13.突破口
レムールはリステラの足元へと目配せするが、確かに震えていない。
今度はリステラと目を合わせるが、間違いなく覚悟が決まった様だ。
「上々。
めったやたらに撃ってください。頼みます」
「頼まれました!」
リステラは高らかに盾を掲げ上げ、魔力を流し込んだ。
受け止めた盾は宝玉から眩い光を放ち、辺りを照らす。
魔力出力の増幅装置でもある盾は、膨らませた魔力をリステラへと返還した。
リステラの許容量を超えた魔力は粒子となって煌めいている。その中でリステラは、魔法の出力を上げるために初めて詠唱を行った。
「私の中で輝く光よ、その魂の奔流を指し示せ!」
細い両手を前へと突き出し、放たれたのは無数の光弾。それは急速に、かつ無作為な軌道を描きそれぞれが四方から化け物へと命中した。
「まだ、まだ魔力は残ってる!」
先の攻撃を皮切りに、リステラは踊る様に優雅にそれでいて正確に同様の魔法を矢継ぎ早に放っていた。
援護というには十分すぎる活躍をしているリステラへ、レムールは走りながら気を配っていた。
そしてその仕事ぶりに得心し、走る速度を速めた。
化け物は予想通り、リステラの魔法攻撃をものともせず、ただそこにあった。
微動だにしない化け物の真横で、レムールは杖を握りしめて飛び上がる。
優に化け物を超え、その頂点に向かって降下の体勢をとったのだが、ここで化け物が動きを見せた。
図体を一度、ぶるっと震わせた後、弾力のある表面が規則正しく、皮を剥く様に裂け始め、触手の如く蠢き出した。
剥がれた皮の下は真っ黒で何も見えない。
どこまでも昏い、光の届かない黒。
リステラの放つ魔法はこの暗闇にも直撃したが、何事もなく消え去った。
当たった瞬間、溶ける様に呑み込まれたのだ。
それを目の当たりしていながら、臆することなくレムールは持つ杖に力を込める。
化け物は空中にいるレムールへと狙いを定めた様子で、長方形の触手を乱雑に標的へと突き進ませた。
レムールは迫り来る触手を右に左にと風魔法で体を操り、どれも紙一重で上手く交わし続けた。
ついに化け物を目前へ捉えたレムールは、ぶつかる寸前に宙で一回転し、両手で杖を強く握り突き刺す構えをとった。
狙うは表皮と表皮の隙間。爪の先ほどしかないわずかな間をレムールは寸分の狂いなく見事に杖を差し込んだ。
次に起こったのは、化け物の悲鳴でもリステラの歓声でもない。
とてつもなく大きい爆発音だった。
レムールが刺した瞬間、目を刺すような光と激しい爆裂が彼を包んだ。
当然レムールは爆炎に巻き込まれ、身一つで吹き飛ばされていた。
火と黒い煙を纏わせながら、空に投げ出されるレムールを見て、リステラは気が気でない様子で叫ぶ。
「レムールさん!」
リステラは叫んだ後で、自分が走り出していたことに気づいた。
熱い汗と冷たい汗を頬に伝わらせ、必死にレムールへと呼びかけている。
「生きてますよね! あなた、まだ無事でいますよね!
そうでなければダメです、レムールさん!」
その魂の叫びを待たずして、レムールは地面へと激突した。
砂埃が高く舞い上がり、詳細が見えない。
「──っ!」
リステラは言葉を詰まらせながらも砂埃を払いながら進む。
「レムールさん、ご無事ですか!
少しでいいので声をあげてください!」
必死の呼びかけにレムールは、
「はい、無事ですよ」
驚くことにレムールは立ち上がり、なんでもない様に返事をした。
彼の服は煤けており、ところどころが破れ凄惨な爆発を物語っているが、生身は傷ひとつついていなかった。
レムールは思った。『気味悪がられるかもな』と。
だがそれは結果として杞憂に終わった。
「よ、よかったぁぁぁ……
ほんっとうに、ぶじだぁ。
どこか痛いところありませんか?息苦しかったりしませんか?」
リステラは目の前の好事を素直に受け止め、すぐさまレムールの状態を忙しなく観察していた。
それこそ涙が出るほど心から。
レムールは僅かに驚いたが、すぐさま優しく手で制して不安を取り除いた。
「心配かけましたが大丈夫です。
それよりも突破口が見えました。勝てますよ」
「突破口?」
「えぇ。ですが相手に狙いを悟られない為、今は言えません。すみませんが、もう少しの間だけ私を信じてもらえますか?」
「もちろん。毒をくらわば皿まで、ですね。
それで、私は何をすればいいですか?」
「先ほどと同じ様に、なりふり構わず魔法を撃ってください。
ただし、左回りにお願いします。
……まだやれますか?」
「頑張ります!
私だって、守られてばかりの箱入りじゃないので」
「頼もしい」
互いに一瞬の微笑。
会話が終わるとリステラは目を閉じ再び魔力を練り、レムールは上衣の内ポケットに手を入れた。
取り出したのはなんの変哲もない通常よりも小ぶりな短刀だった。
歩きながら曲芸のように手先で転がし、素振りで感触を確かめ、逆手に構えた。
爆発で落とした杖は化け物の左側に落ちているざそれは後回し。
今のレムールに必要なのは物理的な火力だ。
身体強化魔法も用いて準備万端。
「では、いきましょうか」
レムールは土煙を残し、消える様に走り出した。




