↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/27

セリナ

ホーンとレオンは二人で廊下の先へと進む。少し広めの部屋に出た。

ホーンは部屋の真ん中で急に立ち止まり、レオンに言った。

「ここだ」

「?」

レオンはあたりを見回してみたが特に何もない。

「女は牢屋に入れてるんじゃなかったのか? それとも……

 俺と手合わせでもする気か?」

腰の剣に手をかけるレオン。ホーンは首を振って否定する。

「そんな気はないから安心しろ……

 実は脱獄されてしまってな……。トラップで再度捕らえたんだ。今はそこの落とし穴の底で眠っているはずだ」

床の一角を指して答えるホーン。レオンが笑い飛ばす。

「ははは、グリムならやりかねんな」

「グリム……さっきもそう呼んでいたな?何者だ?」

「一度口を滑らせたからな。今更隠してもしょうがないし、お前らも正体を知っていた方がやりやすいだろう。

 このことは王国の機密情報だから、あまり広めたりはするなよ。

 あいつは魔王軍四天王の一人、黒鋼の処刑人グリムだ。俺がこの間、倒したことになっている奴だよ」

「!!」

驚愕するホーン。目元を抑えて首を振る。

「そうか、四天王グリムか。道理で聞き覚えがあったはずだ……。巨大な漆黒の鎧に身を包んだ戦士と聞いていたが、まさか中身があのような少女だとは……」

(それならば天井をぶち抜くパワーも当然か)と納得する。

「……どうもカイルが命を助けたらしい」

レオンがボソリと呟いた。ホーンは大体の状況を察し、溜め息をつく。

(なるほど、それがカイルが追放された理由か……。レオンが怒るのも無理はない)


そんなやり取りをしていると、突然ズンッと低い音が響き、床が振動する。

二人に緊張が走る。

(カイルが何か仕掛けてきたのか?それとも……)

あわててホーンが部屋を見回すと、隠されていた落とし穴の蓋が少し持ち上がっている。

「まさか?!」

ドッガァァァンッ!

次の瞬間、轟音とともに重い石の蓋が吹き飛んだ!


**********


「やっぱりこんなところで待つなんて納得いかないわ!」

チェスタは狭い詰め所を落ち着かない様子でウロウロしていた。

レオンに言われて引き下がったが、やはり待っているのは性に合わないようだ。

「チェスタ様、落ち着いてください。まずは様子を見ましょうよ。」

ウェインがなだめるがチェスタは聞く耳を持たない。

そんな二人を見てセリナが溜め息をついていると、扉をノックする音が響いた。

「失礼します」

挨拶して入ってきたのは一人のメイドだった。湯気の上がるヤカンと、いくつかの粗末なカップを持っている。

「お茶をお持ちしました。こんな場所なので大したものではありませんが、どうぞ」

突然現れたメイドにチェスタはズカズカと詰め寄る。

「あなた何よ!何でこんなところにメイドがいるわけ?!」

「ごめんなさい、雑用のために連れてこられたんですぅ~」

情けない声を上げるメイド。

「あたしもまさかこんな仕事だとは思っていなくて……いい給金が貰えるから引き受けたんですけど、みんなおっかない顔してるし、さっきはドカンドカンと凄い音がしていたし……」

メソメソと泣き出してしまう。

「ああ!ごめんなさい!あなたを責めるつもりはないのよ!?」

チェスタは慌ててメイドを慰めた。

ウェインがメイドからヤカンを受け取り、テーブルにカップを並べてお茶を注ぐ。

「とりあえず、お茶でも飲んで一休みしましょう。ね?」

ウェインが椅子に座るとメイドとチェスタもそれに倣ったが、セリナだけは動かなかった。

「私はいいわ」そう言ってそっぽを向く。


「少し変わった香りのお茶ですのね……独特の甘みがあって美味しいですわ」

一口飲んで、チェスタが呟いた。

「本当だ、おいしいです!」ウェインも続いて飲む。

メイドはカップを手に取って立ち上がると、セリナに近づいた。

「これ、あたしの地元では飲まれてるお茶で、いつも持ち歩いているんです。あなたもどうですか?」

セリナにカップを渡す。セリナはカップを見つめるが飲みはしない。

「この香り、よく知っているわ。私の故郷近くの森に生えている薬草でね。子供の頃、よく摘みに行ったものよ……」

匂いだけ嗅いで目を閉じる。


「鎮静効果のあるお茶として飲まれてたけど、ある程度濃くするとあっという間に人を眠らせちゃう睡(・)眠(・)薬(・)と(・)し(・)て(・)使(・)え(・)る(・)のよね」


コーンッと室内にカップが落ちる音が響く。チェスタがテーブルにうつ伏せに倒れた。ウェインはすでに座ったまま意識を失っているようだ。

セリナは目を開き、メイドを睨みつけた。


「どういうつもりなの? カ(・)イ(・)ル(・)!!」


**********


少し前。


俺は調理場に忍び込んで、隠れていたメイドを気絶させて衣類を奪い、得意の変装術でなりすまして、砦内を歩き回っていた。

レオンが突然来訪したことで多少混乱していたこともあって、俺の変装がバレることはなかった。

片っ端から賞金稼ぎ共を、お茶で眠らせたり隙をついて気絶させたり、行動不能にしていった。

ついでにセリナたちも眠らせようとしたのだが……


「やっぱりセリナには気づかれたな……」

俺は大げさに肩を竦めてみせると変装を解いた。

メイド服を脱いで、スカートの中に隠していた自分の装備を身につける。

セリナはその様子をじっと見ていた。


「そっちの二人がお茶を飲むのを止めなかったということは……」

着替え終わった俺は、ゆっくりと椅子に座る。

「俺と二人で話がしたい、そういうことなんだろ?」

そう言ってセリナにも椅子を勧める。


俺は前々から、“セリナには俺と話をする気がある”という確信があった。長い付き合いなのだ。セリナの性格はよく知っている。

機会さえ作れば絶対応じてくれる、そう信じていた。

案の定セリナは黙ったまま席についた。テーブルを挟んで見つめ合う。

「……相変わらずニヤけた顔をしているわね……。真剣なこっちが馬鹿みたいだわ」

ため息交じりに呟くセリナ。

「そっちも相変わらず気苦労が多いようで」

ヘラヘラと気楽に言葉を返す。

セリナはそんな俺を見つめると寂しそうに笑った。

「あなたが元気そうで良かったわ。あれから私がどれだけ心配したか……」

セリナの瞳が潤んでいる。

うう、こういう雰囲気は苦手だから、わざと明るく振る舞っていたのだが……

「もう、一体どうしちゃったのよ……。追放とか裏切りとか、突然過ぎて全然訳がわからないわ……」

大粒の涙を溢れさせるセリナ。

「ごめんなさい! 俺が悪かった……。俺のせいって訳ではないんだが、とにかくごめん!!」

テーブルに額を打ち付ける勢いで頭を下げて謝る。

まったくあのルミナス(ボケ女神)のせいで散々だ。セリナにこんな思いさせやがって……!

「……変わらないわね。やっぱり私の知ってるカイルだ」

べしょべしょに泣きながら笑うセリナ。

畜生、胸が痛む。

俺はヤケクソ気味に叫ぶ。

「実はな、◯◯は◯◯◯で、◯◯◯◯で後から◯◯◯◯◯◯◯◯たんだ!」

当然、ルミナスの呪いで肝心な言葉が出ない。

びっくりして目を丸くするセリナ。「何よそれ……」

俺はもう一度、同じことを叫ぼうとする。しかし——

今度は一言も発せずに息が止まる。まったく身動きができない。

『勘の鋭いセリナなら、同じことを繰り返すことで“事情を話すことができなくなってる”と気づく、などと考えましたね?』

硬直する俺の頭の中にルミナスの声が響く。

『セリナなら気づくはず、などという思いがある限り、あなたは何もできません。諦めなさい』

確かに頭の良いセリナなら、俺の行動に異常があれば、そこから何かに気づく可能性はある、と思っている。

ルミナスのかけた鍵(呪い)のせいで、俺がそう思っている限り、セリナが異常を感じるような行動はできない、ということか。


……じゃあ適当な嘘でこの場はごまかそうか。


けれど、それでも、もしかしたらセリナは……


「……!」


何も喋れない。口を開き、声を発することができない。


セリナは頭が良く、感が鋭い。何をやっても答えにたどり着いてくれる気がする。

もしや俺の思考のゴールに“セリナなら気づいてくれるかも”がある行動は全て不可能なのか?


なら、今、どんな行動ならできる?


セリナが真実に近づく行動が出来ないなら、逆に裏(・)切(・)り(・)を(・)信(・)じ(・)さ(・)せ(・)る(・)行(・)動(・)なら可能なのか?


そんな思考がよぎった。


俺は……ゆっくりと……


ヤメロ!


セリナの細い首に……手を……


ヤメロ!ヤメロ!


親指で気道を潰……


ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!


気がつくと、足元にセリナが倒れていた。意識はないが生きてはいるようだ。呼吸音がおかしいのは気道を潰されかけたからだろう。


俺は、何をした……?


ギリギリと、奥歯が砕けるほどに歯ぎしりをする。手のひらに爪が食い込み、握った拳が血に濡れるのがわかる。


俺は、セリナを、幼馴染を、この手で、殺そうとした……?


怒りで思考が染まっていく。ここまで激しい怒りを感じるのは初めてだ。

「ルゥゥゥゥミィィィィィナァァァァァァァァァァァス!!」

俺の口から漏れる低い唸り声は、自分の声とは思えない酷い音だった。

小ルミナスが現れたかと思うと地面に激突する勢いで土下座する。

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!』

頭にルミナスの半泣きのような情けない謝罪の声が響く。

『ここここここんな事になるなんて、まったく思ってなかったですよぅ~!

 あくまでも私は、あなたの行動や思考に制限をかけただけ……!

 今回こうなったのは、他ならぬあなた自身が、これしか方法が無いと思い込んだ結果……だと思います……』


少しずつ、頭が冷めてくる。

「これは、俺の望んだことだと?」

握りしめすぎて力が入らなくなった手がブルブルと震える。

『そうではありませんが、そうでないとも言い切れません……』


……ようするに、セリナは俺の様子から真実に気づいてしまう。たとえ黙って立っているだけでも気づいてしまう。裏切りを信じさせ、真実を秘匿する方法は今すぐ殺すぐらいしかない。他ならぬ俺自身がそう考えてしまったから、その通りの行動をした。そういうことか……。


なんてこった。

俺は頭を抱えた。

セリナならわかってくれると考えたことがこうも裏目に出るとは……。


とにかく、今後は可能な限りセリナとの接触は避ける。その方針で行くしかない。

でないと、また同じことをやりかねない。


今は頭を切り替えて、フォウナの救出について考えなければ。


俺は三人を部屋に残し、急いで廊下へ出るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。