4.みちしるべ
先ほどの賑やかな大通りを抜けて路地へ。素朴な佇まいの純喫茶へ移動していた。
窓明かりの入る席で、二人は対面して座っている。
「では兄弟、仕事の話だ。俺がするのはあんたの助け。その内容は多岐にわたる。
中でもわかりやすいのは案内、だな」
「案内?」
「そう、案内。レムールがその時々で行かなければならない場所を俺が示す。
それが一番、君の望みに近づける」
アイゼが球体を下へ傾け、視線を誘導させると、丸いテーブルには大きな地図があった。
そこには東西南北に四か所、赤い丸印がされてある。
「まずはこれを見てくれ。もう承知だとは思うが、初めから。俺らの今いる国、シュテルネーアはここ」
アイゼは人差し指でトントンッと、地図の右、つまり大陸の東部を叩いた。
「なぜシュテルネーアが『偉国』と呼ばれるようになったか、わかるかい?」
アイゼは前面を地図に向けたままでレムールに訊ねた。
同様にレムールも地図へ目を落としたまま、素を隠さないで答える。
「確か……『過去の戦役によって失った国力を一代で回復させたから』だったな」
「流石、リサーチばっちりじゃん。んで、その回復させたっていうのが、現国王であるダイン・ツー・シュテルネーア」
「ま、今はご乱心中だけどね」とレムールに聞こえないように吐き捨てるアイゼ。
その濁った言葉を払拭するように続けた。
「彼の働きは実に素晴らしいものだった!
数多くの教育機関に医療施設など公共機関の増設。一般家庭への魔道具の普及などを行ったね。そのほか舗装された道路や経済発展にも尽力した。
そして何より老若男女に明るく手厚い法律。
なんて素晴らしい!
これなら偉国と呼ばれる筋合い、大アリだね!」
「でも明るいだけじゃない」
今度は頬杖をついたレムールがはっきりと口にした。
「好況、利便、仁政。人にとって過ごしやすくなればなるほど、多くの人が集まってくる。善い奴も、悪い奴も」
「その通り!
そもそも人の性根は真っ黒なんだから!
そんな人間が集まれば自ずと形成されるのが裏の顔。
そういうとこ、行こうとしてたろ?
止めれてよかったよ。いや、ほんと」
肩をすくめ冗談交じりに言うアイゼに対し、長くなりそうだったのでレムールは話を促す。
「それで、俺は何をすればいい?」
「おぉ、積極的。でも落ち着きな。
慌てるお前は貰いが少ないってよく言うだろ?
そんな君にはここを探索してもらう」
──言わないが?
と、訴えたいのを我慢して、アイゼが指さす方を見る。
場所はシュテルネーアよりさらに東、赤丸で記された森。
「ここは?」
「遺跡さ。
偉国はその豊かさ故に、多くの人が集まる。
これだけ発展を遂げている国の周囲は当然、ほとんど探索されているはず。
だけど探索されなかった、調べることができなかったものもある。
それが、ここの遺跡」
確かに、積極的に情報収集をしていたレムールでさえ知り得なかった場所であり、そもそも存在を認識できていなかった。
そう思い至ったレムールは、真剣な面持ちで静かに聞き入る。
「その遺跡は何故か今朝、急に発見されてね。
遺跡の内部は謎に包まれているんだ。
奥に何があるのかもわからない。
ただ一つ確かなのは、君の望みに近づける『何か』があることだけ。それでも、行くかい?」
意地が悪い。
前に進むとわかっていて、こんな質問をするのだから。
「当たり前だ。それが目的の為なら、なんでも」
「Prima! 実に素晴らしい! それでこそだ!」
周りの目を気にせず、興奮したアイゼがスタンディングオベーションを発揮した。
しかしレムールは手を挙げ、真っ当な疑問を口にする。
「……だが、なぜそこに『何か』があることを知っている?」
さっきまでの拍手がピタリと止まり、無言を貫くアイゼ。
球体の明かりも暗くなったまま光ろうとしない。
予想通りの応対を見届けたレムールは「ま、だろうな」と席を立つ。
「さぁ、善は急げだ。ぐずってる暇はないぞ!」
急に動き出したアイゼは囃すようにレムールの尻を叩き、出発を促した。
それを受けたレムールは、机にコーヒー代と今回の案内料を置いて店を出る。
その積まれた大金と二人きりとなり、見つめ合い、
アイゼはつぶやく。
「……そうさ、俺は案内人さ。
お前を死地に追いやる案内人。
がんばれよ、同類。俺は何があっても、お前の味方だ」




