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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
最終章 本校_学食はワンダーランド(いろんな味がある)
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自分が悪いのか

 

 杉本はメニュー表をしばらく眺めてからテーブルに置いてあるタブレットを手早く操作した。

 ピロリと電子音が鳴り、音を8回ほど鳴らしてから俺にタブレットを渡してきた。


「お前さぁ、頼み過ぎじゃないか?」

「人の金で食う飯は美味いんだよなぁ」


 カートの中を見ると刺身5点盛り、天ぷら盛り合わせ、いくら明太玉子焼き、牡蠣鍋、肉豆腐、ハムカツ、枝豆、ポテト、そしてビールを頼んでいた。

 今のところ総額9,185円。

 おい! 嘘だろ! 俺はタブレットに顔を近付けた。


「奢りって言うからさぁ、良いのかと」

「鍋なんていらねぇだろ! このバカ!」

「バカだってよ。バカで良いから頼もう」


 慌てて牡蠣鍋と肉豆富を注文カートから削除した。自分で飲む分のレモンサワーだけカートに追加をして注文のボタンを押す。今のところ総額6,830円になった。きっとここから金額はさらに増えるのだろう。背中の辺りがそわそわするが今日は仕方がない。勉強代だと思って腹をくくろう。


「で、相談したいことって?」


 杉本は手元にある電子タバコの電源をつけるとすぐ横にあった小さな箱から真っ白なタバコを取り出した。先端にタバコを装着すると白い先端を見つめて黙っている。

 しばらくすると電子タバコが短く振動をして口に近付け深く息を吸った。ふっと薄く煙が吐き出され、少量の煙が目の前まできたと思えば弱々しくすぐに消えていった。杉本はどこを見ているのか俺の後ろの方に視線を向けている。


「どうせあの赤縁の子だろ? 何だっけ、名前。えっと……あ、茉依ちゃんね。茉依ちゃん」


 馴れ馴れしく名前呼びをした事にイラッとした。それと同時に杉本の察しの良さに気色の悪さも感じた。こいつは俺以外の相手にもこうやって察して言い当てて、人と上手いこと付き合っているのだろうか。世渡り上手とはこのことなのか。


「別に結婚してるわけでもないんだし、いちいち人に何かを相談することもねぇよな。中学生じゃあるまいし。付き合ったり離れたりいろいろしてれば良いんじゃねぇの。俺には関係ないし」


 吐き出された煙がまた目の前までやってきてすぐに消えた。


「……何もしてないのに目の前で泣かれた。何でだと思う?」

「はぁ?」


 その時、店員がジョッキに入ったビールとレモンサワーをテーブルに置き、ついでに小鉢に入った豆腐を2つ乱暴に置いていった。


「大輔もとうとう女子を泣かすようになったのか。ふぅん。そりゃあお前が全て悪い、何か泣かすようなことをしたからだよ。勝手に泣かないだろ。とにかく謝っておけよ」

「何でだよ。原因わかんねぇよ。わからないのに謝れないだろ」


 手にしたビールのジョッキを俺のレモンサワーのジョッキに傾けるとこつんと当ててからぐいとビールを飲んだ。杉本の喉ぼとけが大きく2回ほど上下した。


「理由とか良いんだよそんなのは。とにかく大輔に非が無くても謝れ。そういうもんだ。姉ちゃんがいつもそう言ってる。頭を下げろ」

「え、お前姉がいるのかよ。知らなかった……」

「そうだったっけ? とにかく泣いたり怒ったりするのは相手に思い入れがあるからだ。何にも思ってなかったら何にも思わないからな」

「構文じゃんかよ……」


 豆腐の入った小鉢を自分と杉本の方に寄せ、自分の方の豆腐は真ん中から半分にわけひと口大にした。上におまけ程度に乗っていた小ねぎは小鉢の中に少し落ち、豆腐には何も乗っていない状態になってしまった。何も乗っていない豆腐を口に入れると、直前まで冷蔵庫の中で冷やされていたのだろう。思いのほか冷たく、口の中が引きしまった気がした。


「全く見当違いで謝ったことに対して怒られたらどうするんだよ」

「謝った相手に対してさらに怒るってのは誠意が感じられないからだ。その時は土下座しろ」

「土下座ぁ?」


 土下座なんて漫画の中だけでしか見た事ねえよ。こいつさてはまた適当なこと言ってるな。


「適当なこと言ってたらここは割り勘だからな。いい加減にしろよな。たばこ臭いんだよ。ヤニカス」

「謝ってさらに怒ったらとりあえず抱きしめろ」

「は?」

「力技に持ち込め」


 ダメだこいつ……。

 唖然としていると手元から視線を上げた杉本と目があった。


「大輔……お前、まさか」


 何だよ。何が言いたいんだよ。杉本は電子タバコを口にあてて、俺のことをじっと見ている。

 何が言いたいんだよ……。目を逸らしたら負けな気がして、身動きもとれずに杉本の視線に耐えてじっとしているしかなかった。

 居心地が悪い。骨まで透かして見られている感覚。

 ふいに視線が離れ、杉本は息を吸い白い煙を吐き出した。


「ふぅん。まぁ良いや。俺、そろそろタバコ止めようかと思ってるんだよね」


 助かった。どっと疲れが出た気がした。残り半分の豆腐を食べた。先ほどまでの冷たさはもう感じられない。


「とりあえず謝っておけよ。それでだいたいのことは解決する」

「そう……だな」


 全く腑に落ちないし、言ってることもよくわからないが杉本はそれで今までの修羅場も乗り越えて来たのか?

 あちら側の人間のこいつは俺よりもいろいろと経験しているはずなんだよね。

 何で泣いたのかよくわかないが、俺が悪いような気もしてきたしとりあえず謝ってみるか?

 レモンサワーを飲むとジョッキの中の氷は半分ほど解けて水っぽくなっていた。レモンの味はそんなにしない。

 

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