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緊急事態

(レオンが来たって⁈)

俺は焦って声が出そうになるのをなんとかこらえた。

(何で今まで気づかなかったの⁈)

なんかあたふたと宙を舞う小ルミナスを問いただす。

『仕方ないでしょ!砦を見るのに集中してたのよ! 近づいていたのは気づいていたけど、まっすぐここを目指してるとは思わなかったわ……』

これはヤバい。鉢合わせるのは避けなければ。今は急いで身を隠そう。

(……やはり、あの手でいくしかないか……。ルミナス、メイドは調理場にいるんだな?)

俺は確認を取ると、急ぎ行動を開始した。


**********


レオンたちは森でたまたま出会った狩人に気になる話を聞かされた。

近くにある放棄された砦跡に不審な人間が集まっているのだという。

新しい山賊の拠点になるのではないかと、近隣の住民が警戒しているらしい。

勇者として放っておける話ではない。

カイルを追うのは重要な任務であるが、困っている人を助けるのは勇者の重要な責務だ。

陽は落ちてきたが、幸い砦跡はそれほど遠くない。

山賊だったらぶちのめせばいいし、そうでないなら一夜の宿を借りよう。

そんな気楽さでレオンは砦跡に向かったのだった。


遠くに明かりが見え、砦が近いのが分かった。

「明かりを隠す気がないようだから、山賊の可能性は低いな……」

そう呟くレオンにチェスタ(エレーヌ)が問いかける。

「でもこんなところに集まるのは怪しいわ。なんかヤバい集団なんじゃないの?」

「隠れる気がないのは、後ろめたくはないってことだ。こっちも堂々としていれば問題ないさ」

一行はそのまま真っすぐ砦跡を目指した。


篝火が置かれた門の前には見張りらしい人影が二人見えた。何やら慌てた様子で話をしていて、レオンたちに気づいていないようだ。

「見たところ高級そうな装備をつけているな。思った通り山賊ではなさそうだ。話をしてみよう」

「えっ?ちょっとは警戒しなさいよ!」

セリナの静止も聞かずレオンは大胆に門に近づいていった。

「おーい!お前たち!何があった?」

そのあまりに堂々とした態度に見張りの男たちは一瞬戸惑ったが、すぐさま槍を構える。

「何者だ!それ以上近づくなら容赦はせんぞ!」

レオンは両手を挙げて敵意がない事を見せる。

「俺は旅の冒険者だ。名はレオン。勇者をやっている。聞いたことは無いかい?」

フレンドリーに話しかけるレオンに男たちは動揺する。

「勇者レオンだと……!なんだってこんな時に!」

「今は取り込み中だ!後にしてくれないか!」

構えた槍を下ろさず、レオンを威嚇する。

「まぁまぁ落ち着けって。もう暗くなっちゃったし、ちょっと中で休ませてくれないか?連れがいるんだ」

レオンは振り返って手を振って、セリナたちにこっちへ来るよう合図する。

「揉め事があるならついでに解決してやるからさ?」

にこやかなレオンの態度に兵士が躊躇していると、レオンはぐっと近づいて言い放つ。

「……入れろよ」

完全に脅しだった。レオンに睨まれ、一人が「ひっ!」と短い悲鳴を上げて腰を抜かして座り込んだ。

もう一人は、

「待て、許可を貰ってくる!」

そう言って慌てて門の中へと駆け込んでいった。

「ではお邪魔しますよー」

レオンはにっこりと笑うと、見張りが戻るのを待たずにずかずかと乗り込んでいく。

「勝手に入るわよ」「うちのレオンがすいませんね」「失礼します!」

後から来たチェスタ、セリナ、ウェインも呆然としている見張りに挨拶して続く。


門を抜けるとそこはコの字型の建物に囲まれた狭い広場になっていた。

右の棟が大きく壊れているのは何かの攻撃の跡だろうか。

見張りの男は正面の扉を開けて中に駆け込んでいく。

レオンがついて行こうとすると、何者かに呼び止められた。

「待ってくれないか?勝手に入られては困る」

右の棟の壊れた壁の影から男が現れる。吊り橋でカイルと戦ったカイゼル髭の男だった。

月灯りに照らされたレオンの顔をじっと見ている。

「本当に勇者レオンなのだな……。実に間が悪い。今回は見なかったことにして立ち去ってもらえると嬉しいのだが……」

レオンも男を見つめる。

「その髭面と腰の刀に見覚えがある。抜刀術とかいう妙な剣技を使う賞金稼ぎがいたな。お前だろう?」

「勇者に覚えられているとは光栄だ」

「その剣術に興味があったもんでね……すまない、名前は憶えていないんだ」

男は肩をすくめた。

「私の名はホーンという。まぁ忘れてくれて構わないが」

レオンは自虐的なホーンのセリフをスルーして言葉を続ける。

「賞金稼ぎのお前がここにいるということは、狙いはカイルか?」

ホーンはレオンの問いには答えず、ゆっくり語りかけた。

「……ここは黙って引いてくれるとありがたい。何せ10,000ゴールドという大金狙いだ。人員も予算もかけている」

「この騒ぎ、カイルがここにいるのか?」

レオンはホーンの言葉を無視して続ける。ホーンもレオンの質問には答えない。

「有名人のお前と違って、こっちは日々食べていくのに必死でな。賞金首(カイル)を譲ってくれるなら、多少分け前を渡してもいいのだが」

「カ(・)イ(・)ル(・)は(・)い(・)る(・)の(・)か(・)と(・)聞(・)い(・)て(・)い(・)る(・)っ(・)‼」

レオンが声を荒げる。一気に緊張感が高まる。

「……交渉は無駄のようだな……」

ホーンはため息交じりに呟いた。観念したようだ。

「……カイルはいない。だが、連れの魔族を捕らえてある。助けに現れるのを待っているところだ」

「何だと?! グリムを捕らえただって……?!」

その言葉に驚愕するレオン。思わず大声を出してしまう。

(グリム?あの女魔族の名前か?どこかで聞いたような気はするが……)

ホーンが訝しんでいるとウェインがレオンに声をかけた。

「レオンさん、駄目ですよ。あの件は一応秘密なので……」

「……そうだったな……」

四天王グリムが生存していることは他言無用であると王国から釘を刺されていた。

「本当にあの女を捕まえましたの?あいつはカイル並みにやっかいでしょうに」

後ろからチェスタが口を挟んでくる。ホーンは苦笑しながら答えた。

「お前たちはあの魔族を知っているのだな。確かに滅茶苦茶なやつだったよ。計画を台無しにされた」

「ふん。舐めてかかるからだ」

レオンが鼻で笑う。

「……」

ホーンはしばらく黙り込むと、意を決したように話し始めた。

「正直な話、あの女魔族が暴れたせいで、現状ではカイルを捕まえられるかどうかわからない。なので、あなたに協力してもいいと考えている。

 しかし、これまでにかなり予算をかけてしまっている。見返りが欲しい」

「俺たちは金のために動いているわけではない。お前ら賞金稼ぎと一緒にするな。金が貰えたら好きなだけくれてやる」

即座に返すレオン。

「……口約束だけでは信用できない。誓約書を書いてもらうぞ」

ホーンは努めて冷静に返す。

レオンについてくるように促すと、砦の中へ入っていった。

「ふん、賞金稼ぎめ……カイルとの決着の邪魔をするなら許さないからな……」

「ちょっとレオン、熱くなりすぎよ。カイルが気になるのはわかるけど、賞金稼ぎの人たちは敵ではないわ。もう少し冷静に……ね?」

セリナがレオンを落ち着かせようと声をかけたが、「うるさいっ!」とレオンは一喝して砦へと入っていった。

「セリナさん、心配しなくともレオンが賞金稼ぎなんかに遅れをとる訳ありませんわ!」

チェスタはセリナに声をかけるとウェインと共にレオンの後を追う。

「レオン……カイル……」

セリナは悲しげに呟くとトボトボと広場を後にした。


**********


レオン一行とホーンは簡単な誓約を交わした後、人質(フォウナ)の捕らえられていた牢屋の方へ向かっていた。

牢屋は砦の地下にあった。狭く薄暗い階段を降りるとジメジメとしたカビの匂いが充満しているのがわかる。

「ひどい空気ね……長居はしたくないわ」

チェスタ(エレーヌ)が文句を言うと案内してきたホーンが笑う。

「この程度で音を上げるとは冒険者らしくないな。新人か?」

「ふん!それが何だって言うの!バカにしないでよね!」

プリプリと怒るチェスタ。ウェインがすみません、と頭を下げた。

ホーンは苦笑して階段脇の扉を示した。

「ここは警備兵の詰所だった部屋だ。レオン以外はここで待っていて貰いたい」

「そんな……!」

すぐに文句を言おうとしたチェスタをレオンが制する。

「こっちが後から押しかけたんだからしょうがない。こいつらの都合もあるだろうしな」

押し黙るチェスタ。さっさと扉を開けて中を確認していたセリナが二人に声をかける。

「ここは大人しく指示に従いましょう。部屋の中は幾分か空気がマシよ」

渋々と部屋に入るチェスタにホーンが声をかける。

「すまないな。後で茶でも持ってこさせるとしよう」

レオンはセリナをじっと見つめた。

「セリナ、二人の事は任せた」

決して油断するな、というレオンの思いを察し、セリナは深く頷いた。


**********


カイゼル髭の男、ホーンはかなり焦っていた。

ホーンたちがカイルの足取りを掴んだのは、サーディナ村の一件の後だった。レオンがフォウナに煮え湯を飲まされたことは知らなかった。

フォウナに暴れられて重要なトラップの数々を失ったうえに、勇者レオンが現れたのは完全に予定外だった。

『絶対にレオンには手を出すな』

ホーンはカイルを待ち伏せていたメンバーに魔声石で連絡を送る。

(レオンは危険すぎる。元仲間であるカイルに感情的になっている。下手に手を出したら怪我じゃすまない。ここはまず、協力するしかない)


ホーンはレオンと実際に相対してわかったことがあった。

レオンのカイルに対する感情……あれは激しい怒りだった。

そこに、全く殺(・)意(・)を感じなかった。

レオンはカイルをまだ友(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。友(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)怒(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のだ。

仮にレオンがカイルを倒したとして、レオンはカイルをどうするだろうか?

殺す?

それは考えにくい。

捕らえたとしても、その後どうする?王国に引き渡すのか?

捕らえて王国に引き渡したとして、レオンは賞金を貰うのか?

きっとレオンは友を裏切らない。いや、裏切れない。

カイルが裏切ったからこそ、レオンは裏切ることは決してしないだろう。

そんなレオンがカイルを賞金に換える?

あ(・)り(・)え(・)な(・)い(・)。

奴は金を貰う気はない。

『金が貰えたらくれてやる』

レオンはそう言った。誓約書もそういう内容にさせられた。

バカバカしい、あいつは最初から賞金稼ぎに金を渡す気などないのだ。

友を賞金にしようとしている連中を見下しているのだ。

(レオンの好きにはさせない。必ず出し抜いてやる!)

ホーンは固く誓うのであった。

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