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幾千回の転生後  作者: しろいあお
第一章
8/12

8.一夜で生まれた遺跡

 赤く光った二人が次に口を開いたのは頂上に登り詰めた時だった。

 決して楽ではない道のりを経て、リステラは中腰で息を切らしていた。

 対照的にレムールは伸びをしながら平静として話す。


「大丈夫でした? かなり距離ありましたが」


「も、もちろんです……はぁ、わた、し、たいりょく、ある、んですよ……ぁ、はぁ……」


「ははは。まぁ、あんまり無理しないで、くださいよね」


 そう言って布と水をリステラへと渡した。

 礼を言いつつ受け取ったリステラは、汗を拭き、のどを潤した。

 そして少し余裕が出て来たのか、細かいことにまで気がつく。


「あれ? これ、どこから出したんですか?」


「あぁ、私の能力について何も説明していませんでしたね。

 ここから、です」


 レムールはおもむろに右の手のひらを下に向けて突き出し、骨と血管が浮き出るほどに力を入れる。

 すると手の少し下から、何もない空間に波紋を広げて果実が浮かび上がった。


「ブドゥです」

 

 その小さな丸い紫の果実をスーっとリステラの方へ滑らせ、彼女はそれを口に入れた。

 躊躇いなく食べれたのは、レムールが同じものを先に食べたからだろう。

 

 リステラの驚いた顔は、その果実を一口食べた途端、みるみる笑顔へと変化した。


「なんですかこれ冷たくておいしい……

 もっと食べたいのですがそれよりも!

 今のはあなたの固有スキルですか? すごい能力ですね!」


「ッ……『時空操作』って言うんです。大層な名前ですが、未来にも過去にも行けはしません。

 せいぜい物の時間を操ったり、空間をいじったり、ですね」


 リステラが気づけない一瞬だけ、苦虫を噛み潰した表情を曝すレムール。彼の手から血が滴っており、庇うように隠した。

 そして時空操作の簡単な概要を説明する。


「あっ、それであのとき急に現れたんですね~。

 納得です!

 詳しいお話聞きたいところですが、また後で」


 リステラは早々に話を切り上げてレムールの後ろ、下り階段の入り口へと目を配り、暗に示した。

 

 そこには焚火を囲む、三つの人影があった。

 内輪の会話に夢中でこちらにはまだ気づていない様子。

 声だけは聞こえる。


「あそこの飛んでる虫、たくさん集めて焼いたらおいしそうじゃない?

 いやさぁ、今集めてるカードで虫が出てくるんだよ。それみてたら──」


 そのうちの一人、金髪の青年は変わった観点をお持ちの様だ。

 少し話しかけるのを躊躇い、視線を横へずらした。

 隣で胡坐をかく男性二人は大げさな反応で、


「もうやだこのイレギュラー野郎本当に怖い!

 おいしいわけないだろ!」


「い〜〜やまじで、想像しちゃったわ。

 許せないわ。菓子折り持って詫び入れろ」


 と、金髪の男性を軽口で責めていた。

 残りの二人は言葉は雑だが、比較的まともな感性を持っているようだ。

 このまま気づかないふりをして通り過ぎようと、リステラに目配せして入口に向かう。が、


「あ、おーい、そこの冒険者の方~。

 ここの遺跡、調査済んでないので危ないですよ~」


 目まで伸びた黒髪の男性に気づかれ止められた。

 軽やかな動きで立ち上がり、小走りに近寄ってくる。

 

 そしてレムールはこれを待っていた。


「えっと……あなたたちは?」


 この質問が自然な流れでできるから。

 能動的に同じ質問をすると一気に警戒されるが、話しかけられた場合は別だ。


「おっとすみません、失礼しました。

 私はアイン・セノスと申します。

 シュテルネーアのギルドから派遣されました、臨時調査員です」


 近寄ってきたのは、どこか柔らかい空気をまとった青年だった。

 黒髪は目元ぎりぎりまで下りる重めのマッシュで、

 前髪の隙間からのぞく瞳は黒く、落ち着いた色をしている。

 髪の丸いシルエットのせいか、人当たりのよさを感じさせる雰囲気が漂っており、大柄だがそこにいるだけで場の空気が少し和らぐ。


 そしてその背後から、新たに近寄ってきた影が二つ。

 

「どうも初めまして。タージ・オードです。

 同じく調査員長兼保護者をしていま、す」


 そう名乗る男は、強面とも柔和とも言い難い、不思議な存在感を放っていた。

 サイドを大胆に刈り上げ、残した長い髪を後ろでひとつに結った独特のヘアスタイル。

 前髪だけが長く垂れており、片目を覆う影となっている。

 眼鏡を手の甲で押し上げ、理知的な所作で自己紹介を終えた。

 ……途中でアインに軽く肘打ちをされ、脇腹を手で摩りながら。

 

 最後に、柔らかい光沢を帯びた金髪のショートヘアをした青年が、騎士のような所作で挨拶を行った。

 毛先は軽く流れていて、やや前髪が額にかかるように整えられている。

 明るい色合いの髪が、どこか朗らかな印象を与える。


 目元は、笑うと細くなるやさしい形の目をしていた。

 目尻の緩みから、つい人の良さを感じ取れてしまうタイプだ。

 肌はやや色白で、清潔感がある。


 体格は標準的で、背丈は中くらい。立ち姿が整然としているが、堅苦しさを感じさせず、むしろ周囲の空気を和ませるようなゆるい雰囲気をまとっている。


「……調査員のトリード・ビーツと申します。

 以後、お見知りおきを」


 簡単な挨拶だったが、妙な視線を感じる。

 

 そしてまた、「普段と違うじゃんかよ~」と、アインとタージに軽く小突かれ笑い合っていた。

 それだけでこの三人の気の置けない関係性が覗えた。

 

 こちらの挨拶も手短に済ませ、一区切りついたところでレムールが口火を切る。


「それで、調査っていうのは一体何の……?」


 その質問を引き受けたアインは素早くレムールの横に移動し、口に手を添えてわざとらしく説明した。


「これはギルドの上層部や王宮しか知らない事なのですが……なんとこの遺跡、一晩でできたものなんです。

 そんなの、十分怪しいでしょ?

 だから国や民に悪影響を及ぼさないかどうかってのを調べに来たわけです」


 言い終わると、添えていた手をパッと上げ微笑みをみせる。

 こちらも作為的に頷き、理解と要求を示す。


「なるほど、大切なお仕事ですね……

 であればこそ、私たちも調査に協力させてください」


 レムールは腰を自然に曲げ、綺麗なお辞儀をして誠意を見せた。

 さらに顔は下を向いたまま、肘を伸ばして名刺を突き出す。


「それだけの能力はあるつもりです」 


 差し出された名刺を丁寧に両手で受け取ったアイゼは唸った。


「えっとなになに、ひぃふぅみぃ……うわヤバすぎ。

 全部の魔法を一級に使えるって相当だな。

 特に爆破魔法なんてかなりのものですね。」


 レムールが手渡したカード型の魔道具は冒険者の身分証明書。

 カードから発せられる微弱な魔力が、当人の魔素受容器官を通り再度カードへ伝達される。

 それにより得られる情報は多岐にわたる。

 大気中の魔素から自身の魔力への変換効率のほか、魔法の適性や火力、出力、効果範囲などを数字で表した熟練度など。


 大陸全土で共通化されて久しく、一般的な名詞の代わりとなっていた。

 

「これはひょっとするかもしれませんよ、員長さん?」


「いや、すごいのは認めるがだなぁ……

 危険だったときに守り切れる保証もないしな……」


 今度は眼鏡を中指で持ち上げるタージは当然ながら、こちらの安全性を真剣に考慮して渋る。

 そこでタージの肩を叩く、思わぬ助け舟が現れた。


「タージ、この方たちは大丈夫だよ」


 騎士然としたトリードだった。

 こちらのことを──特にリステラのことをよく知っている視線と口ぶりだが、当の彼女はポカンとしている。


「うーん……うー、ん……

 まぁトリードがそういうんならそうなんだろうけど。

 いかんせん俺がお前を信用してても、死んだら元も子もないからな。

 こんな若い遺体なんて見たら病むぞほんと」


 後ろでアインも腕を組み、激しく首を縦に振っている。


「……ありがとうございます。

 ですが僕は絶対死にません。約束します」


「って彼も言ってることだ。

 なに、いざとなったら俺が行くよ」


 『俺が行く』

 その言葉が鶴の一声となってタージは了承した。


 それでもやはり優しい上に心配性なのか、様々な魔道具や薬を押し付けられた。

 生存に役立つものばかり。


 これほどまでしてくれるのには理由があった。

 丁度ギルドへの定期連絡の時間であり、調査員の一団は同行できないのだった。


 待つという選択肢は今のレムールたちにはない。

 それその時だけにしか得られない事物があると理解しているから。


「ありがとうございます!

 いってきます」


 リステラ共々頭を下げ、入口をくぐった。


 いざ遺跡内へ入る時、姿が見えなくなるまでアインとタージは心配そうな顔をしていた。

 トリードも同様、複雑な表情だったが、仕舞には笑顔で見送ってくれた。

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