儚さとファンタジーさと可憐さと
正門の奥には見上げるほどの大きな木が2本。その木には電灯が飾られているのがわかった。まだ日中のため、点灯はしていない。
横にいる小早川さんを見ると目がらんらんと輝いていた。今まで他の大学には何校か行ったがその中でも特に一番反応が良い。
「す、すごい……お洒落」
地面には芝生が生い茂り、その上に赤茶色のレンガ造りの洋館がある。洋館には白い窓枠がはめられ、ツタがところどころ壁を覆っている。
女子はこういう雰囲気好きそうだもんな。まるでおとぎ話の中、絵本の中の建物みたいだ。
「先輩! 絵本の中みたいですよ! お洒落! 素敵! 綺麗!」
小早川さんも同じ感想を持ったらしい。スマホを持って建物の写真撮りまくってるもん。テンション上がってるなぁ。
「撮ろうか?」
「いやいや、そんな。私じゃなくて建物を……あ、先輩撮りましょうか? 今日の格好素敵なので、モデルさんっぽくなりますよ」
モデル? 今モデルって言った? 雑誌とかランウェイ歩くバチ決めの人のこと? 俺に対して言ったんだよな?
「いや、モデルなわけないし、良いよ……別に」
「じゃあ2人で撮りませんか? せっかくですし」
自撮り? スマホを手にして腕を伸ばし、被写体どうしがくっついて撮るヤツ? そんなの無理だろ……恥ずかしいし。
「はい、チーズ」
間髪入れずに小早川さんはスマホを伸ばし、俺に近付くとパシャリと写真を撮った。うだうだ考えている時間は無かった。一瞬だった。
「上手く撮れましたよ。ほら」
撮った画像を見せてくれたが、俺の顔は口はへの字に閉じられ目は見開いている。見るからに普段から写真を撮り慣れて無い感じが出てしまっている。
「え、これさぁ……顔、変じゃない?」
「そんなことないですよ。早く学食に行きましょう。あっちみたいです」
撮り直すとか、そういう雰囲気でもなく小早川さんはスマホを鞄にしまい先を歩いて行ってしまった。あんな画像で良かったのかな……俺の間抜けな顔が彼女のスマホに保存されているのは複雑な気分だ。
でも……ツーショットで写真を撮っただなんて信じられない。後で画像を送ってくれるのだろうか? 後で削除されたりしないよな?
彼女と駅で待ち合わせをして会った時からずっと気分が浮わついている。地に足がついていないというか。世界が明るく輝いている。そんな晴れやかな気分だ。これがクリスマスマジックとやらか。何もかもが上手くいきそうで、自分の中から活力がわいてくる。毎日がクリスマスだったら良いのに……。
ぼんやりと小早川さんの後ろをついて行き、レンガ造りの建物に入った。入り口から入るとすぐに券売機が並んでいる。
「どうする?」
「せっかくですし、パスタのスペシャルメニューなんてどうですか?」
小早川さんは壁に大きく張られている手書きのメニューを指さしながら言った。
「良いよ。今日のメニューは……」
「カニとエビのクリームパスタってあります」
「良いんじゃない? それにしよう」
発券機で食券を買って学食の中に入る。
「うわぁ……」
「すご」
真っ先に目に入ったのは高い天井と大きな窓ガラスだった。
天井は高く開放感があり、濃い茶色の木の梁が見えている。天井からは銀色の照明が吊り下げられ淡くテーブルを照らしている。白い壁には梁と同じ色の窓枠がはめ込まれ、ガラスを通して明るい光が部屋全体に差し込んでいた。
「こんな学食見た事ありません……すごい」
小早川さんからは感嘆の声がもれていた。
「ファンタジーの世界みたいです。自分が物語の中に入ってるみたい……」
「近代的な造りじゃないけど、すんごいお洒落だね。レトロというか。大学の食堂じゃないみたいだ」
木製のテーブルと椅子が部屋の両サイドにずらりと並び、食堂の荘厳な雰囲気と相まって魔法学校の食堂のようだと思った。
「早く食券出さないと」
「そうですね。混んで来ちゃいますもんね」
配膳カウンターはテーブルの置いてある空間のすぐ横に別室として設けられてあった。カウンターに食券を置き、料理が提供される間に後ろにある給水器で水を取る。
「床も白と黒でカッコ良いですよね。本当にお洒落。毎日ここでお昼食べてたら自己肯定感上がりそうです」
「こういう雰囲気好きそうな人多そうだもんなぁ」
2人で喋っていると、配膳カウンターにスペシャルメニューのカニとエビのクリームパスタが提供された。別皿にフォカッチャ付き。
「美味しそう。楽しみです」
トレーを持って先を歩く小早川さんの後ろをついて行きながら背中を見てふと思った。彼女今日は特にキレイめな格好をしているな。
こんな雰囲気のあるファンタジーな食堂にいるし、東京のデートスポットを特集してる雑誌の表紙みたいだ。モデルの女子が真ん中に立って後ろを振り向いている感じの表紙でさ。さしずめ「お洒落大学で胸キュンデート♡」みたいな小っ恥ずかしいタイトルのやつ。
「先輩、どこに座りましょうか? ここで良いですか?」
小早川さんが後ろにいる俺の方を振り向くと、彼女の着ているピンク色のスカートがほんの少し揺れて儚さとファンタジーさと、可憐さが爆発しそうだった。振り向きざまにこっちを見つめるとか、ときめきが止まらないよ。
小っ恥ずかしくても何でも良い。「お洒落大学で胸キュンデート♡」良いじゃあないか。5冊くらい買っても良い。
「……うん、どこでも良いよ。ここで、はい」
テーブルにトレーを置いて、俺の目の前に小早川さんが座った。
「先輩! 見て下さい! 椅子にも大学のマークが」
「あ、ホントだ」
木でできた椅子の背もたれに大学のマークである特徴的な花の模様が彫られている。隅々までマジでお洒落だな。
小早川さんは椅子の撮影を終えると、スカートの裾を整えて座り直した。そして今度は料理の撮影をし始めた。いろいろな角度から何枚か撮影をすると背筋を伸ばして居住いを正した。
「お待たせしました。食べましょう」
「はいよ。頂きます」
「頂きます」




