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砦跡

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下から4行目をちょっと書き直しました。

賞金稼ぎにフォウナがさらわれてしまった。

こういう時、焦るのは禁物。冷静に、落ち着いて考えを整理しよう。

戦ってみた感じでは統率の取れたレベルの高い集団に見えたから、人質に無駄な乱暴はしないはず……。

いや、フォウナは魔族。人間の敵だ。何をされるか分かったものではない。

とにかく今は情報が欲しい。


「ルミナス! 聞こえてるなら返事しろ!」

俺は空を見上げてルミナスに呼びかけてみた。

別にルミナスは空の上にいるわけではないだろうが、イメージ的にやっぱり上を見てしまう。

『はいはい、聞こえてますよ……』

面倒くさげな声が頭に響く。この態度、なんか腹が立つ。

宙を睨んでいると、突然なにやらモヤモヤとしたものが見えてきた。

『やっぱり姿がないとあなたは話づらそうだから、見える姿を用意しましょう』

モヤはぎゅっと集まって、人間の頭ほどのサイズの人型になった。半透明であったが姿は間違いなくルミナスだ。

「え?なにこれ?」

『私の力の一部を見えるようにしてみたわ。どう?これなら会話しやすいでしょう?』

半透明のルミナスは俺の目線の高さをふわふわと浮かんでいる。

「確かに見えている方が話しやすいな……」

『この姿はあなたにしか見えないから注意してね』

小さなルミナスは可愛らしくウインクする。

「俺にしか見えないのか……。これまで以上に気をつけないといけないな……」

幻と話すヤバい人と思われるのは御免だ。


それはそうと——

「ルミナスさ、今回の襲撃、予見できなかったの?」

『襲撃者に正式な信者がいなかったから無理よ。いるなら近づけばわかるのだけど』

小ルミナスがクルクルと俺の周囲を飛び回る。

『私は地上の好きな場所を見る能力があるけど、この姿はそれを可視化したような感じね。

 こうやって自由に動き回って観察できるけど、五感は人間と大差ないの。隠れてる人間は普通に見えないわ』

「……役に立たない女神だな……」

『うるさいわね。使える情報があるけど、そんな態度だと教えないわよ!』

小ルミナスがプンプンと露骨に怒って見せる。

なんでだろ、妙に感情表現が豊かだな……。

「ゴメンナサイ。オレガワルカッタデス」

腹立たしいのでわざと形だけの謝罪をしてやる。

『いちいちムカつくわね……。

 でも今回は状況が状況だから教えてあげるわ。

 髭の男が言っていた南東の砦跡、確かに存在するわ。歩いて大体半日くらいの距離ね』

半日か……。それなりにかかるなぁ。急いで向かった方がいいか。

『レオンとの距離がかなり近いけど、まぁ方向が微妙に違うから大丈夫でしょう』

それは問題だけど、今はフォウナの救出優先だな。

『あと、そこには信者が一人いるわ。賞金稼ぎではなくて家政婦の少女よ。雑用のために連れてこられたみたい。

 彼女を通しても情報が得られるわ』

「それは最高に素晴らしい。こういう時は情報が何よりも重要。ありがとうございます女神様」

『ふん!現金なヤツ!

 今後は常にそういう態度でいて欲しいものね!』

褒められてまんざらでもなさそうだ。嬉しそうに飛び回ってる。相変わらずチョロいなー。

しかし、ふざけてばかりはいられない。早く出発するとしよう。


**********


フォウナが目を覚ますと、そこは石造りの部屋だった。

調度品はまったくなく、四方の壁の内の一面は鉄格子になっている。いわゆる牢屋というやつだ。

起き上がろうとして手に古びた板状の木枷がつけられていることに気づいた。

「……捕らえられた……のでしょうか?」

フォウナは自分に何があったのか、思い起こしてみた。

吊り橋を歩いていたら、急に後ろから担ぎ上げられ、さらに前方に放り投げられた。

驚く暇もなく、見えない何かに引っ掛かり空中に止まる。

下を見ると、さっきまであった橋が無くなっており、谷底が見えている。

悲鳴を上げかけたところで、とどめとばかりに何かに思いっきり踏みつけられて落下しそうになり、あまりのことに気が遠くなりそうだった。

四天王として幾多の戦場を戦ってきたフォウナであったが、ここまで恐怖したのは数えるほどだった。

わずかに自由の効く首を動かすと、崖の上で何者かと対峙するカイルの姿が見えた。

何が起きたのかさっぱりわからないが、何者かに襲われたのは間違いない。

そう確信したところで急に意識が遠くなり、気がついたらここに横たわっていたのだった。


(どうやら自分は捕まってしまったようですね……多分スリープの魔法で眠らされたのかな。不覚です……)

フォウナは改めて今の状況を確認した。

枷を付けられて、牢屋らしきところに閉じ込められている。

鉄格子はあちこち錆が浮いており、長く使われていなかったようだ。

格子の向こうは部屋と同じ石造りの廊下。松明が壁に取り付けられて辺りを照らしている。

自分以外に人影はない。

(カイルはどうなったのだろうか?私と同様に捕まっているのか?それとも……)

悪い方向に考えてしまいそうになり、思わず首を振るフォウナ。

(いや、あの人が簡単にやられるはずがない。今はここを出ることを考えよう)

フォウナは鉄格子に近づくと、手で掴んで揺すってみた。さらに枷を何度かぶつけてみる。

ゴツゴツと鈍い音が響くと、不意に足音が近づいてきた。どうやら牢屋からは見えないところに誰かいたようだ。

足音の主は軽装鎧を身に着けた小男だった。ぼさぼさの頭に小汚い顔で教養があるようには見えない。

「よお、魔族のねーちゃん。目が覚めたようだな……」

鉄格子の前まで来ると、あからさまに見下した態度でフォウナを見る。

「寝顔も可愛かったが、こうしてこっちを睨んでる顔もまた良いねぇ」

そう言って、げひゃげひゃと下卑た笑い声を上げる。

フォウナは不快そうに顔をしかめた。

「お~!怖い怖い!流石はカイルをたらしこんだ女。肝が据わってるねぇ」

「……たらしこんだ?」男の言葉に思わず反応するフォウナ。

「だってそうだろ?カイルと一緒にいるってことは、お前がヤツに人間を裏切らせて、魔王軍に引き込んだんだろ?

 やっぱ色仕掛けかぁ?美人だもんなぁ‼」

フォウナは俯いて黙ってしまった。

男の言葉に腹を立てたわけではない。

前々からずっと考えていた疑問。

な(・)ぜ(・)カ(・)イ(・)ル(・)は(・)人(・)間(・)を(・)裏(・)切(・)っ(・)て(・)魔(・)族(・)に(・)つ(・)い(・)た(・)の(・)か(・)。

気になってはいるのだが、未だに問いただせずにいる。

一見、軽薄そうでも実はかなり思慮深いあの男(カイル)が何故危険を冒し、私を助けたのか……。

(あの時、私が可愛かったからなんて言ってごまかしていたけど……)

そんなことを思い出して、思わず顔が赤くなるのを感じた。

「けっ!」

小男は吐き捨てるように言うと、鉄格子から離れて廊下の壁に背を預けた。ぼそぼそと小声で呟く。

「つまらねぇなぁ、まったく……。カイルの奴、さっさと来ねぇかなぁ……」

「‼」

フォウナは男の声に反応して顔を上げた。

(こいつはカイルが来るのを待っている。つまりカイルは捕まっていない。

 そしてここへ来る……考えられる理由は、私(・)が(・)捕(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)から……?)

フォウナは大きく深呼吸をすると、息を止めた。

「はぁっ‼」気合と共に両手を拘束する木枷に膝蹴りを入れる。

ドバギッ!と派手な音を立てて、古びていた枷はあっさりと砕けた。

「な、なんだとっ⁈」

小男が驚いてフォウナを見つめる。

「こんな使い古しの枷で私を拘束するなんて、舐められたものですね……」

衝撃で痛む手首をさする。怪我はない。

腰を落とし身構えるフォウナに、小男は慌てて声をかける。

「やめろ!そんなことしても無駄……」「せいっ!」

男のセリフが終わらぬうちに、フォウナの強烈な回し蹴りが鉄格子に炸裂する!

ドガァァァン‼

錆ついてガタがきていた鉄格子は丸ごと外れて吹っ飛び、小男を壁に挟み込んだ。

「グエッ!」

蛙のような間抜けな悲鳴を挙げて白目をむいて失神する。

フォウナは牢屋だった部屋から出ると周囲を見回した。

「さて、カイルに迷惑をかける訳にはいきません。ここへ来る前に不埒者どもを片付けてしまいますか」


**********


『……というわけで、脱獄したフォウナは絶賛大暴れ中なのです……』

ルミナスの報告を聞いて俺は頭を抱えた。

ここは森のはずれ。陽はとうに沈んで辺りは闇色に染まっている。目の前の崖の上に、月灯りに照らされた砦跡が見えていた。

思ったより早く目的地に辿り着いたのでルミナスに状況を聞いたのだが、こんな事態になっていようとは。

忘れかけていたが、フォウナは四天王グリムなんだよな……。

部下が少なくても全て自分が倒せばいいって、そのまま敵地に乗り込んでくるような脳筋だった。

しかし……今のフォウナはグリムではない。鎧がない状態でちゃんと実力が出せるのだろうか?

それに賞金稼ぎは人を捕まえるプロだ。力押しだけのフォウナには荷が重い気がする。

「仕方ない。救出を急ぐか……」


崖に面した城壁を途中まで登り周囲を探る。

どこかに必ず侵入者感知のトラップがあるはずだ。

そういったトラップは誤感知を防止するために、近くに見張りは置かない。

つまり、トラップさえ無効化できれば、比較的安全なルートなのだ。

予想通り仕掛けられていた、機械式や魔法式の複数のトラップを解除して、俺は砦の中庭に潜入した。


さてこれからどうするか。

敵は俺の実力を知っていて、俺が来ることを前提で準備している。

俺だったらどうやって俺を捕まえる?

そんなの決まっている。罠へ誘い込んで袋叩きにする。吊り橋でやろうとしたように。

今回はさらに厳重にトラップを仕掛けているはずだ。

多分フォウナを砦の最深部に幽閉して、そこまでの道をトラップで固めているだろう。

前もってルミナスから聞いた情報では砦の中にいるのはおよそ十五人。

どうやら吊り橋でやりあったカイゼル髭の男がリーダーのようだ。

他には明らかに下っ端なのが三人いて、残りはよくわからない。

諜報員でないメイドさんの知っていることなんてこの程度だが、一つすごく重要な情報を得ることができる。

メ(・)イ(・)ド(・)さ(・)ん(・)が(・)行(・)け(・)る(・)と(・)こ(・)ろ(・)に(・)ト(・)ラ(・)ッ(・)プ(・)は(・)な(・)い(・)。

そりゃそうだ。素人さんに罠は避けられない。

見張りはいるだろうが、メイドにわかるようにコソコソと隠れたりせず、堂々と立っているだろう。それなら対処は容易である。

メイドの立ち入りが許可されている場所から砦の内部に侵入しよう。


**********


侵入に成功した俺は気配を殺して廊下を進む。隙間から明かりの漏れる扉に近づいた。

ここは休憩室として使われている部屋だ。騒がしく話す声が聞こえてくる。

「……まったく、あの魔族の女、滅茶苦茶だよ!! カイルのために仕掛けていた罠がパーだ!」

「とんでもねぇよな。トラップ踏んで飛んできた矢を掴み取ってたぞ」

「それどころか虎の子の吊り天井トラップ、落ちてきたのを素手でぶち抜いたらしいぞ」

「ひえぇ!!バケモンじゃん!!」


おお、それは良い!

吊り天井みたいな大掛かりな力押しが一番厄介なんだよな。大重量の物理トラップは対処しづらいのだ。


それをパワーで粉砕するフォウナの勇姿!ちょっと見たかった気がするね。


男たちの話し声は続いている。もう少し聞こう。

「今は静かになったけど、捕まえられたのか?」

「落とし穴に落ちたから蓋をしたらしい」

「……這い出てきそうで怖いな」

「いや、流石に魔法で眠らせただろ……」

なるほど、フォウナは落とし穴の底で眠っているのか。

それは助けるにはちょっと面倒な状況だな……。


あれこれ悩んでいると、いきなり目の前に小ルミナスが現れた。

『すみません、緊急事態です!』

突然なんだ?これ以上何か問題が?

『予想が外れました……砦に……勇(・)者(・)レ(・)オ(・)ン(・)が(・)来(・)た(・)わ(・)!』


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