どうしたら良いのか
「私めは高峰氏とこれから聖地に行こうかと」
「秋葉原のことですか?」
「無論ですぞ。ひゅひゅひゅ」
未島はぽっちゃりとしたつやのある顔を高峰に向け、2人でむふふと含み笑いをしている。まぁ率直に言って気持ち悪いというか。
「未島君と高峰君は2人でお出かけ。今井大輔は?」
手にしているじゃがりつ子をくわえながら美魔女はスマホをいじっている。
「特にこの後のことは何も考えてませんけど……」
「ふぅん。茉依は?」
「私も特にこの後の予定はないですけど……このまま帰ろうかなって。夜からバイトですし」
小早川さんもじゃがりつ子をぽりぽりと食べている。小さく口を動かして小動物みたいだった。
「ふぅん。そう」
足を組み換え、じゃがりつ子の箱をからからと回している。みんなにも配ったからか中身はもうほとんど無いらしい。そしてくわえていたじゃがりつ子を口から外すと、美魔女は天を仰ぎ始めた。何だこれ? 次にふうと大きく息を吐くと、ひじをテーブルに乗せた。
不思議な動きをしてる美魔女を見ながら残りの食事を食べていると、次第に美魔女がたばこをくわえた場末のバーにいる店主に見えてきた。じゃがりつ子が円柱の細長い棒だからそう見えるのか。完全に俺の頭はどうかしてしまった。
「この場所に……聖橋っている橋があるわね。なぜそんな名前がついたか知ってる? 川を挟んで北に湯島聖堂。南にニコライ聖堂があるから。2つの聖堂を結んでいるから聖橋というの。関東大震災の復興橋としてね」
何の話をし始めたんだ? 美魔女の意図がわからず、俺はチキントマト煮の最後のひとすくいを口に入れた。少しの酸味が口の中を刺激し、底の方に沈んでいた小早川さんの俺に対する冷たい態度を思い出し頬をつねられた気分になった。
「ふたつを結ぶ……はし」
なぜか美魔女はもったいぶるように間を置いて言い、ふっと笑った。俺の皿を見やってから立ち上がる。
「さて、今井大輔は食べ終えたわね。じゃあ出るわよ。書いたメモは茉依に渡してちょうだい」
「ごちそうさまでした」
小早川さんは両手を合わせ、頭を下げた。俺もそれにつられて手を合わせる。正直、味はよくわからなかった。酸味が少し酸っぱく感じたのは味のせいなのか俺に対する彼女の態度なのか。
1階入り口までおりると未島と高峰は特に別れの挨拶も無しにそのまま秋葉原の方向へ歩いて行った。
「さて、私は帰るわ」
美魔女は大きく伸びをしてからヒールの音を響かせつかつかと歩いた。ふと急に後ろを振り返り、
「素直になった方が自分の為ね」
そう言って一人で駅の方へと歩いて行ってしまった。
その場に取り残されたのは俺と小早川さんだ。
美魔女がそんなことを言い残したもんだから気まずいじゃん……。俺に対して言ったのか小早川さんに対して言ったのか。
少し離れたところにいる彼女の様子をチラ見すると、表情は見えず様子はよくわからなかった。怒っているように見えなくも無いし普段通りのようにも見える。
どうする俺は? 帰る? もうここの場所には用事は無いし。でも小早川さんに対して俺が何かしてしまい、それで怒っているんだとしたらそのわだかまりは解決したいというか。夜眠れなくなりそうだし。よくわからないけれど、俺は謝った方が良いのか? 何に対して? とりあえず謝ってみる?
そう決意をし小早川さんに声を掛けようとしたところ、彼女は歩き出した。
え、待って。どこへ行くの?
さすがにそのまま挨拶をせずに帰るのは無いんじゃないかと慌てて後ろをついて行く。
先を歩く小早川さんとその後をついて行くこの俺。完全につきまとい行為だ。ストーカーってこういう感じなのかな。よくわらかないが相手に距離を置かれてわけもわからずおろおろとする感じ。理由も原因もわからずにただうろたえる男。かなり情けない。
大学を過ぎ、駅までの道を真っ直ぐに歩いている。地上に吹き下ろすビル風が骨身にしみる。
小早川さんは駅の改札を通り過ぎた。
あれ? どこへ行くの? まさか秋葉原?
別の改札口の前も通り過ぎ、左へ曲がった。
そこは先ほど美魔女が言っていた「聖橋」だった。
橋の真ん中まで来ると、眼下に見える線路を眺めている。
その時、オレンジ色のラインの入った電車が走り、ゴオという音を立てて通り過ぎて行った。小早川さんはじっと景色を眺めている。
近くまで行って良いのだろうか? 今は数メートル眺めた橋の欄干で俺も同じように電車を見下ろしている。何か……声をかけた方が良いのだろうか。
彼女の方に一歩、足を進めると急に俺の方に顔を向けた。
「あの……俺って何かしたかな?」
小早川さんと目が合うと、とっさにそんな台詞が自然と口から出ていた。
やばい、直球過ぎたか。一度声を発してしまったら、自分の意識とは別に口が動いていた。
「今日、何かちょっと様子が変だなと思って。もし、俺が何かしたなら謝るんだけど……」
ゴォという電車の音が響く。小早川さんは俺の事をじっと見つめている。
めちゃくちゃ気まずい……どうしたら良いんだ? とりあえず頭を下げてみるか?
すると、小早川さんの瞳は光が当たったかのように揺れた。あれ……これって……。
「……何でついて来たんですか?」
「え、何か様子が変だったから。気のせいだったら良いんだけど」
その時、彼女の瞳からポロリと涙がこぼれた。
「先輩は何も悪くないです!」
小早川さんは早歩きで俺の横を通り過ぎ、駅の方へと向かって行ってしまった。
俺は唖然としてしまい、引き止める事もできなかった。
これって……俺が泣かせたの?
わけもわからずしばらくはただ橋の上で電車が通り過ぎる音を聞いているだけだった。
【駿河大学内学食 チキンのトマト煮】
名称、2
値段、3
味、3
見た目、3
ボリューム、3
大輔的所感▶︎味はさっぱりわからない。酸味は感じた。




