スマートな男とは
ぼんやりとしていた頭でなんとかメニューの評価をつけ、書き終えたメモ用紙を小早川さんに渡した。
さて、この後はどうしよう。ツリーの点灯までまだ時間があるぞ。
「ツリーって見るんだっけ?」
あえてそっけない言い方で聞いてみた。ツリーは別に見なくても良いしクリスマスは特に意識していないし……っていう体でいたい。
あまり前のめりにしているとがっついてるようでみっともないし、彼女の前ではスマートな男でいたい。
もちろん俺はツリーを見る気はある。というかそれが目的だ。正門の前にあった立派な木を、暗い夜空に浮かび上がるであろうロマンチックな風景を二人で見上げるんだ。その為に今日はここにいる。
「せっかくなので点灯したツリーを見たいなと思ったんですけど……先輩はどうされます?」
「そうだなぁ……小早川さんが見るならそうしようかな。今日はバイトも無いし」
少し恩着せがましい言い方をしたような気もするが、みっともない男ではいたくないんだ。
「つくのは暗くなってからですよね。きっと」
「そうなるよなぁ……17時とかそれくらいかな?」
「いったん大学は出て、時間をつぶしてからここに戻って来ます?」
「うーん、そうだね。そうしようか」
よっしゃ、よっしゃ、よっしゃ、よっしゃ!! クリスマスデートだぁぁぁあ!!
心の中で俺は小躍りをしていた。サンバのノリだ。
ここは何がある? 少し歩くが水族館があるし、ショッピングなんかもできる。ゲームセンターもあるし、コーヒーとか喫茶店もある。大通りにはファンシーなスイーツ店なんかもある。時間はいくらでもつぶせるぞ!
小早川さんを見ると、ふいに目があった。
「ここなら時間をつぶせる場所はいくらでもありそうですし、とりあえず出ましょうか」
「そ、そうだね。だんだん混んできたしね」
とりあえずどこに行くか決めなかったがまぁ良い。歩けば何かしらあるのがここ池袋だ。
トレーを片付けて学食を出る。振り返って改めて学食内を見渡した。風景も空気も凛とした荘厳な雰囲気に包まれていて、やっぱりこの場所は雰囲気があってすげえや。
今から学食内に入って行く学生達とすれ違い、元来た道を引き返した。
「大学のあるこっち側よりも東口側に出た方がいろいろあるかもしれない」
「そうなんですか? やっぱり先輩は東京の人なんですね。私、全然わからなくて」
「東京の人かって言われると微妙かもしれないけど、高校の時、この辺もよく遊びに来てたからね」
「え、高校生でこんな都会に遊びに出てたんですか?」
「電車通学で、ここで乗り換えだったんだよね。高校の友達は埼玉からの人も多かったからだいたいこの辺りでつるんでた」
「そうなんですかぁ……私が高校生の時はたまーに、学校近くの喫茶店に行ったりして。でもそこに行くと来てるお客さんは同じ学校の生徒で。ちょっと気まずいんですよね」
「学校の近くの店はだいたいそうなるよなぁ。ラーメン屋とかもそう」
「みんなで行くところと言ったらいつものショッピングモールですし。東京に出てきたら電車で30分以内のところに何でもあってビックリしました。街を歩いてる女の子達はみんなお洒落で可愛いですし。私なんて田舎者って感じが出ちゃってると思うんですよね」
「……全然そんなことないと思うけど」
どう考えても小早川さんは可愛いと俺は思うけど、その後に続く言葉が出てこない。そんな照れ臭い台詞が言えるわけがない。小早川さんだって、俺から褒められても別に嬉しくないんじゃないか……とか。いや、どうなんだろう。
2人で無言のまま地下への階段を降りて再び駅構内の地下通路に出た。
「とりあえず東口方面に行ってみよう。映画は……さすがに時間無いけど、ゲーセンとかある――」
「先輩! どら焼きが売ってます! しかも半額で!」
目の前の少し開けたスペースで、和菓子の販売をしていた。期間限定で出店しているポップアップストアというやつだ。駅構内で良く見かける。
小早川さん、甘いもの好きなのかな? 店に近付き、並んでいる和菓子を眺め始めた。
「どら焼きが630円が半額の315円。これはお得ですよね! 買った方が良いですよね!」.
「うーん、買っても良いけどさぁ……」
小早川さんを店から少し離し、店員に聞こえないような声量で言った。
「元の値段のどら焼きが1個630円って高いって思わない? たぶんだけど、こういうのって半額の値段でそもそも売るようにして作ってるんじゃないかと思うよ」
「確かにどら焼き1個630円はよく考えたら高いですよね」
「他のも半額ってやってるけど、元の値段設計がたぶん半額後の金額だと思う」
「なるほど……今井先輩は商学部ですものね。さすがです」
こんなところで大学で身に付けた知識が役に立った……かな?
「何か食べ物探してるの?」
「うーん、そういうわけでも無いんですけど……」
この辺りに何か有名な和菓子とかあったかなぁ。女子が好きそうな食べ物とか全然わからない。まさかこってり爆盛りラーメンが売りの店に連れて行くわけにはいかないし、さっき昼飯は食べたばっかりだし……。
どこで時間をつぶそうか。
足元を見ていた視線を数メートル先にうつすと、リュックにじゃらじゃらとキーホルダーをつけた人が通り過ぎて行った。何であんなにキーホルダーつけてるんだろ。
「あ、そう言えば学園祭で無くしたって言ってたホークス博士のキーホルダーは見つかった?」
もし、無くしていたらキーホルダーをプレゼントするなんてどうだろう? 我ながら良いアイデアだし、クリスマスデートっぽい雰囲気だぞ。
「大学に落とし物の届けは出したんですけど、今のところ何の連絡も無いんですよね……もう出て来ないかなと思います。気に入ってたのに」
ほらきた! プレゼントチャンス到来!




