レオン対フォウナ
ホーンとレオンの目の前で落とし穴の重い石の蓋が轟音とともに吹き飛んだ。
土埃舞う中、穴から軽々と飛び出してくる人影が一つ。
「おいおい……眠らせたんじゃなかったのかよ……」
レオンがホーンに毒づく。
「魔法であと数時間は眠っているはずだったんだがな……」
ホーンは驚きを通り越して呆れ気味だ。
「舐めてもらっては困ります。そう何度も同じ手は食いません。かけられるとわかってる魔法くらいレジストできますよ」
現れた人影――フォウナは余裕の笑みを浮かべて二人に相対した。
「そこそこ暴れたので穴の中で少し様子をうかがっていたのですが、勇者が来たようでしたので……」
レオンを睨みつけるフォウナ。さらに指差して言い放つ。
「あなたにはここで退場してもらいます。カイルは私が守ります!」
フォウナの宣言に一瞬驚いたレオンだったがすぐに怒りの表情に変わる。
「てめぇ……カイルを、舐めるんじゃねぇぞ!!」
意外な言葉に今度はフォウナが驚く。
「カイルはなぁ、俺が唯一認めるライバルだ。そこらの雑魚と一緒にするな!お前ごときに守られるタマじゃねぇよ!!」
レオンはロングソードを抜いて構えた。
「そこの賞金稼ぎ!お前は手を出すなよ!こいつには借りがある。少し俺の実力をわからせないとなぁ!!」
ホーンは頷くと、壁際まで下がった。
フォウナはレオンの気迫にただならぬものを感じて身構える。
「無手だからって容赦はしないからな!!」
一気に間合いを詰めるレオン。
すかさずフォウナはあらかじめ握り込んでいた小石を指で弾いた。
小石は弾丸のごとく正確無比にレオンの右目へと飛ぶ。
レオンは剣で防ぐが、剣が視界を遮る。その一瞬を逃さず、フォウナはレオンの懐に滑り込んでいた。
肘打ちでレオンの顎先を狙う。
だが、指弾を使われた時点ですでにレオンはフォウナの動きを予測していた。
余裕を持って躱すと、膝をフォウナの鳩尾に叩き込む!
カウンター気味の一撃を食らったフォウナは後ろへ転がって距離をとった。
素早く立ち上がるが、苦しげな表情は隠せない。
「スピードは速いが体捌きが甘いな。鎧の時のクセが抜けてないんじゃねぇの?」
余裕の笑みを浮かべるレオン。
フォウナは先手を取られては不利と、すぐにレオンに突っ込む。
掌打からの肘打ち、からの膝蹴り。しかし、フォウナの流麗な動きもレオンに通じない。全て捌かれた挙句、無防備な背中に強烈な肘の一撃が入った。
そのまま倒れるフォウナ……と思いきや、驚異的な踏ん張りでこらえ、レオンの顔面に頭突きをぶちかます!
流石によろけてしまうレオン。少し鼻血が出ていた。
「あらあら、美男子が台無しですね」
今度はフォウナが挑発する。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ……」
レオンは血の混じった唾を吐き捨てると、手にしていたロングソードを石畳の床に突き立てた。
左右の拳の骨をボキボキと鳴らす。
「素手喧嘩だぁっ!! かかってこいやぁぁぁ!!」
ホーンは素手の殴り合いを始めた二人を半ば呆然と見ていた。
二人の技の応酬は凄まじく、自分に割って入る余地はない。
そもそもホーンの得意とする居合は不意打ちの技術で、正面切って戦うには不向きなのだ。
ため息をつきながら、ハンドサインで仲間たちに合図を送る。
(今はまだ動くべきではない。少なくとも二人の決着がつくまでは)
レオンもフォウナも気づいていなかったが、実は今この部屋にはホーン以外に五人の賞金稼ぎがいた。
姿を消せる亡霊の外套を使って隠れて様子をうかがっているのだ。
さらにホーンは魔声石で部屋の外と連絡を取る。
……反応はなかった。何人かと連絡を取ろうとしたが、誰も答えない。
(魔声石の故障?あるいは何かの妨害?それとも……全員倒された?!)
ホーンの額に冷や汗が滲む。最悪の展開だった。
(すでにカイルはどこかに潜んでいて、人質の脱獄や勇者来訪のごたごたの隙に、全員無力化されたのか……?)
あわてて周囲を見回すが、レオンとフォウナ以外誰も見えない。
(くそっ!何を焦っている……!見えるところにいるはずがないだろうがっ!)
自分の間抜けな行動に呆れてしまう。
(それに応答のない仲間には亡霊の外套を持っている者もいた。カイルが奪っている可能性は高い。元々隠密スキルの高いカイルが使ったら、見つけられるわけがない)
落ち着いて思考を巡らせようと努力するホーン。しかしもうそんな余裕は無い。やけくそ気味に叫ぶ。
「気をつけろ!カイルはすでにこの部屋にいるっ!」
レオンとフォウナの殴り合いは、あきらかにレオンが優勢だった。
フォウナは自分の不甲斐なさに打ちのめされていた。レオンは想像以上に強く、フォウナはもう何発もきつい攻撃を食らってるというのに、ほとんど有効打を入れられずにいた。
気力でなんとか持たせているが、立っているのも辛い状態だった。
(こうして殴られるとよくわかる……これまでいかに自分が鎧に頼っていたのか……)
フォウナの家に代々伝えられてきた魔法の鎧、グリムは装着すれば自身の魔力と一体化して、重さを感じることなく自分の体のように動かすことができた。
それ故、その力を自分の力のように感じていたのだった。実際はどれだけその硬い装甲に守られてきたのか、それを思い知らされていた。
(この有様でカイルを守るだって?勇者が怒るのも無理はないな……)
自嘲気味に笑うフォウナ。すると――
「気をつけろ!カイルはすでにこの部屋にいるっ!」突然ホーンの声が響く。
動揺するフォウナ。動きが鈍る。しかし対するレオンは全く動じなかった。
ドスッ!
フォウナの体が宙に浮く程の強烈なボディブローが炸裂する。
さらに倒れかけたフォウナのこめかみにレオンの回し蹴りが迫る。
……避けられない。フォウナは朦朧とする意識の中、負けを悟った。しかし――
すかっ……
しかし、レオンの回し蹴りは空を切った。
「……!!」
すばやく後ろへ跳んで距離を取るレオン。
座り込んだフォウナの横に不自然な揺らめきがあった。
「ようやく姿を見せたな、カイル……!」
レオンの言葉に反応するように揺らめきが翻り、カイルが姿を現した。




