美人姉妹すぎる
駅構内の開けた場所にある店を一緒に巡り、ああでもないこうでもないとじっくり眺めていたらすっかりツリーの点灯時間になった。
俺は小早川さん以外は何も見えていなかった。店が何を売っていて何の店なのかもよく覚えていない。もはやそんなことはどうでも良い。今日のこの場に2人でいるという事実が尊く、そして運命なんだ。最高のクリスマス。ありがとうサンタクロース。俺は神を信じる。
「そろそろ行きましょうか」
「あ、はい。うん」
地下から地上へ出ると大学への道をまた進み、大学の正門前へとやって来た。
日中よりもツリーの周りには多くの人がいた。皆が点灯をしているツリーを見に来ているのだろう。まぁ俺達もそうだし。
人だかりのその先にツリーがある。
赤・黄・緑・青のライトが等間隔でツリーに点っている。ギラギラとした派手な光ではなく、淡く包み込むような静かな光だった。
「静かですね」
「……そうだね」
小早川さんはツリーを見上げている。
ツリーの後ろにあるレンガ造りの建物の窓からは淡い光がもれ、それが厳かにツリーを見守る人達を浮かび上がらせていた。
ロマンチックというよりも、心が洗われるような凛とした気持ちになる。
「来て良かったですね。きらきらした感じはないですけど……見れて良かったなって思います」
小早川さんはツリーを見上げたままだ。
こんなにずっとツリーを見て、何を思っているんだろう。
「流行りの場所とかじゃないけど、しんみりしてて良いよね」
しんみりという言葉がこの場に合っているのかわからないが、そう思った。
静かに二人でツリーをこうして見上げる。静かで厳かな聖なる夜だ。周りにいる人達も騒ぐことなく、静かにツリーを眺めている。
待て。この状況って……チャンスなんじゃ?
横でツリーをじっと見つめている小早川さんを見た。瞳の中に淡いツリーの光が映っているのか、潤んでいるようにも見える。
言うなら今がチャンスなんじゃ……。
意識をすると急に心臓の音がどくんと高鳴った気がした。鼓動が早くなってきた気もする。冷や汗も背中にかいてきた。
告白ってこんなに緊張するもんなの? 死ねるじゃん。
「先輩、まだ見ますか?」
小早川さんが俺の方に向いた。
ぱっちりとした黒い瞳が俺を捉えている。
心の中を見透かされてるんじゃないかと緊張する。
ヤバい、心臓が口から出そうだ。
「あの、小早川さん……話が」
何ですか? と不思議そうに俺を見ている。
先ほど買ったペンギンのキーホルダーも彼女のバッグについたままじっと俺を見てきている。お揃いのキーホルダーも買ったし、嫌いだったらお揃いで買ったりしない。俺はペンギンを信じる! 神を信じる!
「前から思ってたんだけどさ……」
勇気を出して言うんだ。俺!
「小早川さんのこと――」
そこで突然、スマホの着信音が鳴った。
「あ、すみません。ちょっと出ますね」
音の出どころは小早川さんのスマホからだった。俺から少し離れたところでスマホを手に取り誰かと話している。
これ、完全にタイミング逃したんじゃね?
その場に取り残された俺は立ち尽くすしかなかった。このすかしたタイミングはなんだ。これ、俺、痛いんじゃねぇの?
「うん、うん。え、もう? 来る? まだいるよ。先輩と一緒にツリー見てる。うん、わかった」
スマホを鞄にしまい、小早川さんが戻って来た。誰が来るの? お父さん?
「今から姉がここに来るそうです。この後姉と食事の約束してたんですけど、早く上がったからって」
「お姉さん? お姉さんいたの?」
そう言えば下着を見た時にそんな事を叫んでたっけ。お姉様と初対面か。絶対に美人姉妹だよな。
告白はまた別の機会にするか……今日はもうそんな雰囲気じゃないし。俺の心も折れたし。
静かに佇んでいるツリーを眺めていると「お前のその気持ちは受け取りましたよ」と語りかけられている気持ちになる。
今日の俺、頑張ったよね? それでも頑張ったよな?
ふと、正門の方から視線を感じて振り返るとえらい美人のお姉さんがこちらに向かって歩いて来るのがわかった。これ……お姉さんでしょ。だって目元が似てるもん。
お姉さんは少し早歩きでこちらに向かって来る。ブルーの大きめのコートを着て、少し高さのあるヒールを履いて……化粧が小慣れていて、大人っぽい小早川さんを見てるみたいだ。小早川さんがあと何年かしたらこんな風になるのだろうか。
「お姉ちゃん!」
小早川さんが手を振ると、美人のお姉さんも小さく手を振り返した。
「こんばんは。早く上がったから私もツリーが見たくて来ちゃった」
「姉の優依です」
小早川さんからお姉さんの紹介があった。お姉さんは少しウェーブのかかった茶色い髪の毛を耳にかけながら頭を下げた。
「小早川優依です。茉依がお世話になってます。東京タワーに一緒に行った方ですよね?」
「お姉ちゃん……!」
東京タワーの時の……?
あ、俺と行った東京タワーデートのこと? 小早川さんはお姉さんにその時の話をしてあるってことか?
「茉依のわがままに付き合ってもらっちゃってありがとうございました。ツリーを見に行くのは私と行こうって話してたんですけど、どうしても早くに行きたかったみたいで。お上りさんなんではしゃいだみたいです」
うふふと笑ったお姉さんが、妙に色っぽくてドキドキしてしまう。年上の小早川さんと話しているみたいだ。
お姉さんは大手企業にお勤めしている社会人って感じで落ち着きもあるし、会話も軽やかだし、洗練されてるなぁ……。
「今井大輔です。商学部の3年生です」
お姉さんの雰囲気に圧倒されながらも、挨拶をしておいた。悪い印象を持たれるのは嫌だし。
「姉は会社の人事部にいるのでもしかしたら先輩の就活の時に話を聞いてみると良いかもしれないです」
小早川さんが言った。
え、そうなんだ。お姉さんの話を聞きたいよ。これから本格化する就活のために。そう、就活のため。
「私の話が参考になるかはわからないけど。私で良ければ」
「良いんですか? それは助かります。インターンもしてないし、出遅れてる気がしていて。良ければお姉さんの連絡先を……」
「え? うん、そうだね。そうね……」
お姉さんは少し戸惑いながらも高そうな革のバッグからスマホを取り出し、俺がお姉さんの二次元コードを読み込んでお互いの連絡先を交換した。
「今度、連絡します。嬉しいなぁ……話を聞ける人も近くにいなかったんで助かります」
「……ええ、そう、かな?」
お姉さんはなぜかちらちらと小早川さんの方を気にしている。
小早川さんは特に表情を変えることもなく普段通りだ。
いや、本当に姉妹でよく似てるなぁ……美人姉妹だよな。
「お姉ちゃん。お腹も空いたしそろそろ行こう」
「うん。でも予約の時間までまだあるけど……」
お姉さんを食事の約束でもしてたのかな。良いねぇ、仲の良い姉妹なんだなぁ。
「行こう」
「うん、あ、ちょっと……あ、じゃあえっと今井君? だっけ? じゃあまた」
「あ、はい。連絡します」
小早川さんは振り返ることなく行ってしまった。そんな小早川さんに慌ててついて行くお姉さん。
俺はツリーの前で取り残された。けど、嫌な感じはしない。
小早川さんとはお揃いのキーホルダーを買ったし、さっそくキーホルダーはバッグにつけてたし。
今すぐにでも2人の証を身に着けたいっていうはやる気持ちを抑えられなかったんだろうな。可愛いなぁ。
辺りを見渡すとカップルらしき男女もいる。ま、俺もそちら側だけどね。
俺は静かに輝くツリーを背に大学を後にした。
【立奏大学内学食 カニとエビのクリームパスタ】
名称、2
値段、3
味、3
見た目、3
ボリューム、3
大輔的所感▶︎パスタは普通に美味かった。まぁ目の前に彼女っぽい人がいたら味どころじゃないよね。




