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Phase.10 ウクライナ戦線

 サイモンはゼクウの自宅であるシリコンバレーのインフィニティ管理施設の地下に案内されていた。そこには100体を超えるエイスが転がっていた。

「これがフィジカルAIのエイスだ。これを一騎当千の戦力に変えて偽装しなくちゃならねぇ……。出来そうか?」

 ゼクウの問いに、サイモンは不敵な笑みを浮かべて答える。

「ああ? 誰に向かって聞いてんだよ? まぁ、見てな……。外観の偽装は俺のナノ・スキンを使えば造作もねぇ……。内部構造は……」

 サイモンは自身の眼鏡の柄をいじりながらエイスを一瞥して、かぶりを振る。

「センスのねえコイルの配置をしてやがるな……。俺ならスピードで今の3倍、パワーで10倍まで引き上げられるぜ」

 サイモンの言葉に一同は息をのむ。一番驚いたのはラジャンだった。


「す、すごいネ! その眼鏡、エイスの中まで覗けるの?」

「そっちかよ……。まぁな。俺のこの眼鏡『アナライザー・グラス』は、情報の表示だけでなく、あらゆる電磁波、X線から赤外線まで可視化できるガジェットだからな。透視なんざ訳ねぇよ!」

「す、すごいヨ! ちょっと貸して!」

「お、おいっ!」

 サイモンの眼鏡を借りたラジャンは柄をいじりながら色々なものを見て感嘆の声を上げる。

「おおっ! 手がすけて骨が見えるヨ! 壁の向こうの機械も見える!」

 ラジャンは興奮してサイモンにそっと耳打ちする。


「ひょっとして、服だけを透過することもできちゃったりする?」

 顎に手を当てて真剣に考え込むサイモン。

「そうだな……。繊維の電磁波の反射率と、生身の肉体の反射率を分離させるプログラムを組めれば、あるいは……」

「それならラジャンがプログラムを組めるヨ! 今こそ全人類(主に男子)の永遠の夢が……!」

「叶うってわけか! よし、やってみるか!」

「人類の夢のために!」

 ラジャンとサイモンは男前の表情になって、固く握手を交わす。

「いい加減に――しなさいっ!!」

 額に青筋を浮べた霊呼にこっぴどく尻を蹴とばされた二人は、慌ててエイスの分解に取り掛かるのだった。


 数体のエイスを組み直したサイモン達。その姿を見て霊呼は不思議がる。

「ずいぶん大きさに差があるのね……」

「ああ、ヘラクレス、クー・フーリン、ヤマトタケル、皆、神話上の姿が違うからな。それぞれの姿に合わせて義体を構築してるのさ」とゼクウは語る。

「それだけじゃねぇ……。パワー型、高機動型、格闘重視と、それぞれの戦闘スタイルに合わせてカスタマイズしてるんだぜ。天才の技、いかすだろう?」

 髪をかき上げて気取った声で答えるサイモン。


「でも、このままじゃ人間に見えないわね……」

「まぁ見てなって! 俺の作ったナノ・スキンをこう、表面に貼ってだな……。いいぞ、ゼクウ!」

 ゼクウがアテナに連絡すると、サリエル戦でのレジェンダリー・ウォーリアーのように、クァンタム・アジールから飛び出した英雄たちが改造エイスに入り込んでいった。

 徐々にナノ・スキンが、生身の肌のような色と質感に変貌していき、目鼻立ちや髪も再現されていった。

 そして、数秒のうちにギリシャ彫刻のように整った顔立ちと、均整の取れた美しく逞しい肉体を持つ英雄たちが現実世界に出現していた。


 英雄の一人、ヘラクレスは筋骨隆々とした己の身体を動かして満足げにうなずく。

「うむ、悪くない! 数千年ぶりの身体だ!」


「ちょ、ちょっと! なんでみんな全裸なのよ~っ!?」

 霊呼は真っ赤になって、両手で顔を覆う。

「何を照れることがある? オリュンピア大祭では皆、全裸で競技していたぞ?」

 不思議がるヘラクレスに、ゼクウは苦笑する。

「なんにしても裸はまずいな……。次は装備を開発するか!」



 ゼクウ達は量子ラウンジに戻ってきた。

 アテナから聞いた話をもとにピアノ型コンソールを叩いて、英雄たちの武器や鎧を空中に出現させるゼクウ。

「サイモン! お前の力でこの武器を最強の装備に変えてくれ。ただし『非殺傷』のな!」

「ああ? 最強で非殺傷って、禅問答かよ? 面倒くせぇ……。武器の仕様はお前らで決めな。決めた仕様の『力』を俺様が武器に付与してやるよ」

 サイモンの言葉にジョシュアが進み出る。

「私も考えよう。現代戦を想定した強力な非殺傷の武器を……」


 その後、サイモンはゼクウ達から提示された仕様書をアイに手渡し、インプットの指示をすると、手を振って量子ラウンジの一角にドアを出現させた。

「見せてやるぜ、俺の『量子ラボ』を!」

 そこはサイモンが量子空間に構築した仮想実験室だった。無数の実験装置を前にして彼は仕様書のインプットを終えたアイに指示をし、タクトを振った。

「アイ! ミュージック、スタートだ!」

 サイモンがタクトを振るい空中に投影された設計図に構造を描くと、荘厳なオーケストラとともに、バーチャル空間内に再現された各実験装置は武器の出力試験、耐久試験を無数に行い、構造を最適化していった。


 交響曲が終わると、神話の武器がその力を誇示するように、量子ラボで神秘的な輝きを放って浮かんでいた。

「す、すごいわ……。まるで魔法みたい……」

 フィーナは感嘆して思わず拍手する。

「フッ……! このデータは俺の研究所に飛び、既に3D成形加工機で製作を始めている。すぐに現物を見せてやれるぜ!」

 サイモンは不敵な笑みを浮かべ、得意げに語るのだった。



 数日後、クロアチアのサイモンの研究所に、クァンタムズの一同は訪れた。

 各自の装備を手にしてバスに分乗した英雄たちと、彼らを率いるジョシュアとマルコにフィーナは声をかける。

「ジョシュアおじさん、マルコ、気を付けてね……」

「ああ、大丈夫だ。心配するな……。ゼクウ、バックアップを頼むぞ」

「おう、任せとけ! 霊呼、『グラウクス』の準備はいいか?」

「ええ、任せて!」

 女神アテナのフクロウを模した5機の形代に霊呼が式神を宿らせると、フクロウは生気を宿しウクライナに向かって一斉に飛び立った。その大きな両目に搭載された高感度センサーで高空から超低空まで自在に飛行し、アテナの兜「パラディオン」に戦場のすべての情報を逐一、届けるのだった。


「レーダーにはほぼ反応せず、目視されたとしてもフクロウにしか見えない、高いステルス性をもった偵察ドローンというところか……」と、アーサーは感心する。

「ああ! 式神で動かしているから燃料も不要で、アテナの意志のままに動き『女神の眼』として戦場を俯瞰する。さらに電波の送受信も行ってくれる優れものさ」

 ゼクウはニヤリと笑うのだった。


 やがて戦場を俯瞰した女神アテナは、ゼクウに警告する。

「ロシア軍の爆撃機、ミサイル基地に動きがあります。ゼクウ! ラジャン! 霊呼! 電子戦の準備を!」

「了解! やるぞ、ラジャン! 霊呼!」

「オーケー!」

 アテナが手を振ると、「量子の盾」クァンタムズ・シールドの指令室の空中に様々な強大な兵器類が表示された。戦闘機に搭載された空対地極超音速ミサイル「キンジャール」の禍々しい姿を、女神が指し示す。


「ゼクウ、ラジャン! プロテクトの突破を!」

 量子コンソールのキーボードで激しいロックをゼクウが弾き、ラジャンのドラムが激しいビートを刻むと、モニターに可視化されたキンジャールの火器管制システムのプロテクトはガラスのように粉々に砕かれた。


「霊呼、今です! 復旧される前に火器管制システムに侵入を!」

 式神操作に特化した霊呼の量子コンソールである「龍笛」が、舞い昇る龍の如き伸びやかな響きを奏でると、渦巻く霧のような姿をした十二天将「天空」が、プロテクトの砕かれた火器管制に侵入していった。


 その頃、ロシア軍の大佐、その徹底した冷徹な制圧戦略で「ロシアのハゲワシ」と恐れられる禿頭のウラジミール・モロゾフは通信機に向かって指令を出していた。

「キンジャール、全弾発射! この極超音速ミサイルは貴様らウクライナの防空システムでは防げん。お前たちの拠点もこれで終わりよ!」

 戦闘機から一斉に発射されたキンジャールは、しかし突如、その進路を変え、無人の荒野に次々と着弾し爆炎を上げた。

「な、なんだと!?」

 敵に幻を見せ、情報をかき乱す凶将・天空は、射撃管制のデータをことごとく無人の荒野を標的とするように書き換えていたのだった。


「ジャミングを受けたのか!? くっ! ならば『ゲラン2』を使え!」

 モロゾフ大佐は激怒して部下に怒鳴る。

 自爆ドローン「ゲラン2」はGPSと電子戦対策を行った自律航行可能な最新型であり、ガソリンで飛ばせる安価な兵器であるため、数百機が発進を待っていた。

「あれにジャミングは効かん! ダミーも混ぜて飽和攻撃をしかけるのだ。くくく……。西側の高価なパトリオットでは、これだけの数のドローンは迎撃出来まい……」

 モロゾフはニヤリとほくそ笑む。


 アテナの凛とした指示が飛ぶ。

「あの兵器にジャミングは効きません。発進前に勝負を決めるのです!」


 アテナの手が「ゲラン2」の格納庫を指し示すと、ゼクウ達の和風ロック調の神楽は激しいビートを響かせ、ドローン管理システムのプロテクトは粉々に砕かれた。

 霊呼の龍笛で操る吉将・太陰は、月光の中で輝く艶やかな髪の女性の姿をしていた。彼女はその両腕でドローン管理システムを包み込んだ。


「ゲラン2、全機発射!」 モロゾフの指示で次々に飛び立つ自爆ドローン。

 しかし数百機の禍々しい自爆兵器は、目標にたどり着く前に全て墜落し、燃料切れで作動する自爆信管により空中で粉々になった。


「ゲラン2、全機、標的に届かず自爆!」 部下の声が飛ぶ。

「なっ、なんだとっ!」 モロゾフは椅子からずり落ちた。


 ゼクウは不敵な笑みを浮かべていた。

「ジャミングが効かねぇなら飛べねぇようにすりゃあいい――。隠ぺいを司る太陰を使って燃料注入システムの充填完了の量を一桁下げ、その事実を隠ぺいさせてもらったぜ!」

「ガス欠攻撃、どうヨ!」

 ラジャンはスティックを掲げポーズを決めたのだった。


 アテナの的確かつ巧妙な指揮と、ゼクウ、ラジャンの高速ハッキング能力、霊呼の強力な十二天将で、ロシア軍の強力な戦術兵器はことごとく無力化されていった。

 モロゾフ大佐は禿頭に青筋を浮べ、机を叩いて叫ぶ。


「おのれ! だが我が軍にはまだ最強の陸軍がある。ミハイル・イワノフ少佐を呼べ!局地戦だ、数ですり潰せ!」


 ロシア陸軍の誇り高き歴戦の英雄、「シベリアの銀狼」と称えられる銀髪のミハイル・イワノフ少佐が率いる精鋭のロシア兵士たちが出征していく。

 その様子を量子ラウンジのソファーにふんぞり返るサイモンは、あざ笑いながら眺めていた。

「いよいよ俺様の超兵器の本領発揮ってわけだ! くっくっくっ……。フィーナさん、俺と一緒に、俺の発明品が大活躍するのを一緒に眺めないか?」

 後ろを振り返ったサイモンだったが、そこにフィーナの姿はなく、メイドのアイが無表情に立っているだけだった。


「フィーナ様は戦局を心配されて、すでに女神アテナの作戦室に向かわれましたが?」

 アイの言葉に眼鏡がずり落ちそうになるサイモン。

「な、何ぃ~? なんでそれを早く言わねぇ?」

「聞かれませんでしたので……」

 アイは表情一つ変えず、そっけない声で答えたのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございます!

現代戦の精鋭兵士を率いる最強の「ロシアの銀狼」イワノフ少佐に対し、サイモンの作った神々の武器を手にした神話の英雄たちとともに挑む伝説の兵士ジョシュア。

神話の力と現代兵器が激しく衝突する次回「Phase.11 神話の戦い」は、いつも通り、毎日20:40の定期公開です! 

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