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愛姫


桜を見た後。

鈴は裕次郎におぶってもらって、城下町へ戻ってきていた。

「…あ!あたし、ここからなら道わかるよ!」

城のすぐ近くを歩いていた時。

鈴が言った。

ここまで近ければ城がどこかはわかる。

山の上にある城に行く道の門がさっき見えたのだ。

裕次郎はちょっと目を見開いて。

笑った。

「…そっか。

気をつけて帰れよ。」

裕次郎は鈴の頭を頭をくしゃっと撫でた。

「ありがと!桜もすごかったし…!串焼きもおいしかった!」

鈴はふわっと笑った。

「初めてばっかりで、すっごい楽しかった!」

飛び跳ねそうな勢いだ。

「裕次郎ありがとうね!

またねー!」

走って行ってしまった。

その後ろ姿を見えなくなるまで見つめながら。

裕次郎は小さくこぼす。

「…嵐みたいだったな。」

いきなり現れて、ものすごい速さで去っていく。

こっちに。

大きなものを残したまま。


「なっ…姫さまですか!?」

「本当に姫さまか?」

城に戻れて一安心…のはずが。

大変なのは、ここからだった。

城の人々に顔を知られていないと言うのは。

城を抜け出すのには便利だったが。

本当に姫だと認めてもらうのが大変だった。

山の上の城への道がある、山のふもとの門。

鈴が地団駄を踏んでいた。

門番二人は困った顔をしている。

どれだけ鈴が自分は姫だと言っても信じてくれない。

「だから!

わたくしは正真正銘お父さまの娘の鈴です!」

「ううん…そんなぼろぼろの着物で言われてもなぁ…」

確かに洗濯場で拝借してきたこの着物はぼろぼろである。

「もーっ!」

しばらくすると。

ずっと地団駄を踏んでまくしたてていた鈴は疲れてしまった。

ぺたっとその場に座り込む。

「ほんとに鈴はお姫さまなのにぃ…」

先ほどまでの姫口調も崩れた。

門番二人は困り果てる。

その時。

「あら、何かあったの?」

座り込んでいた鈴の後ろから声がした。

聞き慣れた、大好きな声。

「姉さま!」

そこにいたのは、外出から帰ってきていた愛姫だった。

「…鈴?」

愛姫の瞳が大きく見開かれる。

「…馬鹿!一体どこに行っていたの!」

聞いたこともない声で怒鳴られた。

そのとき、また新しい声がした。

山の上から人影が駆けてくる。

「姫さま!鈴姫さまが帰ってこられたぞ!」

まだ若い使用人で、鈴とも面識のある弥助だった。


それからはもう大変だった。

城に戻れたはいいものの。

部屋から抜け出していたことが判明して。

お父さま(田村清顕)、お母さま、侍女頭、愛姫。

身内全員からお説教三昧。

愛姫には泣きながら怒られた。

愛姫が菓子を部屋に届けようと鈴の部屋へ来たところ、部屋に鈴がいなかった。

誰かに攫われたのではないかと一族郎党全員巻き込んで城中を探した。

それでも見つからなかったから、町にわざわざ愛姫が降りて探していたらしい。

「…ごめんなさい。」

すっかり鈴はしゅんとしてしまった。

こんなにも心配されていたなんて。

でも、お説教の最後に愛姫は笑った。

鈴をぎゅうっと抱きしめて。

「…もう…勝手に何処かに行っちゃ駄目よ。

…今度は私が連れて行ってあげるから。」

そのあと。

愛姫は鈴の話を聞いてくれた。

道端に咲いていた花が綺麗だったこと。

滝みたいな桜が本当にあったこと。

裕次郎のことは話さなかった。

秘密にしていたくて。


…本当に困った妹。

愛姫はそう思いながらも、楽しそうな鈴の話に耳を傾けていた。


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