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決着

フォウナはレオンから奪った剣で、ナイフで切りかかってくる二人の賞金稼ぎを軽くあしらっていた。

勇者レオンの剣はなかなかの物だ。剣として出来が良いのに加えて、筋力強化、速度上昇、感覚鋭敏化など、いくつかのバフがついている。

(しかし重量軽減のバフは余計だな。これでは威力が落ちるし、軽すぎて扱いづらい)

そんな事を考えつつ、カイルとレオンの様子を伺う。

レオンは刀で鋭く連続攻撃を繰り出し、カイルはそれをのらりくらりと回避する。

そうかと思えば、カイルが唐突にありえない動きとスピードで攻撃に転じ、ナイフと鋼糸で襲いかかる。

(すごい……。なんなの、あの動きは……!)

フォウナはカイルの動きに感動していた。

同じ剣士であるレオンの動きも凄いものであったが、理解はできる。

けれど、カイルの見せる体術はフォウナにはまったく信じられないものだった。

まるで宙を泳ぐように自在に軌道変え、ありえない停止をしたかと思えば、超高速に移動する。

舞うように戦う姿には美しささえ感じられた。

(素晴らしい! 滅茶苦茶かっこいい!!)

これまでカイルのことは、ちょっと三枚目なところが可愛くて好き、などと思っていたフォウナであったが、その認識は完全に変わりつつあった。


**********


レオンは少し焦りを感じ始めていた。

直接戦えば必ず勝てる、そう信じていたが、カイルは想像以上に強かった。

(こうまで戦いづらい動きだとはな……)

カイルの高速機動術はよく知っているつもりだったが、実際に相手にしたのは初めてだった。

そして、間合いを見切って最小限のダメージに止めたものの、ホーンにバッサリと斬られた傷は軽くはない。出血は続いている。

このまま長引けば体力が持たない。

だが、カイルの弱点も知っている。

高速機動術は多大な集中力を必要とする。このまま使い続けることはできないはず。

(あいつの集中が切れるのが先か、俺が失血するのが先か……!)

レオンの集中力が高まり、冷静さが増してゆく。


だが……、それがレオンの敗因となった——


レオンの渾身の突きをギリギリで躱すカイル。その表情は必死でありながらどこか楽しげで……レオンのよく知る、幼馴染で大親友の顔だった。

(俺は、親友(カイル)に何をしている?)

レオンの脳裏に疑問が浮かぶ。

冷静になり、怒りが多少収まったことで、逆に迷いが生じてしまったのだった。


ほんの一瞬の躊躇だった。

突きを繰り出した手が止まった。身を退くのが遅れ、鋼糸が絡まる。


刀を握る右手首が飛んだ。


さらに下半身に衝撃が走り、バランスを崩し倒れる。右足の太ももが半ばで断ち切られていた。

(負けた……のか? 勇者である、この俺が……)

宙を仰ぎ、呆然とするレオン。痛みはあまり感じていなかった。

あまりにも受け入れがたい現実に、頭が真っ白になる。何も考えられない。

「無様だな……」

カイルが無表情に自分を見下ろして呟くのを、レオンはまるで他人事のように聞いていた。


突然、それまで様子を見ていたホーンが飛び込んでくる。落ちている刀に手を伸ばすが、カイルが蹴り飛ばす方が速い。

「クソっ!」毒づきながらホーンはレオンを庇うようにカイルの前に立つ。

(何もかも失敗した。レオンも敗北した。カイルを甘く見すぎていた)

パンッと手を叩くホーン。フォウナと戦ってた二人が動きを止める。

「私たちの負けだ。今の状況でお前を捕まえることは無理だ。降参する」

両手を挙げて宣言すると、他の賞金稼ぎも武器を収めて下がる。

「そこでだ。虫の良い話だが、このまま逃げていってはくれないか?」

カイルはじっとホーンの顔を見つめる。死んだ魚のような目つきだった。

「まだやると言うなら……必死の抵抗をさせてもらうぞ……」

ホーンは背筋が凍るような寒気を感じながらもなんとか気丈に振る舞う。

カイルは大きく息をつくと、踵を返して歩き出した。

「行くぞ……」とフォウナに声をかける。

「はいっ!!」とやけに明るい声で返事をしてフォウナが後を追う。二人はそのまま部屋を出ていった。


二人を見送ったホーンはレオンを助け起こした。

「大丈夫か? 見事にやられたな……」

「…………」

レオンはまだ敗北から立ち直れていなかった。黙ってされるがままになっている。

「助けてやる。これは貸しだぞ? 私たちは負けたが、お前はまだ戦えるだろう?」

レオンは自嘲気味に笑った。

「何を今更……。手足を失った俺に何ができる……」

「?」

驚いてレオンの顔を覗き込むホーン。

「手足? 何を言っている? 大怪我だがそれくらい大丈夫だろう?」

「何をってそれは……」そう言ってレオンは自分の右手を見た。巻き付いた鋼糸が手首に食い込み、どくどくと血が流れ出てはいたが、ちゃんと繋がっていた。指も動く。

慌てて足を見ると、そちらも同様だ。激しく鋼糸にやられていたが、切断されてはいない。

「……まさか、幻(・)術(・)……?!」

騙された、という思いがレオンを正気に返す。

「カイルの奴、姑息な真似しやがって……!!」

ふたたび湧き上がる怒りに身を任せ、立ち上がろうとするができない。

「その失血で動けるわけがないだろう? 意識があるだけ大したものだ」

ホーンはポーチから大きめのガラス瓶を取り出すと、中身をレオンに飲ませた。

「非常用のハイポーションだ。……後でちゃんと代金は請求するからな」

失血が収まり、幾分か顔色も戻る。ゆっくりと立ち上がるレオン。

カイルが去った方を見つめる。

と、突然顔色が変わった。

「……そうだ……セリナ……セリナは……」

勢いよく走り出すレオン。ふたたび出血するのも構わず全力で廊下を駆け抜け、詰め所へと飛び込んだ。


そこにはカイルが言った通りの光景が広がっていた。

テーブルに突っ伏して動かないチェスタ。その近くで倒れているウェイン。

そして床に仰向けに横たわるセリナ。

――セリナの首には締められた跡がはっきりと見て取れた。

呆然と立ち尽くすレオン。

「やってくれたな、カイル……」

レオンの心が怒りに染まっていく。

カイルは超えてはならない一線を超えた。あれはもう、俺の知っているカイルではない。

もうアレ(カイル)を友と思うことはない。

(カイルは敵だ!絶対に殺す!)

静かに決心を固めたレオンの心はもう揺るがない。


遅れて部屋に来たホーンがセリナに駆け寄った。

「まだ息があるぞ!! 早くポーションをだせ!!」

ホーンの叫びにビクッと震えるレオン。

「そうか……生きていたのか。良かった……」

そう呟く声に、感情は籠っていなかった……。


**********


俺はレオンたちのいる部屋を出ると、脱兎の如く駆け出した。

フォウナが慌てて追いかけてくる。

「急にどうしたのですか?!」

「どうしたもこうしたもあるか!」

俺は階段を駆け上がり廊下を走り抜けて、とある部屋の前まで来た。賞金稼ぎたちが倉庫として使ってた部屋だ。

中に入ると大量の荷物と一緒に、俺が捕まえて縛り上げた賞金稼ぎが何人か転がっている。

俺は息を切らして追いかけてきたフォウナに言う。

「荷物をかっぱらってすぐ逃げるぞ!!」


レオンの相手をしている時は本当に生きた心地がしなかった。

勇者レオンは強すぎる。

ガチギレして冷静さを欠いていたのと、ダメージを受けていたのと、使い慣れない武器だったのと、さらには俺が亡霊の外套の効果で撹乱してたことなど、有利な条件が重なっていたからなんとかなったのだ。

俺の高速機動術はとにかく疲れる。集中力もそうだが、全身の筋肉フル活用なので負荷がきっつい。多用した翌日は絶対筋肉痛である。

もう限界寸前でぶっ倒れそうな中、紙一重のところで先にレオンが隙を見せてくれた。

最後は幻術まで使って、ダメージを割増して見せることで誤魔化すことで、どうにか勝てた。マジでギリギリだったのだ。

レオンは負けたことに相当ショックを受けてくれたみたいだから、今のうちに全力で逃げなければ。


俺たちは賞金稼ぎの荷物を漁り金目の物を集める。

魔声石に亡霊の外套、高級ポーションの数々に食料、貰えるものは貰う。

ついでに服や装備品なんかも、手持ちより良さそうなものは全部かっぱらう。

かなりの大荷物になったが、フォウナが「これくらいは平気です!」というので遠慮なく詰め込んだ。

それでも持てないものが大量にあった。本当は火でも放って全部灰にしたいところだが、それをやったら無力化して転がしといた賞金稼ぎどもが、焼け死んでしまう。それは流石に寝覚めが悪い。

とりあえず壊せるものは壊して、とにかく早く逃げる!


俺たちはあたふたと砦を抜け出すと、全力でその場から逃げ出したのだった。


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