ゴーレム
地下六階への入口は中々見つからない。ルミナスにも協力してもらっているが、まだ朗報はない。
まぁ以前の探索者が見つけられなかったのだから簡単ではないと思っていたが……
これは年月が経ったことで、出入口付近が完全に埋まってしまっているのかもしれない。坑道はただでさえ崩れやすいからなぁ。
「ふぁ~、なかなか見つかりませんねぇ」
フォウナがあくびを噛み殺しながら呟く。元々探索向きの性格でないから、結構前からすっごい退屈そうだ。
仕方がない、方針を変えるか……。
俺は足を止めてフォウナを制止する。辺りを見回し、地に伏せて何かを探している振りをする。
そして立ち上がって言った。
「この下に何かあるのを感じる。さらに地下があるかもしれない。掘ってみよう」
本来、ダンジョンで安易に掘削するのは禁止事項だ。冒険者が近道を作ろうとした結果、大崩落する事件がたびたび起きている。
けれど、今回は小ルミナスのサポートで地盤の安全性もわかるし、100%の確率で下にゴールがあることもわかっている。
まぁ忘れられたダンジョンだし、ちょっと大目に見てもらおう。
俺たちは前の冒険者が放置していった、つるはしやらシャベルやらを拾ってきて穴を掘り始めた。
「なるほど、道がない時はこうやって作るんですね~」
力自慢のフォウナは活躍の場を得てやる気満々だ。なんか勘違いしたことを言っているが、今後ダンジョン探索の機会などなさそうだし別にいいだろう。
フォウナが地面を掘り返し、俺が出てきた土砂を掻き出す。あっという間に俺たちの身長よりも深い穴が出来てしまった。
小ルミナスが状況を教えてくれる。
『あと少しで下の階の天井に当たるわよ。その下は多分廊下ね。ぶち抜いても問題ないと思うわ』
(了解、少し慎重に掘ろう)
俺はフォウナに声をかけようとしたが——
「おや、少し硬いですね」そう言って、つるはしを思い切り振りかぶるフォウナ。
「あ、止め……」
ドガッ!……ガガガガッ!
フォウナの一撃が石に突き刺さると、足元から地響きが。 地下六階の天井が崩壊したのだ。
「うわわっ!!」
穴の底が抜けてしまい俺たちは大量の土砂と共に落ちた。まぁ大した高さではないので問題はないが、ひどい土埃だ。
フォウナがゲホゲホとむせる。
そこは石のブロックで作られた廊下だった。崩れた天井の穴から、上に置いた松明の明かりが漏れているだけなので、かなり暗い。
だが、五階と違ってきれいに仕上げられた通路になっているのがわかる。
ドワーフの名工が作ったという話の信憑性が増してきた。ワクワクする。
「これはまた、ずいぶんと雰囲気が違う場所ですね……」
フォウナも興味津々のようだ。
あらためて荷物を整理し、それぞれ松明を持った俺たちは六階の探索を開始する。
『やっぱり明るいとわかりやすいねっ!』
小ルミナスが俺の周りを飛び回っている。かなり鬱陶しい。
フォウナが側にいるときは見えてないふりをしてなきゃいけないから、こういうことは止めて欲しい……。
(おいルミナス!とっとと工房探してこい!)
『一人で飛び回るのは飽きたわ。しばらくは一緒にいる~』
まったくこいつは……!
きれいに整えられた石造りの廊下は数百年以上放置されていたはずなのに全然壊れていない。すごい技術だ。
ただ、壁も床も天井も、何の装飾もなくただ整然と同じ石ブロックで敷き詰められている。あまりに変化がなくて、歩いていると距離感がおかしくなりそうだ。
これは狙ってこういう作りにしてるのかもしれない。トラップが仕掛けられている可能性もある。慎重に行こう。
廊下の先が広くなっている。天井も少し高い。ホールのようだ。
俺が先行して中に入る。数歩進んだところで足元に違和感。
これは……魔法系のトラップ?! さっきまで何も感じなかった床のブロックに明らかな魔力反応が発生している!
俺は瞬時にバックステップでホールを脱出。
床を見ると、俺が踏んだブロックがわずかに沈んでいる。こんな初歩的なトラップに引っかかるとは不覚だ……!
踏んだブロックから光のラインがはしり、ホールに巨大な円を描いたかと思うと、内側に複雑な文様が浮かび上がる。
かなり大掛かりな魔法陣だ!! 一体何が起きる?!
周囲全体が振動し、ギシギシと耳障りな音が響いたかと思うと、床のブロックの一つが持ち上がり宙に浮いた。
呼応するかのように、次々とブロックが浮かび上がる。床だけではない。壁や天井からも複数のブロックが飛び出して浮かんでいる。
そして、浮かんだブロックはホール中央へ集まり、凄い速さで積み上がっていく。
これはもしや……ストーンゴーレム、なのか?!
ホールの中央に現れたのは複数の円柱だった。中央に天井に届きそうな太い円柱が一本あり、周囲を、一回り細いが、それでも一抱えはある円柱が三本、空中に直立した状態で浮いている。それらは中央の柱をゆっくりと周回している。
「カイル、これは一体何でしょうか……?」
ただならぬ威容にフォウナも緊張を隠せない。
「これは多分、ゴーレムの一種……」
俺がフォウナに説明しようとしている間に、回転する柱の一本が水平に角度を変えたかと思うと、物凄いスピードでこっちへ突っ込んで来る!
「避けろっ!!」
左右に飛び退いた俺とフォウナの間を、唸りを上げて石柱が通り過ぎる。
まるで破城槌だ。あの重さとスピードでは、当たったらただでは済まない。
飛んでいった石柱は壁際でターンすると、同じ位置まで戻った。
「拠点防御用の兵器型ゴーレムか!! これはやっかいだな……。一旦引こう」
俺たちは廊下を少し戻り、ゴーレムの様子を窺う。
移動は出来ないらしく、部屋の中央で柱が回転し続けているのが見える。
「すごいですね! あれはたとえグリムを身に着けていたとしても耐えられるかわかりません!!」
興奮したフォウナが嬉々として話しかけてくる。彼女が楽しそうなのはいいが、これはどうすればいいのだろうか。
「あんなのがいるということは、工房はあの先で間違いなさそうなんだけどなぁ……」
ゴーレムには俺の得意な小手先の誤魔化しが通用しない。
悩んでいると、小ルミナスがホールから飛んできた。ゴーレムを調べていたようだ。
『ねぇカイル、アレの仕組みはわかったわ! 中々愉快な構造をしているわね~』
こっちもなんか楽しそうだな。真面目にやってる俺が馬鹿みたいだ。
(弱点とかあるの?)
『中央の柱の上、中心の部分に高い魔力を持ったブロックがあるの。アレがゴーレムを制御している魔力核ね。コアを破壊できれば当然停止するわ。』
なるほど、ゴーレムのコアか。けれど攻防一体の回転する柱を何とかして、コアを攻撃するのは相当面倒だぞ……。
『ふふふ……当然そう思うわよね……』
意味ありげに笑う小ルミナス。
『それがアイツの作戦なのよ。わざと弱点を作ってそこに誘っているの』
(えっ?!)
『確かにコアはゴーレムを制御しているけど、コアだけで全部をやっているわけじゃないの。わかりにくく偽装はしているけど、部屋の各所に制御をサポートする魔法陣が仕込んであるわ。コアがわかりやすい位置にあるのは、そっちに意識を向けさせないためね』
そういうことか。ならそっちの魔法陣をどうにかすればいいわけだ。
俺はルミナスに教えてもらったことを、さも自分が気付いたかのようにフォウナに説明した。
「さすがカイル! こんな短時間で見破るなんて凄いです~!」
滅茶苦茶感心しているフォウナ。
うぅ、本当は俺もわかってないのだから、あんまり褒めないで欲しい……。恥ずかしすぎる……!
**********
さて、準備もできたしゴーレムを攻略するとしますか。
部屋の外からゴーレムの様子を伺う。俺たちの接近を感知して浮遊する柱の回転が目に見えて速くなった。
「行きます!」フォウナがホールに飛び込む。
硬いストーンゴーレム相手に剣は役に立たない。それどころか剣が傷んでしまうので、ここは徒手空拳で勝負する。
フォウナがダッシュで本体に近づくと、一本目の柱が軌道を変えて突っ込んでくる。
身を翻してかわすが、すぐに二本目の柱が迫り、バックステップでさらに距離を取るフォウナ。
「やはり簡単には近寄らせてくれませんね……」
フォウナが柱の相手を始めた隙に、俺は壁際を駆け抜ける。狙いは天井の四隅に仕掛けられた魔法陣の無力化だ。
最初の魔法陣には苦もなく辿り着いた。俺は小さな金属板を取り出すと、魔法陣の仕掛けられたブロックに貼り付ける。
これは対魔法トラップ用のアイテムだ。魔力を乱す効果があり、魔法の発動を阻害する。魔法陣には効果テキメンだ。
俺の行動にゴーレムは即座に反応した。こちらが弱点に気づいていることに気づいたのだろう。
3本目の柱が俺を狙って飛んでくる。だがそんな攻撃は予測済みだ。俺は難なく躱して二つ目の魔法陣に近づくと金属板を叩きつけた。ゴーレムの動きが目に見えて遅くなる。
よし、いい感じだ。
このまま三つ目を無力化すれば勝てる!
すると突然、すべての柱が静止した。少し震えたかと思うと、いきなりそれぞれの柱が四つに分かれる。
いきなり十二本に増えただと?! これは予想外だ。
うち四本が俺に飛んで来る! 軽くなった分、速い!!
俺の周りを囲み、高速で波状攻撃を仕掛けてくる四つの柱。これは避けるので精一杯だ。
フォウナの方も八つになった相手に苦戦しているようだけど……
「ははは! 分割したのは軽率ですね! 攻撃が軽いです!」
フォウナは迫る柱の一つを軽くかわし、続く二つ目に蹴りを叩き込む。弾かれた柱は他の柱と接触して火花を散らす!
やはりフォウナは凄いな。問題なさそう。では俺も本気を出すか。
ゴーレムのような硬い相手に鋼糸は全く通用しない。こういう時は普通のロープだ。
俺は攻撃を交わしながら柱の一つにロープを掛ける。けれど俺の力じゃロープを掛けたくらいで動きを止めることは出来ない。
柱に引っぱられながらも、別の柱にさらにロープを引っ掛けて素早く結ぶ!
俺はさらにロープを掛けて、四つの柱を一つに繋いだ。繋がれることなど想定されて無いらしく、互いにぶつかり合ってうまく動けなくなっている。
はっはー! 俺の作戦勝ち~!
こうしてしまえばもう脅威ではない。俺はあっさりと三つ目の魔法陣に近づき、無力化した。
柱の動きが更に悪くなる。
「フォウナ、やれ!」「はい!」
フォウナはスピードが鈍った柱の一つに飛び乗ると、次々に他の柱を足場にして、本体である中央の柱の上まで跳んだ。
コアの上に立ち、拳を構える。柱が一斉にフォウナへ向かうが、フォウナの方が速い!
「はぁぁっ!!」
気合とともにフォウナの正拳がコアに炸裂する。ビシッと亀裂が入りコアはきれいに二つに割れた。フォウナに迫っていた柱が、力を失って次々と地に落ちる。
派手な音を立てて、全ての柱がバラバラに崩れていった。もう動く気配はない。ただの石のブロックに戻ったのだ。
「ゴーレムのコアを素手で叩き壊すとはさすがフォウナ。良い一撃でした」
俺は感心してパチパチと拍手する。
「いえいえ、カイルが弱体化させてくれたおかげです。最初の状態では近づけなかったですよ~」
笑顔で健闘を称え合っていると小ルミナスが話しかけてくる。
『ちょっとぉ~! 一番の功労者は弱点を教えた私じゃないの~?』
(お前は割り込むなよ。反応できなくて困るんだから)
俺はフォウナに気づかれないように、手で小ルミナスを追い払う。実態が無いから払えるわけではないのだが。ついやってしまうな……。
『ちぇ~、つまんないのー!』
ふくれっ面でぶーたれる小ルミナス。小さいルミナスは本当に子供っぽいなぁ。
さて障害も無くなったことだし、探索を再開するとしますか。




