三つの春と箱入り娘
天正五年(1577年)、四月。
冬が終わり、緑が芽生え始める。
暖かい風が吹く春が三春を訪れた。
桜が舞う……いや。
桜だけではない。
三春はその名の通り。
三つの春が一度に訪れる。
東北は春が遅れてやって来るのだが、なぜだか三春では奇跡のように桜、桃、梅の三つの花が同時に咲くのだ。
そのことから、「三つの春を同時に楽しめるから」と、三春と名付けられたという逸話がある。
そんな、他とは違う少しだけ特別な春。
「ねーぇ、姉さま何かお話ししてください!」
三春城。
布団から上身を起こした鈴姫が、すぐ近くにいる少女に話しかけた。
彼女は愛姫。
鈴姫のふたつ年上の姉である。
愛姫は妹の鈴姫とは違い、病弱ではない。
だから、今まで部屋から出られず、外の世界も見たことがない鈴に。
よく外の話をしてくれた。
ここから見える庭の桜は一本しかないけれど、外ではここよりももっとたくさんの桜の木が、街道を華やかに彩っていること。
桜にもいろんな種類があって、お花が垂れている桜もあること。
城下町にはいろんなお店があって、簪を売っていたり綺麗な染め物の手拭いを売っているお店もあること。
お花がいっぱい咲く丘もあって、息を吸うといい匂いがして、胸がいっぱいになること。
外。
自分が知らない世界。
話を聞くたびに、憧れが募っていく。
お花が垂れている桜ってほんとにあるのかな。
お店ってどんな感じなのかな。
人がいっぱいいるってほんとなのかな。
いい匂いってどんな匂いなんだろう。
胸がいっぱいになるってどんな感じなのかな。
いつか外に行って、自分の目で確かめてみたい。
鈴はいつもそう思っていた。
愛姫は思う。
自分の話を聞いて、楽しそうに笑っている妹。
自分が外から帰ってくるたびに、土産話をねだる妹。
買ってきた菓子や小物に目を輝かせている妹。
愛姫は、そんな妹が可愛くてたまらないのと同時に。
少しだけ可哀想にも思った。
この子が病弱じゃなければ。
一緒に街を歩くこともできたのかな。
でも。
鈴は。
「病弱じゃなければ」
なんて一度も言っていない。
言っているのを聞いたことがない。
病弱じゃなければ、それだけ憧れている外の世界を見ることができるのに。
病弱じゃなければ、一緒にお出かけもできるのに。
そう思わないのは。
鈴が純粋だからなのだろう。
生まれ持った病弱な身体を恨まずに。
それを受け入れて、その上で楽しめることを探す。
自分にはできないことだな。
愛姫は今まで何度も思った。
自分だったら、病弱な体を嘆かずにはいられない。
強い体に産んでくれなかった母親を責めてしまうかもしれない。
それなのに、鈴は。
今ある楽しいことを。
一生懸命に探している。
憧れを募らせながら。
やっぱり。
こんなふうに純粋で、無垢で。
可愛らしい妹を。
自分は大切に思わずにはいられない。




