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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
10章 立奏大学_カニとエビのクリームパスタ(つまりそういうこと)
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綺麗だし可愛いし

 小早川さんと立奏大に行く日の待ち合わせの前日はドキドキしてしまい、なかなか寝付けなかった。

 地下鉄の改札と直結している商業施設のエントランスで待ち合わせをしているが、見渡せば施設の入り口前にはツリーが飾られ、金色や銀色のきらびやかな飾りがとてもまぶしい。駅中のポスターも雪景色の中にプレゼントを乗せたソリが描かれている。まさにクリスマスムード一色って感じだ。街中がどこもかしこもキラキラとしている。

 こんな浮かれた街中をサークル活動とはいえ小早川さんと歩くことができるだなんて、実質恋人同士と言っても間違いじゃないよな? はたから見たら完全に彼氏彼女だよな? そもそもこんなクリスマスの時期に男女が2人で歩いてるってそうとしか言いようがないだろ。顔がにやけちゃうよな。

 待ち合わせの時間は11時、時計は待ち合わせ時間の5分前を表示している。そろそろ来るような気がする。

 小早川さんって最寄り駅が地下鉄だよな。今日はここまでどの路線で来るんだろ。だぶんあっちかな。地下鉄の改札口から出てくる人の流れをぼんやり眺めているとふいに後ろから声を掛けられた。


「今井先輩」


 振り返ると小早川さんがいた。

 確かに小早川さんなのだが、赤縁眼鏡をしていなかった。


「あれ? 眼鏡……」


 小早川さんは照れたように、伏し目がちにしながら言った。

 

「……コンタクトにしてみたんです。クリスマスが近いですし、せっかくなのでお洒落しようかなって」


 何てことだ。

 心臓が撃ち抜かれるとはこのことだ。いつも眼鏡のレンズ越しにあった瞳がそのまま、まる見えよ? ぱっちりしてて目の形もまつ毛もくっきりわかるじゃん。目が合ったらドキドキしちゃうヤツじゃん。

 思わず自分の口を手で覆った。やっぱりこれってもう、そういう事態だよな? いよいよ恋人達のイベントを満喫しちゃうのか俺は。

 その言葉通り、小早川さんは今まで会った中で一番キレイめな格好をしている。くすんだピンク色の長いスカートに、白色のニット、そしてベージュのロングコート。落ち着いていて、少し大人っぽい格好だ。綺麗だし可愛いし、もう何なのさ。


「その……すごく似合ってると思うよ。クリスマスっぽくて良いね」

「……ありがとうございます。先輩もそのコートすごく良いですね」

「あ、これ?」


 そう、この茶色のチェスターコートは大奮発してこの日の為に用意したものだ。ふ、ここは年上の男の魅力をかもし出そうと思ってな……というのは嘘で、百貨店の店員さんに言われるがまま買わされてしまったのだ。店員さんはマイルドだが押しが強くてびっくりした。あれよあれといううちに財布から現金を出していた。プロの商売人は恐ろしい。慣れない場所に行ったからだ。

 

「もしかして買ったばかりですか? しつけ糸がついてますよ。ここに」

「え? どこ?」


 小早川さんは後ろの裾を指差した。糸が縫い付けられ裾がとめられている。


「げ、気付かなかった。これってとらないといけないやつ? ずっと付けっぱなしだったんだけど」

「型崩れしないように糸でとめてあるんですよね。外してから着た方が良いと思います。スーツとかにもありますよね」


 やっちまった。きちんとしたコートなんて着慣れてないからさ。


「ずっと糸をつけたまま歩いてたってことか。恥ずかしいな」

「誰もそんなところ気にしないから大丈夫ですよ。先輩行きましょう」


 小早川さんがそういうならそうなんだろう。もう何でもどうだって良いです。

 

 ふわふわとした浮かれた気分でいると小早川さんに促され2人で並んで歩いた。

 歩いている男女はみなカップルに見える。きっと俺達も周りからはそう見えているんだろう。それに今日の俺達のこの格好は完全にデートのそれだ。綺麗めな格好で来た小早川さんと、それに合わせたかのようなシュッとした茶色のチェスターコートを着ている俺。特別な日に特別なことをするカップルって感じだ。メンズ館の店員さんの言った通りだ。めちゃくちゃ高くて目ん玉が飛び出るかと思ったけど買って良かった。


「今日はすごく人が多そうですね。やっぱりクリスマスだとみんな出掛けたりするんでしょうか」

「街中もクリスマスっぽくなるし、イルミネーションとか見たりするんじゃない?」


 そういう俺達も大学のツリーを見に来たわけだが。

 階段を上り、地上が見えて来たところで俺達とすれ違うカップルがいた。2人は手を繋いでいた。うわぁ、やっぱりカップルがうじゃうじゃ湧いてる。こっちまで気恥ずかしくなる。

 階段を上り切ったところで小早川さんが振り向いた。


「さっきのカップル恋人繋ぎしてましたよ。見ました?」

「恋人繋ぎ?」

「手をこうやって絡ませるヤツですよ。はー、やっぱりこの時期はカップル多いですね」


 小早川さんは自分の手を指と指を絡ませるようにして握った。そんなレクチャーして見せなくても……。いや、これはもしかして手を繋ぎたいって言ってる? 絡ませたいってこと? 何て大胆な子!


『俺達も繋いでみる……?』


 ――なんて言葉はとてもじゃないが出なかった。そんな浮ついた台詞言えるわけがない。杉本じゃあるまいし。俺には無理だ。

 それに小早川さんも本当に手を繋ぎたいのかよくわからない。ただ感想を言っただけかもしれないし、急に手を取るとかセクハラだろ、うん。やめておいた方が良いに決まってる。それに俺は紳士だからな。

 小早川さんは特に気を留めるでもなく前を歩き出した。


「やっぱり大学の周りはどこも少し似てますね。小さい飲食店がたくさん」

「……そうだね」


 さっきから小早川さんの手が気になってしまい、会話があんまり頭に入ってこない。

 やっぱり手をそっと繋いだ方が良かったかな? いや、さすがにそれはまだ早いだろ。付き合ってもいないし……いや、実質もう付き合ってる?

 同じ内容をぐるぐると悩んでいると、小早川さんから感嘆の声が上がった。

 

「わあ! 凄いです! これは……」

 

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