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幾千回の転生後  作者: しろいあお
第一章
5/13

5.動き始めた運命

 店を出て、街を抜け、門をくぐり、草原を目の前に伸びをする。

 準備なんか必要ない。今まで励行していた仲間の支度も、経理も管理も。


 自由であることの尊さと怖さを実感しながら、陽光を体いっぱいに浴びて歩みを進めた。

 花の香りを乗せた光風が鼻をくすぐり、黒髪が日に照らされてかすかに紅く見える。


「ここからだとちょっと距離あるな……

 時間が惜しい。飛ぶか」


 言うが早いか、レムールは時空操作を発動。

 視界の上方、雲の下。そこを目標に据えると、レムールの体は一瞬消え、一瞬のうちに目標地点へと点移動した。

 自分のいる空間と視界の目標空間を入れ替えたのだ。


 レムールは跳躍するように瞬間移動を行い、乗合馬車で三十分かかる距離を数秒に短縮した。

 

 しばらく空の旅を続けていると、草原を超えた先の深い森が目に入った。

 その森の中央付近には石造りの神殿が屹立している。


 しかし確認できたといっても距離は空いているため、詳細は掴めなかった。

 辛うじて分かるのはその壮大さと荘厳さ。

 不気味ながらも、どこか安心感を得られる佇まいを遠目に、レムールの体には限界が来ていた。


「少し、疲れたな……

 ここからは歩いて行くか」

 

 ここから先は徒歩で行くことに決めたレムールは、森の入り口に降り立つ。


 しばしの休息後、花をよけながら木漏れ日の中をレムールは歩く。

 落ち葉や枝の乾いた音を響かせるが、それは別の音に掻き消された。

 

 激しい丁々発止の剣戟。


 瞬時に、周囲に注意を向け、警戒するレムール。

 音を聞くに、一対多なのだろう。


 そう考えるに至ったレムールは、持ち前の性格を発揮してその音に向けて走り出した。

 木々を避けながら悪路を抜けると、僅かに開けた水場が見える。

 

 そこでは案の定、機械仕掛けの仮面をつけた三人衆が外套の人物を囲み襲っていた。


 視認した直後、いつもの発作が現れる。

 軽い頭痛の後の、重たい声。

 


 たすけろ!  たすけろ たすけろ  たすけろ  たすけろ た ろ  たすけろ!

  たすけて   たすけ たすけて  たすけ てあげ て

  たすけろ  たすけろ!  たすけ ろ  たすけろ  たすけろ あげろ たすけろ

    けて たすけて   たすけて  たすけ あげて  おねが

 たすけて た すけたすけ  たすけて  ろ たすけろ  たすけろ!  たすけ



 頭の中で響き、溢れ出る声たち。

 滑り、澱み、蠢き、這いずりまわる不協和音を一掃するように語気を強める。


「わかってるよ。 見捨てるなんて、できるわけない」


 徐々に鎮まる声に落ち着きを取り戻し、状況を理解しようと観察した。

 

 フードがついた外套の人物は複数人に対して慣れているのだろう。

 暗殺者然とした仮面の連撃を、時に逸らし時に躱し、すんでのところで命を繋いでいた。

 それを可能にしているのは左手の、ある特徴的な球が埋め込まれた小盾だ。

 

 バックラーの如く受け流し、弾き返すことに特化したその球は、シンプルでありながらも輝かしい光沢を放っている。

 その輝きは見る者の眼をくらませ、攻撃にズレを生じさせていた。

 同時に、幾度となく切り込まれ火花を散らす盾には傷一つついていないことから、異常な頑丈さも備えていることが見受けられる。

 誰の目にも明らかな耐久性能の高さ、それに加わる使用者の技量により、外套の人物は苦しくも生き長らえていたのだ。

 

 戦いは平行線に長引くかと思われたが仮面も伊達ではなく、外套の見せた疲労感。

 その一瞬のスキ、僅かな死角を捉えた。


 仮面二人を正面に、短剣での猛撃を凌ぎ続ける外套。

 その背後。文字通り対象に終止符を打つべく、爆速を乗せた逆手の短剣がフードの付け根、首元へと迫る。


 当然、外套の人物は与り知らず。静かに、だが確実に。

 

 仮面たちが殺害を確信した中、

 終わりを告げる致死の一撃は、

 

 ────空間を裂くような金属音に変化した。


「なッ!?」


 一人を除き、その場にいたすべての人物が目を見張った。

 

 肉を抉ったはずの凶器は煙を上げ、杖の柄に打ち立てられていた。

 レムールが時空操作を用いて間に入り、短剣を受け止めたのだ。


 どんな説明もつかず、何の前触れもなく表れた夾雑物に、仮面たちは素早く一斉に三方へと距離をとる。

 対照的に、いち早く(味方になってくれた)と理解した様子の外套はそのまま、レムールと背中合わせに位置を固めた。


 声を出すことにより外套の性別が露呈し、攻勢を強められることを危惧したレムールは、質問ではなく頷きによって意思表示とした。

 それすらも汲み取った外套の人物は同様に頷き、その聡明さをレムールは見て取った。


(……すごいはったりだ。相当無理してるじゃないか)


 そして外套の限界も感じ取った。

 肩で息をし、ふらついて、何度も左手の盾を構え直す姿を見てレムールは思う。


(次で終わらせよう)


 イレギュラーが生まれたこの状況を前に、仮面たちはそれぞれ呟いた。


「増えたな」

「構わない」

「目標を殺す」

 

 口まで覆う機械的な仮面のせいで、どのような連絡手段をとったか知るべくもないが、示し合わせて任務の続行を決めたようだ。


 膠着状態。

 

 お互い微動だにせず、静寂が数秒、春北風に葉が落ちる。


 木の葉が土に還る音、その瞬間、

 三人の仮面が同時に動いた。


 狙いは外套。論無く、刺し違えてでも目標を殺せば仮面の勝利。

 

 三方向からの同時攻撃。一直線に標的を狙う。


 仮面の持つナイフがギラついたその時、レムールは杖を地面に打ち立て、眼球のみを動かし、空中の三点を連続して見つめた。


 端から眼中にない不純物などには目もくれないまま、依然として狙いは変わらず。


「いい判断だけど、悪いね。

 止まってもらおう」

 

 しかし、瞬きもしない仮面の眼から対象の外套は光と共に消え、現れたのはレムールだった。

 その流れで、誓って狙ったはずの短剣はすべて、殺意ごとレムールに集められていた。


「このままヤル!」

 

 仮面たちは、勢いをそのままに乗せ始末する考えへと移行した。


「!!!」


 だが、そう考えるに至ったところで体が動かない。

 仮面たちは、蜘蛛の巣にからめとられた羽虫の様に、

 飛び掛かったままの状態で宙に浮いていた。


 レムールは持ち前の時空操作により仮面の全身丸ごと表面、その空間を、幕を張るように固定することで完全に動きを封じたのだ。


 指先を僅かにすら動かせないまま、任務を達成できないと悟った仮面たちは寸分たがわず舌を噛み切り、自害しようとした。

 それすらも予測していたレムールは、舌と顎の動きを同じように止めた。


「覚悟極まりすぎでしょう……」


 助太刀は終わり、周囲に他の脅威がないことを確認したレムールは、仮面に近づく。

 そして一人ずつゆっくり、丁寧に、仮面と意識を奪った。

 


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 次に仮面の意識を戻したのは、正座をさせ、拘束し、自害できなくした後だった。


 仮面の素顔は驚くことに、三人とも同じ顔だった。

 若く容姿が整った中性的な顔。

 

 一卵性の三つ子というレベルではない。

 その少年たちは顔の造形すべてに差異がなかったのだ。


 敵に捕獲され、内心穏やかでないはずだが、少年たちは人形のように無動だった。

 かろうじて生きていると認識できたのは、瞬きと呼吸から。


(仮面の下に仮面か……悪趣味だな)


 後ろで外套の人物が声を挙げずに驚く中、無表情の少年たちに睨まれながらも、レムールは腰を下ろし、目線を合わせ、尋問を開始する。


「こんにちは、初めまして。

 初対面でごめんだけど、質問をするね。

 正直に答えてくれたら悪いようにはしないから」

 

優しく丁寧に尋ねるも、帰って来たのは無言と蔑視。

 

「君たちの目的は?」


「……」


「君たちの雇い主は?」


「…………」


 想定通り、黙秘を貫く彼ら。

 これ以上の問答は無意味だと悟ると、記憶を除くために中央の少年の頭に手を乗せる。

 その時、少年たち全員の口が不意に開き、舌を動かし言葉を発した。


「………………イエス、マザー」


 途端に彼らの体が光を帯び始めた。

 高い駆動音を鳴らしながら、脈を打つように燐光を増減させる。


「まずいっ!」


 その危険性に猶予なく気づいたレムールは、咄嗟に離した手をそのまま振り下ろした。

 降り下ろした数センチ先、小さな透明な箱が少年たちの頭上に現れ、すぐさま燐光する体全身を包んだ。


 刹那、轟音を鳴り響かせ、その空間内に激しい爆炎と振動が巻き起こる。

 ここ一帯を焦土と化せるほどのすさまじい熱量。

 それが時間にして一秒。いや、それにも満たない程の僅かな時間で盛った。

 

 その光景を目の当たりにし、脳裏に焼き付いたのは炎に巻かれる少年たち。

 彼らは’’悦び’’と言わんばかりの笑顔を満面に浮かべ、焼かれていった。

 一切の声を挙げずに。


 狂気的で猟奇的な映像を見せたことを後悔しながら振り返ると、外套の人物は俯き、少し震えていた。

 流石に恐怖とショックを隠せないのか。

 その人はそれでも必死に礼を伝えてくれた。


「……ありがとう、ございました。貴方に助けて頂けなかったら、私があのようになっていたでしょう」


 育ちの良さがにじみ出る言葉は、雫の様に流麗な声によって紡がれた。

 

 小柄な体格と呼吸、所作などから、女性であることは予想していたが、


(この声、どこか懐かしい……)


「そこで、あなたの強さを見込んで、依頼があります」


 そう言いながらフード上げると、レムールの視界は色を失い、言葉を失った。

 

 彼女が、彼のもっとも愛する人に、あまりにも似ていたから。


「わたしと、旅をしてくれませんか?」


 知ってか知らずかその美しい声は、どこまでも明るく、爽やかで、一抹の不安さえも感じさせないまま、森の緑に吸い込まれていった。

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