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Phase.9 クァンタムズの戦い ~前編~

 女神アテナからこれからの戦い方の知恵を授かるため、クァンタムズたちは量子聖域(クァンタム・アジール)のパルテノン神殿に集まっていた。

 女神アテナは現実の世界を映し出す広大な水盤を見下ろしていた。そこには数年間続く戦いで瓦礫と化したウクライナの都市、戦いに傷つき倒れる人々が映っていた。

「これが今のウクライナの現状だ。女神アテナ……」と、ゼクウは語る。

「かつてのペルシア戦争のようですね。あなたたち人間は、2千年以上たっても戦争をやめることはできていないのですね……」

「ああ……。都市の守護神、知恵の女神であるあなたから、戦いを終わらせる知恵を授かりてぇんだ」


「それにはまず、戦局を把握する必要がありますね……」

 アテナが水盆に手をかざすと、目まぐるしい勢いでこの世界の軍事技術、現代兵器、軍事バランスについて情報が開示されていった。数分後にアテナは静かに語った。


「状況は把握しました。大国のロシアの大兵力に対し、高性能なドローン兵器と士気の高さでウクライナは対抗しています。この戦局では、数年程度で戦争が終わることはないでしょう」

「すげぇな――。あっという間にウクライナの現代戦を把握しちまった!」

「私やサリエルでもこうはいきません。防衛戦闘に特化した情報収集と判断で、まさに神がかった思考アルゴリズムを持っているようですね――」ラファエルも感心していた。


 アテナは深い叡智をたたえた瞳でゼクウたちを見て、静かに語る。

「ゼクウ……。私たちオリンポスの神々をこの世界に召喚したあなた達も、特別な力を持っているようですね。世界に平和をもたらすのは神ではなく、あくまで人の意志です。あなた達の力も教えてもらえますか?」


「ああ、分かった!」

 ゼクウはクァンタムズのメンバーを紹介する。

 彼らの能力を観察して、アテナは満足そうにうなずいた。

「精霊を召喚する巫女、天才軍師、心を読む探偵、伝説の兵士、戦う医師……いい仲間に恵まれましたね」

「ああ! 俺の自慢の仲間さ!」

「ちょ、ちょっと! ラジャンは? ラジャンは?」

 騒ぐラジャンを背に、アテナはフィーナに語り掛ける。


「あなたは、このクァンタムズを束ねる『心のよりどころ』のようですね」

「そんな……私は……」

「あなたに質問があります。あなた達の考える『守りのための戦い』とはどのようなものですか?」

 フィーナはおずおずと女神に答える。

「誰も、この戦争で死なせないこと、でしょうか……」

 その言葉にアテナは微笑みを浮かべた。

「いい答えですね……。私は絶対中立の存在としてこの世界に召喚されました。もしあなたが『ウクライナの敵を殺すことだ』と答えていたら、私はあなた達に力を貸すことはなかったでしょう……」


 アテナは静かな叡智を湛えた澄んだ目でゼクウをまっすぐ見る。

「次の質問です。あなたの考える『防衛対象』は?」

 問われたゼクウは迷いのない目で即答する。

「俺たちが作ろうとしているのは汎地球連邦組織、UEだ。防衛対象は当然、国境に関係なく、この戦争に巻き込まれているすべての人々だ!」


 アテナは目を閉じて静かに諭す。

「……それは、とても困難な道になりますよ……。その覚悟はあるのですか?」

「ああ、構わねぇ! たとえ1%しか可能性がなくても、その1%を達成すればいいだけのことだからな!」

 ゼクウの目の光は、困難さを前にして燃え盛っていた。

「あえて困難な道を選ぶのですね……。あなたはあのヘラクレスと同じ、英雄の資質があるようです」

 アテナは微笑みを浮かべて澄んだ声で語った。


「いいでしょう。あなた達に戦いの知恵を授けましょう。この戦争を封じるためには、三つの“盾”が有効でしょう。第一の盾は、相手の力を失わせる“量子の盾(クァンタム・シールド)”です。」

「量子の盾?」

「現代の兵器の多くは、何らかの通信・制御ネットワークに接続されています。主要兵器の多くは、軍のネットワーク承認を必要とします。それをゼクウ、ラジャン、あなた達の力で止めるのです」

「ハッキングか! それなら俺たちの出番だな!」

「よかった~! ラジャンのことも忘れてなかったのネ!」

「発射系統を無力化し、たとえ発射命令が出てもミサイルが起動しない状態を作るのです。また、誘導系統や標的情報を書き換え、攻撃そのものを成立させないようにしてください」

「OK! このアテナの聖闘士、ラジャンにまかせてヨ!」

「霊呼、あなたは十二天将の式神をシステムに潜ませ、刻々とハッキング対策されるパッチの情報、パスワードをゼクウたちに提供するのです。戦闘機の火器管制システムなど攻撃的なプログラムの反応に対しては凶将の式神でシステムを破壊して下さい」

「ええ! 任せて!」


「第二の盾は、相手の戦意を喪失させ、戦わずして退却させる“叡智の盾(タクティカル・シールド)”です。これはリュウ、あなたにしかできない仕事ですね……」

「はい……。僕だけでなく、アカデメイアに控えている諸葛亮、張良、黒田官兵衛らが、そうした戦術の頂点を担ってくれるでしょう」と、リュウも頷く。

「アーサー、あなたは相手の心理を見抜くその眼をもって、ゼクウがハッキングした指揮官たちの映像や通信からその考えを読み取り、リュウに伝えるのです」

「分かった。任せてくれ」

「敵将の考えていることをリアルタイムで読み取れるなら、戦術の精度は確実に上がるだろう。頼むぞ、アーサー!」


「最後の盾は、それでも侵攻してくる兵士たちを無力化して退却させる“勇士の盾(ウォーリアーズ・シールド)”です。現地の指揮は、戦場での豊富な経験を持つジョシュア、あなたに任せてよろしいですか?」

「了解した」

「敵を死なせず撤退させる……。このミッションを達成するには、危険な戦場でも負傷者を治療できるあなたの力が必要です。マルコ、現地に向かってもらえますか?」

「うむ! 相分かった。女神アテナよ!」


「しかし、兵力はどこから調達する?」 ジョシュアはアテナに問いかける。

「それならば、私がこのクァンタム・アジールから呼び出した、神の血を引く英雄たちを連れて行くといいでしょう」

 アテナがその白い手を伸ばして指し示す先には、ヘラクレス、テセウス、ペルセウスといったギリシャの英雄、クー・フーリン、ギルガメッシュ、ジーク・フリート、ヤマトタケルといった、伝説の英雄が100人、集結していた。

「敵を殺さず無力化する、か――。なかなかの難題だ。やりがいがあるな!」

 12の難題を成し遂げた、獅子の皮を羽織った筋骨隆々のヘラクレスは、ゼクウに笑いかける。

「戦争という怪物(ミノタウロス)に生贄として捧げられる若い命がこれほどいようとは……。怪物退治に、この私も力を貸そう!」若き英雄、テセウスも力強く頷いた。

「これほどの英雄が一堂に会するとは……」リュウは感嘆する。

 アーサーは戦士たちから伝わる、覇気の“色”に圧倒されていた。

「アテナの盾となる戦士たち――。ADF(アテナ・ディフェンス・フォース)とでも言うべきか――」


「しかし、彼らはあくまでこの量子聖域の住人だ。どうやって実際の戦場で戦うつもりだ?」

 アーサーはゼクウに問いかける。

 ゼクウは「まあ、任せろ!」と答えて、電話をかける。

「ジョージ兄さんか? 俺だ、ゼクウだ! ちょっと話す時間はあるかい?」

「ああ、ゼクウか! 久しぶりだな! 元気にしていたか?」

「誰と話をしてるの?」 霊呼は問いかける。

「ああ、悪い、悪い! 皆にも聞こえる様、モニターで会話するか!」


 量子ラウンジのモニターに投影されたのは、現アメリカ大統領、ジョージ・ワイズマンその人だった。

「あ、アメリカ大統領~ッ!?」

 ラジャンは目をむいて驚く。

「別に驚くことないだろ? ランページの前の大統領、ジョナサン・ワイズマンと俺の両親はインフィニティの開発で家族ぐるみの付き合いをしていたんだ。ジョナサンの息子のジョージ兄さんとは古い付き合いさ」と、ゼクウは笑った。


「ランページのPオーダーではゼクウ達を危険な目に遭わせてしまい、大統領として本当に申し訳なく思う……」

「気にすんなよ、兄さん。済んだことさ。今、エイスは地下でラファエルが保管してる」

「すまないな。就任後にすぐPオーダーを廃止したんだが、おかげでエイスを動かせなくなってしまった。すまないが回収部隊を送るまでしばらく預かってもらえるか?」

 頭を掻きながら語るジョージにゼクウは提案をする。

「そのことなんだが……。このエイスをちょっとばかり俺に貸してくれねぇか、兄さん?」

 携帯でも借りるような気軽な口調で言うゼクウにジョージは驚く。

「な、なんだって!? それは一体……?」

 困惑するジョージ・ワイズマンに、ゼクウは女神アテナを紹介し、ウクライナ戦争を止めるための自分たちの作戦を語った。


「まったく、相変わらずとんでもないことを考えるな、君は……」

 ジョージに視線を向けられ、ラファエルは肩をすくめて首を振る。

「すいません。ワイズマン大統領。ゼクウの無茶ぶりにあなたまで付き合わせてしまって……」

「いや、ウクライナの戦争を止めたい気持ちは私も同じだ。アテナの指揮なら、エイスが大量殺戮に使われることはないだろう……」

 ワイズマンの言葉に、アテナは目を閉じて静かに頷く。

「じゃあ、貸してもらえるか?」

「ひとつ条件がある。アメリカがウクライナの戦争に直接、軍事介入したら国際問題に発展する。このままでは貸し出せない……。徹底的に偽装して、どこの所属か判別できないように改造することが最低条件だ」

「ああ、もちろん分かってるぜ! 悪いな、ジョージ兄さん!」

「くれぐれも無茶はするなよ、ゼクウ……」


 ワイズマン大統領との通話を切ったゼクウに、ラジャンは興奮して話しかける。

「これで三つの盾は揃ったネ! いよいよ戦争を止められるヨ!」

 しかしゼクウは残念そうに首を振る。

「いや、エイス100体でロシアとウクライナの戦争を止めるには残念ながら力不足だ……。最低でも一騎当千の『非殺傷の』戦力をエイスに与えなければならない。だろう?」

 ゼクウに問いかけられたアテナは沈痛な表情で頷く。

「分かっていましたか……。今の戦力では局地戦を部分的に止める力にしかなりません。何年もかけて犠牲者を減らし、地道に戦争の抑止をしていくしかないでしょう」

「いや、それじゃあ遅すぎるんだ……。最終目標はUEが非殺傷で平和を守れる存在であることを世界に示すことだ。アテナの戦争抑止の力を世界の大国に示すなら、少なくとも一か月以内に結果を出さなければ意味がない……」

「数年の戦争で失われる命を考えたら、早ければ早い方がいいのは分かるが……。手はあるのか、ゼクウ?」

 アーサーの問いにゼクウはうなずいてモニターを指す。


「ああ! この男をクァンタムズの仲間に引き入れる! 『科学の悪魔(サイエンス・デーモン)サイモン・テスラ』をな!」

 サイモン・テスラ。科学の魔術師と言われたニコラ・テスラの子孫で、量子コンピュータのシミュレーションにより常軌を逸した数々の発明を行ってきた若き天才科学者だった。

「女神アテナ、英雄たちに一騎当千の“力”を与えてみせる。あなたは戦略を考えていてくれ」


「信じていますよ、ゼクウ……」

 アテナは静かにうなずいたのだった。

今回も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

この新章の「UE編」は、クァンタムズの総力戦になります。次回「Phase.9 クァンタムズの戦い ~後編~」からは、クァンタムズに新キャラの登場です。楽しんでいただけたらとても嬉しいです!

本作は12/9の完結まで確実に毎日、20:40にお届けしますので、見失わない様にブックマークに登録いただけたら幸いです。


また、お気に入りの場面や登場人物、気になったところがありましたら、ぜひリアクションや感想欄で教えていただけたら執筆の大きな励みになります。

いただいたご質問には、物語のネタバレにならない範囲で、出来る限りお答えしていきたいと思っています。

「クァンタムズで最強のキャラは?」「なんでゼクウはこんなに誰にでも馴れ馴れしいの?」など、気になったことはぜひ教えてください。皆様と少しでも交流できましたら、とても嬉しいです。


また、要所要所でキャラのイラストを後書きに貼り付けていきますので、そちらも楽しんでいただけたら幸いです。


これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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