せっかくだし
「じゃあさ、せっかくだしキーホルダープレゼントするよ」
自分で思っていたよりもすんなりと言葉が出た。俺は人にプレゼントなんてものをしたことがない。
小早川さんは驚いたような顔をして固まっている。これは喜んでいるのか引かれているのかわからないぞ。この反応はなんだ? 緊張する。
小早川さんのぱっちりとした黒い瞳が俺を捉えている。今日はコンタクトをしていおりレンズ越しではないからか、心の中も全部見透かされてるんじゃないかとドキドキしてしまう。俺がこんなにテンパって心の中でめちゃくちゃしゃべっているのも聞こえているのかもしれない。
「……せっかくっていうのは何ですか?」
彼女がぽつりと言った。
「え」
そんな風に聞かれるとは思っておらず、答えにつまってしまった。せっかくっていうのは……クリスマスだし?
恋人はクリスマスにプレゼントを渡したりするもんだから。まだ恋人でも何でもないけど、雰囲気が盛り上がるかなと思い出になると良いなと思った。
こんなことを言ったら引かれるだろうか。
「クリスマス……だし?」
そのまま言ってしまった。当たり障りの無い綺麗な回答がとっさに出てこなかった。
「そうですね。クリスマスですもんね! 大学生にはもうサンタクロースは来ないですし。せっかくですから私も先輩にキーホルダープレゼントします! お揃いのにしましょう!」
え?
小早川さんはテンション高めで少し早口に言った。お揃いって言ってたか?
「お揃い?」
「はい、お揃いの」
「別に良いけど……」
まさか小早川さんからそんな提案をされるとは思っていなかったのでどう反応して良いかわからない。
お揃いの物を買うってどこからどう見ても恋人同士よ? 良いの? 俺で。俺とお揃いで良いってことだよな?
熱を持った頭でいると、小早川さんは先を歩いて行ってしまった。慌ててついて行く。
「先輩、ちょうどあそこのイベントスペースに雑貨が売ってるみたいです。見てみましょうよ」
「本当だ。良いよ」
駅構内にある開けた場所でちょうどクリスマス用の飾りやアクセサリーなどを売っていた。鹿やサンタをイメージするようなキーホルダーも売っている。周りは女性客ばかりだ。
その中でも木目調の雑貨を売っている店に近付いて行った。
「どれにしましょうか……」
陳列棚には赤や緑、白色などクリスマスっぽい色みのアクセサリーやキーホルダーが売っている。その中でも雪だるまのキーホルダーを手に取った。俺もその横にあるサンタクロースの被る帽子のキーホルダーを手に取った。フェルト素材で温かみがある。
「サンタクロースなんていかにもクリスマスって感じがするけど」
「そうですねぇ……でもクリスマスモチーフだと一年中つけられるかなって。夏にクリスマスの物? って思っちゃうんですよね」
え、小早川さんの中ではお揃いのキーホルダーは身に付ける前提なんだ。
この人は一体何を言っているんだ……それって……結婚指輪と同じで「証」だろ? やっぱり恋人同士っていう証を主張することになるよな?
俺は頬と眉間に力を入れて思わず緩みそうになる表情を引き締めた。
「じゃあさ、こっちのは?」
クリスマスモチーフのキーホルダーの横に、なぜかペンギンのころんとした形のものがあった。
小早川さんも手に取りまじまじと眺めている。
横から見ると小早川さんってまつ毛が長いんだな……。鼻も小さく形も良い。何だろう……全てが可愛いな。この世にこんなに可愛い人は存在して良いのか?
「丸くて可愛いですね。ペンギン好きなんです。これにしませんか?」
急にこちらを見るので思いっきり顔を逸らしてしまった。俺、挙動不審になってないよな。
「うん、良いと思うよ」
「……じゃあ私も先輩にプレゼントしますね」
お互いにそれぞれペンギンを手に取り、レジに向かった。この時の気持ちは何て表現したら良いんだろう。夢見心地。そう、夢見心地だ。視界に映る全てのものがきらきらと輝いてぼんやりとしている。この場にいる人全員に幸あれ! 両手を広げてそう叫びたい気分だ。
レジでどうやって精算したのかよく覚えていないが、手元には透明な小さな袋に入ったキーホルダーがある。
「あ、じゃあこれ……小早川さんに」
「私からもこれを」
お互いに手に持っているペンギンのキーホルダーを手渡した。
小早川さんから受け取った物は、透明な袋の中に入っていたペンギンは細かく裁断されたピンク色の紙が底に敷かれ、その上に配置されていた。そして金色のリボンで袋はラッピングされている。
完全にプレゼントじゃん。
ヤバ……俺、ラッピングなんて有料だし頼んでも無かったから普通に透明な袋に入ってるだけの物を渡しちゃったよ……。
小早川さんがどんな表情をしてるのかなと視線を上げると、そこにはにこにこと嬉しそうにしている彼女がいた。
ラッピングとかそんな些細なことはどうでも良さそうだった。
「さっそくつけますね」
手に持っていたこげ茶色のハンドバッグの持ち手のところにキーホルダーをつけた。
ころんとしたフォルムのペンギンがぶら下がっている。
小早川さんが俺のプレゼントを身に付けて目の前に立っている。
俺の渡した物を身に付けている。この気持ちはなんて表現したら良いんだ……。
2人だけの秘密の暗号。2人だけにわかるサイン。2人だけの……。
つまり……クリスマスの秘め事!!!
神様、ありがとう。今まで生きてきた中で、今日が一番良い日です……秘め事……何て甘美な響き……。
「先輩、あっちのお店も見て良いですか? 作家さんの手作りみたいです」
「……あ、はい。わかりました。自分、ここら辺にいますんで。どぞ」
小早川さんは向かいの店の品を見始めた。
俺は頭が熱を持ったようにぼんやりとしていて、周りの音も聞こえなければ周りの風景も霞みがかかり、小早川さんの後ろ姿も、どこかぼんやりとして見えていた。
でもその中でペンギンのキーホルダーははっきりと見えていた。




