隈はいかにも不健康そうで、爽やかイケメン剣士とは全く釣り合っていなかった。

彼女の黒いローブに黒いとんがり帽子という服装は、典型的な魔法使いのもので、手首に嵌められた金のブレスレットは魔法大学を卒業したエリートの証だ。

セリナは辺りをキョロキョロと落ちつかなげに見渡す。目立つのが嫌いなのだ。

「もう……カイルのやつ、どこに行ったのよ……」


レオンのパーティメンバーの最後の一人、スカウトのカイルは、独りでホールの片隅のテーブルでお茶を飲んでいた。

全身黒づくめで、完全に周囲に溶け込んでいる。スカウトの習性で、ついつい気配を消そうとしてしまうのだ。

カイルはギルドの朝の喧騒をゆっくり見渡し、特に意味も無く観察していた。


すると、入り口から一人の少女が入ってきた。歳は14、5といったところで、真っ赤なロングヘアをツインテールにまとめていた。ヘソが丸出しの軽装鎧を身に着けて、腰に幅広のロングソードを佩いている。どうやら剣士であるらしい。

よく見るとお尻から細長いものが伸びている。尻尾のようだ。

ドカドカと足音を立てながら、まっすぐ受付へ向かい、大きな声で受付嬢にまくしたてた。

「おい、緊急の要件だ!人捜しを依頼したい!」

「緊急」という言葉に冒険者たちが反応した。騒がしかったホールが少し静まる。

「あたいの相方が拐われたんだ。多分、奴隷商だと思う」

少女の言葉にホールがざわつく。すると一人の髭を生やした中年の冒険者が少女に近づいた。

「運が悪かったな嬢ちゃん。悪いことは言わねぇ、とっととこの街から逃げな。見たところあんた半獣人だろ。お前も狙われるぞ」

「なんだと……!」

少女の尻尾がピンッと立った。中年冒険者を睨みつける。

「友達を見捨てて逃げれるわけ無(ね)ぇだろうが!」

中年冒険者は溜め息をつく。

「まぁ好きにしな。忠告はしたからな」

ホールに喧騒が戻る。誰も少女に近づく者はいない。何かに警戒するように距離を取っている。少女は俯いて肩を震わせていた。


カイルはちょっと気になって近くの冒険者の男に声をかけた。

「なぁ、みんな“奴隷商”って言葉に反応していたようだが、何かあるのか?」

「お前、この街の者じゃないな……」男はカイルに顔を寄せた。小声で話す。

「ここいらじゃ、奴隷商って言ったら一人しかいねぇ。ウラーべって奴だ……」

男の話によると、ウラーべは街でも有数の大商人であるらしい。

しかしそれは表の顔で、裏ではこの街を仕切る悪党のボスなのだそうだ。奴隷売買に高利貸し、金になることは何でもやる。

その金で領主や自警団を買収し、やりたい放題やっているのだ。

街のほとんどの人間がその事を知っているのだが、誰も手を出せないでいるらしい。

「これはあくまで噂なんだが、暗殺者ギルドにウラーべを殺すよう依頼をした奴がいたらしい。だがギルドごと壊滅させられて、依頼者も殺されて晒し者にされたそうだ」

男はそんな噂話も教えてくれた。

「まぁ下手に手を出さないほうがいいってことだ」

カイルは黙って茶を啜った。


周囲の態度に意気消沈しているツインテールの少女にギルドの受付嬢が声をかけた。

「とりあえず依頼を受け付けましょうか? 引き受けてくれる人がいるかはわかりませんが……」

そこへひょいと割り込んだ奴がいた。

レオンだ。髪をかき上げるお得意のポーズで話しかける。

「ちょっとそこのツインテールが可愛いお嬢さん、その依頼、俺が引き受けようか?」

子供相手でもいつもの調子を崩さない。さすがである。

そんなレオンを訝しむ少女。

「……」黙ったまま不審そうにレオンを見つめる。

レオンは、後ろにいたセリナが何か言いたそうにしているのを無視して話す。

「どんな事情があるかは知らないけれど、なんか他の冒険者は引いちゃってるみたいだし……やっぱり勇者としては困ってる女の子を放っておけないよね」

「……勇者?」

少女が反応する。

勇者とは女神の加護を受けた選ばれし存在。魔王を倒す使命を帯びた者。この世界に一人しかいない真の英雄。ということになっている。

「本物なの?」

「嘘で勇者を名乗ったら厳罰だよー。聖女神教会に処刑されちゃうぜ」

再びギルドホールがざわつく。さっきまでの比ではない。

「おい、アイツ勇者だってよ!」「マジか!初めてみた!」「本物なのか?ずいぶんと若いな」「勇者でイケメンとかムカつくんですけど」

冒険者たちの興味はすかっりレオンが持っていかれてしまったようだ。

「レオン! 簡単に勇者って名乗らないでって言ってるでしょ……!」

周囲の注目を浴びて、セリナは恥ずかしそうに帽子を深くかぶった。

ツインテールの少女はしばらく呆然とした様子だったが、不意にぎゅっとレオンの腕を掴んだ。

「お願い! 助けてくれるのなら何だっていい! 報酬はなんとかするから、あたいと来て!」

レオンは少女の頭を優しく撫でた。

「心配しないで、お嬢さん。 俺たちに任せてくれれば何も問題はないからね~」

そして周囲を見渡すと大声をあげた。

「カイル! その辺で聞いていただろ! 急ぎの仕事だ! とっとと行くぞ!」


**********


とりあえず誘拐の現場に行ってみることにして、レオンはセリナ、カイルとともに少女を連れて冒険者ギルドを出た。

場所は南門から出て少し先の山道とのことだった。

道すがら、少女から詳しい話を聞いてみる。


「あたいの名前はチャコ。見ての通り剣士だ。まだ駆け出しだけど、ちゃんとギルドに冒険者登録もしているんだぜ」

腰の剣を叩いて見せるチャコ。尻尾がぴょこぴょこと動いている。セリナは気になって聞いてみた。

「……その尻尾、あなた獣人なのね?」

「ああ、半分だけだけどね! ほら耳は人間だろ? 半獣人は時々あたいみたいに中途半端に特徴が出ることがあるんだ」

確かにチャコの耳は人間と同じだ。

「まぁそのせいで、獣人からも人間からも疎まれることがあるけど、あたいはあまり気にしちゃいねぇよ。ただ——」

チャコの声のトーンが低くなる。

「エビーカの場合はちょっと……いや、聞かなかったことにしてくれ。会えばわかるし……」

「エビーカ? それが拐われたという友人か?」カイルが訊ねる。

チャコは少し黙ると、意を決して話し始めた。

「あたいとエビーカは同じ孤児院の出身でね。小さい頃から一緒だった。あたいたちは半獣人だったから、人間とも獣人とも折り合いが悪くてね。よくいじめられていた。だから二人で頑張ってきたんだ。

 あたいは獣人の身体能力を活かして剣士になろうと修行した。エビーカはとても耳がいいから、それを活かしてスカウトの勉強をしていた。

 それで少し前、ついに孤児院を出て二人で冒険者になったんだ。

 あたいらは簡単な仕事をいくつかこなして、割と順調なかんじだった。だけど……」

チャコが声を詰まらせる。セリナは優しく頭を撫でてあげた。

「……昨日、簡単な採取の仕事を終えて帰る途中だった。罠が仕掛けられていたんだ。あたいはドジだから引っかかりそうになっちゃって……

 そしたら、罠に気付いたエビーカが飛び込んで、あたいを庇って代わりに罠に……」

涙をぐっとこらえ、前を見据えて話を続けるチャコ。

「アイツら、盗賊じゃなかった。最初から生け捕りにしようとしていた。奴隷狩りの連中で間違いない。

 あたいは必死に抵抗して、なんとか逃げることができたけど、エビーカを助けられなかった……。

 あたいがもっと強かったら、こんなことには……!」

怒りに震えるチャコの肩を、カイルがそっと叩いた。

「強いな、君は。ちょっと感心しちゃったぜ。こんな目にあっても、臆せずにしっかり前を向いて戦おうとしているなんてね」

レオンはウンウンと大仰に頷くと、

「なぁに、安心していいさ! 奴隷狩りの悪党どもなんて、この勇者レオンの敵ではないからね!」

髪をかきあげ、不敵な笑みを浮かべて見せる。

チャコはちょっとだけ笑った。


**********


それから数時間後。

目的の山道まであと少しのところまで来た時だった。

先行して偵察していたカイルが戻ってくる。カイルの真剣な顔つきにメンバーに緊張が走る。


「緊急事態だ。この先で、隊商が襲われている。かなり大規模な襲撃だ」






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