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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
11章 駿河大学_チキンのトマト煮(もうわけがわからない)
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入れられる!

「え、夢じゃないの? これ? え? え?」


 黒いマリア像の胴体が縦中央から左右に開かれ、扉にくっついている鋭い針がいくつも見えた。

 俺、この中に入れられるの? 今から?

 おいおい何かの冗談だろと後ろに立っている屈強な男達に振り返ると、男達は黒光りしている己の筋肉をピクピクと動かしているだけで、目を合わせようとしない。俺の存在よりも筋肉に意識があるようだ。


「いや、ちょっ……無理、いや無理。これ無理なんだけど……」


 男達に俺の声は届いていないのか、お互いに己の筋肉を見せ合い、拍手を送り、ひとしきりぶつぶつと小声で何かを言い合うと全員が俺の方に視線を向けた。全員がただ無言で俺を見つめている。

 え、何この時間……。


「いや、あの。この中に入りたくな——」


 男の1人が俺の肩をつかみ、マリア像の前にぐいと近付けた。鋭利な先端が見えている。


「おおおおいっ! 無理だって! やめろって! 俺が何の罪を犯したってんだよっ! ふざけんな!」


 ……いや、ちょっと。かなり気持ちの悪い妄想をしてたかもしれないけどさ。心の中は自由だろうが! 何で外にバレたんだよ。まさか表情や態度に出てた……? そうなんだな? 出てたんだろうな。何てことだ。

 もう一歩男にぐいと肩を押され、いよいよ目の前にマリア像の胴体の中が見えている。針の先端は光り像の内側に向いている。

 肩をつかむ男の手はびくともせず、押し戻そうとしても全く動く気配がない。


「おい! 助けろって! ぜ、前途有望な若者だぞ! 卒業して俺が弁護士になったらどうするんだよ! 痴漢で捕まった時、誰が助けるんだよ! 俺を呼べって! 助けるからさ! 医者と弁護士は知り合いにいた方が良いんだぞ!」


 自分で言って虚しくなった。弁護士になんてどう転んでもなれねぇよ。司法試験なんて受けねぇし。


「嫌だって! 痛いって! どう考えてもこれは痛いって!」


 鋭利な先端に突き刺さる事を想像すると声が上ずり、足がガクガクと震えてきた。男はさらに一歩前へとマリア像へ近付ける。針は長く、扉を閉めれば全ての針が体を貫通するだろう。骨が邪魔をして中途半端に刺さるかもしれない。扉が閉まらないと男達に何度も扉を押されるのか——!?

 さらに一歩前へと像に近づき、体の半分はマリア像の中に入った。目の前には真っ黒な壁が見えている。


「嫌だぁ! 助けて! 母ちゃああん!」


 目を閉じてその時を覚悟すると、すぐ側でバンッと何かがはじける音がした。

 ……扉、閉められた? 痛みも何も感じない。極限になると人は痛覚も鈍るんだな。

 恐る恐る目を開けると、目の前に眉間にしわを寄せ鬼のような形相で俺をにらみつけている美魔女がいる。黒い法装は着ていない。


「うっるさいわよ! 今井大輔! 迷惑!」


 大きなため息をつき、使い終わった箸やスプーンを皿の上にそろえている。

 辺りを見渡すと今さっきまでいた食堂で未島も高峰も箸を持ち固まったまま俺の方を見ていた。小早川さんも驚いた表情でこちらを見ている。


「あ、あれ? 裁判は……マリア像は……?」

「何を言ってるのよ。学生に迷惑だからさっさと食べなさい。混んできたわ」

「ひゅひゅ……母ちゃんとな。お母上のことは母ちゃんと呼んでいるんですかな?」


 未島……にやにや俺の方をみやがって。小早川さんがこの場にいなかったら間違いなくぶん殴っているところだ。どうやらいつものおかしな幻覚を見ていたらしい。

 俺以外はみんなそろそろ食事を終えるところのようで、小早川さんはティッシュで口を拭き、未島は自分の腹をさすっていた。俺の皿にはほとんどの食事が残っている。美魔女の視線を感じ目が合うと視線をトレーの上にすぐに視線を移動させた。「さっさと食べろ」そう無言で言っているのがわかった。

 はいはいわかりましたよ! 食べますよ!

 急いでトマトのソースに浸かっているチキンを口の中に入れた。食べながら視界の端にいる小早川さんをこっそり見るとコップの水を飲みながらメモ帳に書き込みをしていた。普段と変わらない様子だが、俺に対する当たりがきついのは気のせいなんかじゃない。

 もしかして……あの幻覚の中で見たように、俺が彼氏面をして気持ちが悪かったから怒っているのか? そうならそうと言ってくれれば……いや、言われたらそれはそれで傷つく。

 それに……彼氏面なんてしてねぇし。好きな子と一緒に出掛けられれば浮かれるし、お揃いのキーホルダーを買えばつけたくなるものだし、2人の将来をあれそれ妄想するものだろ。お姉さんの件は普通に人事部の人の話を聞きたかっただけだし、美人だなとは思ったけど邪な気持ちがあるわけじゃない。何なんだ。俺が本当に何をしたっていうんだろう。

 おもむろに美魔女が黒色のエナメル生地のテカテカとした鞄からじゃがりつ子を取り出した。じゃがりつ子はじゃがいもを主原料にした棒状のスナック菓子で、ガリっとした歯ごたえが特徴だ。カップのふたをはがし、じゃがりつ子を1本取り出すと口にくわえた。小早川さんや未島達にも差し出して、俺以外の人達はじゃがりつ子を食べ始めている。俺が食べ終わるのを待ってくれているらしい。


「今日はここで解散。私は帰るけどみんなはどうするのかしら」


 がりがりと小気味良い乾いた音を立てながら美魔女がたずねた。


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