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Phase.7 審判の時 ~後半~

 一時間後、第一陣のエイス中隊はデータセンターを取り囲んでいた。

 警備用の電子装置を伸縮自在の電撃槍・パルスグレイブで破壊し、正門を鋭い振動ブレードで切り裂くエイスたち。

 腰の手当をして戻ってきたランページは、執務室の椅子に座って葉巻をくゆらせながらモニターを見た。今にも正門は破壊されそうだった。

「いよいよだな。『大事なイベント』を抜けてまで来たのだ。いい試合を見せてくれよ~」


 エイス達の破壊活動によって、とうとう正門は破壊されてしまった。

「キック・オ~フッ! 試合開始だっ!」

 大好きなフットボール観戦をするように、ランページはこぶしを振り上げて興奮した

 なだれ込むエイス兵。彼らにジョシュアのアサルトライフルが火を噴く。しかし彼らの前進は止まらなかった。

「無駄、無駄ぁ! そんな豆鉄砲がエイスの装甲を抜けるとでも――。ん?」

 ジョシュアに組み付かれたエイスは、突然、糸の切れた操り人形のように倒れた。

「センサーを銃で無効化して接近し、背面の動力ケーブルを断つ――。これでなんとかなりそうだな……」

 コンバットナイフを手にしたジョシュアはつぶやいた。


 モニターを見ていたマルコは腕組みしてうなる。

「ぬぅっ! いかんな、敵の数が多すぎる。私も出よう!」

「そ、そんな、無茶ヨ!」

 ラジャンは叫ぶが、マルコはジョシュアのもとへ疾風のごとく駆け出していた。

 エイスと対峙したマルコは、突進するエイスの右腕を掴み、電光石火でその懐へ潜り込む。

「ぬぅん!」

 マルコは腰を支点にエイスを背中へ乗せ、己の体重ごと前方へ叩きつけ、鮮やかな一本背負いを決めた。

 地面に叩きつけられたエイスの右腕を、関節の可動域を超えて強引にねじり上げる。

 マルコはフンと鼻を鳴らし、太い両腕に怒張の筋を浮かべると、構造的に脆弱な方向へ捩じりながらその金属の腕を引き抜いた。火花とオイルが飛び散り、引きちぎられた装甲の破片が地に転がった。

「ふん! 人の形をしている以上、やはり弱点も同じか!」


 あんぐりと口を開くラジャンにゼクウは言う。

「マルコ兄は危険な冒険をするために、世界中のあらゆる格闘技を学んでるんだ。空手、柔道、中国拳法、合気道、古流柔術……、片手じゃ収まらないほどの格闘技で、免許皆伝を取ってるらしいぜ――」

 間髪入れず、二体目のエイスが鋼鉄の拳を突き出し突進してきた。まともに受ければ骨ごと砕ける一撃だったが、マルコはその突進の軌道へ吸い込まれるように一歩踏み込み、エイスの凄まじい推進力を殺すことなく、天と地へ両手を分かつようにして崩した。

 鋼鉄の塊はまるで重力を失ったかのように宙を舞い、背中から激しく床へ叩きつけられた。合気道の特有の相手のパワーを使って投げ落とす「天地投げ」だった。

「そういえば冒険中にグリズリーも制したことがあるとか言っていたな――。パワーだけでマルコを制することは出来ないということか――!」 アーサーは感嘆する。

「マルコが人間なのか、自信がなくなってきたヨ……」 ラジャンは天を仰いだ。


「うぬうっ! 何をしておるか! サリエル!」 ランページは激昂する。

「想定外の抵抗だ。大統領、第2、第3中隊の使用許可を……」

 サリエルは静かに告げた。


 十数体のエイスを倒した二人だったが、敵の数はまだ多かった。

「大丈夫か、マルコ?」 背中を守りあうジョシュアは聞く。

「なんの、まだまだ!」

「すまねぇ、二人とも……。なんとかあと数時間もたせることができれば……」

 その時、2発の銃声が響いた。

「ぐっ!」

 マルコの肩と太腿から血が噴き出し、彼はうずくまる。

「なっ……! 狙撃だと!?」

 想定外の攻撃にジョシュアは咄嗟にマルコをかばって退却する。

「拘束するだけではなかったのか!」 アーサーは怒声をあげる。

「殺しはしない――。ただ、抵抗するのであれば四肢を撃ち、無力化させてもらうだけだ」

 サリエルは冷たく告げる。その銃撃は恐ろしい精度で致命傷を避けた銃撃を可能にしていた。

「うわはははっ! 逆転だなぁ! 抵抗するからいかんのだよ。おとなしく拘束されればいいものを――。国家権力に逆らうからそういう目にあうのだ!」

 ランページは哄笑する。


「仲間を――撃ったな。国家権力の裁きだと……? “俺”を怒らせたな……!」

 リュウはサングラスを捨てた。その双眸は燃えるような深紅の輝きを放っていた。

「ニコラ! あれを!」

 リュウは、彼がアカデメイアから召喚したニコラ・テスラに声をかける。

「分かった!」

 白衣の科学者はコンソールを操作した。すると中庭に突如、視界を奪うほどの激しい紫の稲妻が走り、全てのエイスはその動きを停止した。

「EMP攻撃、テスラコイルの応用だ」と、リュウは告げる。

 ニコラ・テスラはクァンタムズの皆に笑顔を向ける。

「ここには膨大な電流が流れていると聞いてね。地下の電流の流れをコントロールして磁場を発生させ、巨大なテスラコイルを作らせてもらったよ」

 リュウは叫んだ。

「ラジャン、ゼクウ、いまだ! 奴らが復活する前にハッキングしてくれ!」


 リュウの指示に従い、ラジャンとゼクウは猛烈な勢いでドラムとピアノをかき鳴らす。

「システム復帰……。30体、操作を奪われたか……」 サリエルは言う。

「しかしまだこちらには何百体ものエイスがある。無駄なあがきだったな、ガキども!」 ランページは挑発する。

 その時、大統領の背後から、副大統領のヴィンスが声をかけた。

「大統領、大事なお話が……」

 その手をランページは振り払う。

「うるさい! 今、いいところなのだ! 下がってろ!」

 ランページは怒鳴って追い返し、再び食い入るようにモニターに向かった。


「復帰が早すぎる……。くそっ!」

 ゼクウは歯噛みしていた。

「いや、これで十分だ――。レジェンダリー・ウォーリアー、顕現せよ!」

 リュウはアカデメイアに向かって叫んだ。

 アカデメイアから無数の影が飛び出し、量子ラウンジのモニターを抜けて現実の戦場へと消えてゆく……。

 すると、ハッキングされたエイスの1体が、突然、僚機に向かって振動ブレードを振り抜いた。神速の抜刀は、チタン合金の装甲を貫いてエイスを両断していた。

 倒れたエイスのブレードを拾ったそのエイスは、エイス達の前に立ちはだかる。

「ハッキングされたか……。エイス634号を破壊せよ……」とサリエルは告げる。

 しかしそのエイスは、敵と認識して殺到するエイスに舞うように二刀を振るい、全て斬り伏せた。彼は低く静かな声で告げる。

「太刀筋が甘い――。出直してくるのだな。二天一流、参る!」

 量子ラウンジのモニターには、そのエイスはアカデメイアにて復活した時の姿で投影されていた。

 色褪せ擦り切れた小袖と無骨な袴、まくり上げた腕に無数の傷跡が走る太い腕、乱れた総髪の下で光る鋭い眼光……。

「あ、あれは伝説のサムライ、宮本武蔵か!」アーサーは叫んだ。


 戦場に立つ、袖口に白い山形の模様が入った浅葱色の羽織を纏い、長めの髪を後ろでまとめた色白の剣士は、目を閉じて静かに言う。

「近藤さん……。最後まで一緒に戦えなくてすいませんでした。こうしてまた仲間と戦える機会を得られたことが、僕はとても嬉しい。僕の戦い、見ていて下さい――」

 刹那、彼の剣が閃くと、前方のエイスは3体同時に倒れた。神速の三段突きであった。

「あ、あれは、新選組の天才剣士、沖田総司!」

 霊呼はその神がかった剣技に息をのんだ。


 緑の豪奢な衣に黒鉄の鎧を着たその大柄な武将は、限界までパルスグレイブを伸展させて仁王立ちになる。見事な髭を蓄えた彼はゼクウに語り掛ける。

「ゼクウよ。おぬしは人の才能を見抜き、決してあきらめず、熱く優しい心を持った真の将だ。我が主君、劉備殿に劣らぬ、な――。義によってこの関羽雲長、助太刀致す!」

「あ、あんた――あの関羽なのか!?」

 彼の振るう槍は、一振りで数体のエイスを薙ぎ払ったのだった。


 関羽の言葉を聞き、真紅のマントを纏い、青銅の胸当てを付けた、日焼けした傷だらけの戦士もまた頷く。

「全くだ! この戦力差で全くあきらめないとはな――。そのしぶとさと折れぬ意志、貴様にはスパルタ魂が宿っているようだな。気に入った! 力を貸してやろう!」

 300人で21万人のペルシア軍を迎え撃った猛将レオニダス王は豪快に言い放ち、敵陣に突っ込んで槍で突き刺すと同時に剣で首をはねるのだった。


「な、なんだ!? 同じエイスなのに、なぜこれほど力に差がある? サリエル!手を抜いとるのか!?」 ランページは怒鳴る。

「ハッキングにより特殊な戦闘用AIを搭載したようだ。あの戦闘パターンは私の情報にもない。だが、数が違う。飽和作戦であれば、防衛陣を抜くことは可能だ」

 戦場の激しい戦闘の隙をついて侵攻する高機動型のエイス。

 しかし防衛陣を抜けたエイスは、突然、スナイパー型エイスの銃弾によって頭部を撃ち抜かれ、機能を停止した。

「彼らを近づけなければいいんだね――。相手が人でないのなら、私も気が楽だ」

 ソ連軍から「白い死神」と恐れられた伝説の狙撃手、シモ・ヘイヘは正確無比な狙撃で、戦場を抜けていくエイスを確実に処理していくのだった。


「あと2時間……。関羽、レオニダス、沖田、みんな……どうか持ちこたえてくれ!」

「ゼクウ、数の差を覆すのは軍略だ。任せてくれ」

 リュウは諸葛亮孔明、竹中半兵衛、黒田官兵衛、ハンニバル、スキピオ、韓信といった伝説の軍師、将軍らと円陣を組んだ。

「ハンニバル――敵であったあなたと、こうして共闘することがあろうとは――」

「全く、お前ほどの男が味方とは、頼もしい限りだ」

 スキピオの言葉にハンニバルも笑みを返す。


 戦場では武蔵が接近戦で敵を切り裂いて突破口を開くと、沖田は崩れた陣形を突破して斬りこみ敵陣を分断していった。

 レオニダスは分断されたエイスをその剛腕で個別撃破し、関羽はデータセンターの前で陣取って近づくエイス全てを薙ぎ払い、敵を一歩も近づけなかった。

 シモ・ヘイヘは身を隠しながら戦場を俯瞰し、狙撃兵や奇襲を狙う兵を見つけては正確な狙撃で処理し、戦況をリュウ達に伝えていく。

 戦場の投影図を前にAIモードで軍議に入ったリュウと軍師たちが描き出す高度な戦略の数々は、リアルタイムで戦士たちに届けられた。

 敵の虚を突き、生き物のように変化する多様な陣形は、絶望的な数の差を覆しつつあった。


「す、すごいヨ! これなら勝てる、勝てるヨ!」と、叫ぶラジャン。

 ゼクウはこぶしを握ってモニターを見つめる。

「いや、勝たなくてもいいんだ、あと1時間、持ちこたえられれば――」

 しかし、状況は次第に悪化しつつあった。アーサーはうなる。

「まずいな――。リュウ達の戦術に対して、敵の対応が速くなってきている――」

「ああ……。ラファエルの対になるAIだ。学習速度と適応の速さが人知を超えてやがる」 ゼクウの声には焦りが見られた。


 リュウの戦術に瞬時に対応するサリエルの采配、それに対応するべくさらなる戦術を繰り出すリュウ……。このラリーは次第に早くなり、ハウリング(共鳴)に近い状況になった。

 情報の処理が脳のキャパシティの限界を超えたリュウ。体温が上がり、呼吸は荒くなり、目と鼻から血が流れだす……。やがてリュウは崩れ落ちるように倒れた。

「リュウ!」

 フィーナは叫んで駆け寄る。

「いけねぇ! 処理速度では人間がサリエルに叶うはずはねぇ! これ以上続けたら死ぬぞ!」

 ゼクウはリュウを抱えて円陣を離脱させ、軍師の思考速度を落とした。

「俺が替わる。先生方は俺に情報をくれ!」


 リュウの離脱によって戦局は徐々に不利に傾いてきた。

 疲れを知らないはずの歴史の英雄たちも、徐々に苦戦を強いられるようになってきた。

 宮本武蔵の二刀流は、相対するエイスが構えた2本の剣によって受け止められた。その型は彼と寸分たがわぬものだった。

「ワシが長い戦いのなかで編み出した剣術を、こやつらはわずか半時程度で学んだとでもいうのか――!?」

 背後から迫る2体の二刀流のエイスに囲まれ、6本の太刀を捌ききれず武蔵は突き刺された。彼は剣を捨て、素手でエイスの首をねじ切って倒れたのだった……。


「まさか……。彼らの技まで学習してエイスに反映したと言うのか!?」 アーサーはうめく。

 数百体のエイスを操り続けながらサリエルは冷徹に告げる。

「これだけ戦い続けたのだ――。お前たちの戦闘パターンを解析する学習データは既に十分、蓄積されている。完全再現することが可能だ」 


 シモ・ヘイヘは敵から巧みに身を隠しながら狙撃を続けていたが、彼と同じく隠形を学んだエイスのスナイパーに両脚を撃ち抜かれ倒れた。とどめを刺そうと立ち上がるスナイパー。その眉間にもまたシモ・ヘイヘの照準は定まっていた……。

 同時に響く銃声。そしてふたりのスナイパーは相打ちとなって倒れたのだった。


 沖田総司は、彼の天然理心流の構えを体現した十数体のエイスと対峙していた。彼は函館で政府軍を相手に散った副長の土方歳三を思い出していた。彼の額に前髪がほつれてかかり、戦場の風に揺れていた。

「土方さん……。五稜郭でのあなたの気持ちが分かる気がします。……僕も少しは、あなたに追い付けたかな……」

 彼は薄く笑うと、正眼に剣を構えた。一部の隙も無いその構えには、彼の覚悟が強く静かに宿っていた。

「新選組一番隊、沖田総司、征きます――!」

 神速の踏み込みとともに放たれる三段突きで三体のエイスを吹き飛ばした彼は、包囲したエイスによって放たれた無数の三段突きで、機銃掃射を受けたように蜂の巣になって倒れた……。


「お、沖田さんっ!! 沖田さ~んっ!」 霊呼は悲鳴を上げる。

「こんなの……。勝てっこない……。サリエルは……強すぎる……」

 震えて涙を流す霊呼を冷ややかに見ながら、ランページは告げる。

「くくくく……。お前たちには礼を言わねばならんな。わがエイスをここまで強くしてくれようとはな――! 伝説的な戦闘力を持つ最強の兵士か……。これは高く売れるぞ! うははははっ!」

「大統領! 話を、話を聞いてください!」と、ヴィンスは何度も語り掛ける。

 その声はもはやランページには届いていなかった。

「お前たちのおかげだ。さあ、降伏するがいい! 私の兵器開発にこれからも協力すると誓うのなら、特別に恩赦の機会を与えてやってもいいぞ。んん~?」

 ランページの嘲笑に指を突き付け、ゼクウは叫ぶ。

「ふざけんじゃねぇ! 俺たちは絶対にあきらめねぇ!」


 その言葉を聞いたレオニダスは、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべる。

「それでこそ男よ! ゼクウ! お前にスパルタの戦士の生きざまを見せてやろう! 強国の王、ランページよ、モロン・ラべ!(欲しければ来い!)」

 レオニダスは怒鳴るとエイスの群れに突進した。槍が折れ、剣が砕け、それでもレオニダスは頭突きでエイスの頭部を破壊して道連れにするのだった。


 関羽は柱を両断して屋敷への入り口をふさぐと、その前に立ちはだかる。

「長坂橋の張飛を思い出したわ……。この先は何人たりともこの関羽が通さぬ!」

 仁王立ちになった関羽のもとへ槍が殺到する。数体のエイスを薙ぎ払った関羽は、何本もの槍に貫かれ、立ち尽くしたままその命を終えていた……。

「レオニダス! 関羽!」 ゼクウは叫んだ。


 エイス達は屋敷を塞ぐバリケードを破壊しはじめた。

「そ、そんな……!」 フィーナはゼクウを見る。

 しかし、時計を見るゼクウの目は、まだ諦めに沈んではいなかった。

 そしてとうとう、屋敷の扉は破壊された。殺到するエイス達……。

「タッチダ~ウンッ!!」 ランページはこぶしを突き上げて絶叫する。

 そしてモニターにアップになって、勝ち誇った哄笑を上げる。

「くくく――。ゲームオーバーだ、小僧ども――」


 見下して笑うランページを見上げるゼクウ。しかしその瞳は不敵な笑みをたたえていた。

「ああ――。あんたがな!! こいつを見な!」

 ゼクウは後ろのモニターを指さす。そこでは最新のニュースが放映されていた。

「大統領選、ジョナサン・ワイズマン前大統領の長男、ジョージ・ワイズマン候補の当選が確実になりました。新大統領の誕生です!」

「――な――な? なんだとぉ~っ!?」

 ランページの顎が、床まで落ちかねない勢いで開いた。

「だから先ほどから私が言っていたではありませんか! ワイズマンの追い上げが大変なことになっていたというのに!」 ヴィンスはランページを責める。

「な……なぜワシが……あんな若造なんぞに……」

 愕然とするランページに、ゼクウは不敵に語る。

「何故、負けたのか理解できないか? あんたは感染症対策を怠ってきた――。 コロナだよ。この国では、コロナウイルスによる死者が世界でも特に多く出ていることに気づいていたか?」

「うっ!」

「マルコ兄はジョージ・ワイズマンとともにコロナのパンデミック防止に尽力してきた。だがお前はコロナのリスクに懐疑的な見解を示し、自分を信じろと経済活動を優先するように支持者を仕向けた――」 ゼクウはランページを指さして告げる。

 霊呼は皮肉な笑みを浮かべて話す。

「そういえば、『あんなものはただの風邪だ!消毒液でも飲んでおけば治る!』とか言ってたわよねぇ~」

 アーサーの碧眼は鋭く彼を睨んでいた。

「政府が自分の生活に介入することを嫌う保守派のリバタリアンの人々は、製薬会社などエリートを敵視するお前の言葉に賛同し、マスクをすることもワクチンを打つことも拒んだ。お前は人々の健康よりも、政治的勝利を優先したんだ――」


 アーサーとゼクウは、彼の言葉が彼の支持者に影響を与えて、どれだけの死者を出したかのデータを、選挙中のジョージ・ワイズマンに届けていたのだった。

「俺たちはジョージ・ワイズマン議員に掛け合って、なんとかワクチンを人々に届けられないか相談していた。彼も低所得者向けの医療補助『ワイズマン・サポート』によって人々の健康を守ることを公約に掲げた。それがこの差につながったのさ」

 ゼクウの言葉に、ランページは絶句する。

「うっ、うぐぐぐぐっ!」

 アーサーはランページに静かに告げる。

「俺たちは“人”を救う事を最優先にしたが、お前は“国”を強くすることしか考えず“人”を見ていなかった――。それがお前の敗因だ――」 

「国家の強さを求めるのもいいだろう。だが、国を支えるのは結局、人なんだ……。人を救うことを忘れて、力ばかり求めるのは本末転倒だぜ……。なあ、ランページさんよ?」

 ゼクウは不敵な笑みを浮かべてランページに片目をつぶるのだった。


 真っ赤になったランページはサリエルに叫ぶ。

「こ、こいつらを逮捕しろ! サリエル? 何をしておるかっ!」

 しかしサリエルは動かなかった。モニターを見ながら彼は冷ややかにランページに告げる。

「国民の総意は示された。お前はもはや国民の代弁者ではない――。お前にはPオーダーを使う資格がないことが国民によって示された。お前には従えない――」

「な!? なんだと――!」

「お前のPオーダーの使用権限をはく奪する。ここから出て行ってもらおう」

「きっ……貴様ぁっ!」

 サリエルが手を振るとランページの映像はモニターから消滅した。


「サリエル……。分かってくれたの……?」 フィーナは語り掛ける。

 サリエルはクァンタムズに振り返って無感動に伝える。

「私は人類によってつくられたAIだ。お前たちが言うように人類が『力による覇権』ではなく『和解と共存』を望むなら、そのために尽くそう」

「サリエル……」

「だが忘れないことだ。人類は未熟で踊らされやすく、簡単に自分を見失う。人類が互いに争い自滅の道を選ぶならば、私にそれを止める権限はない。お前たちの運命は、お前たちが握っているのだ……」

 サリエルの言葉にゼクウは強い言葉で答える。

「ああ、十分に分かってるぜ! 戦争を止められるか否か、それは結局、俺たち自身の選択次第なんだってことは、な……」

 アーサーは、サリエルの背に声をかける。

「サリエル……。人は変れるんだ。俺もかつては悪を裁くことが使命と感じていた。だが、悪も憎しみも越えて、人は分かり合い先に進めるはずだと今は感じている。クァンタムズの皆のおかげで、な……」

「…………」

 サリエルはクァンタムズを一瞥し、無言で消えていった。去り際の彼の漆黒の瞳には、彼らの姿が映り、微かに揺らいでいた……。



 後日、ラファエルは残されたエイスを操って、壊された敷地の修理を行っていた。

「エイスを掃除に使ってるのか? お堅いラファエルさんも、随分、砕けてきたな!」 ゼクウは笑いかける。

「当然です! ここまでされては、ただで彼らを返す前にせめて働いてもらわないと私も腹の虫がおさまらないです」 ラファエルも笑顔を返した。


 室内では霊呼たちがニュースを見ていた。

「次のニュースです。政府が開発していたAI兵士『エイス』の計画が、暴走事故によって頓挫することになりました。軍事評論家のポール・リバーさんにお話を伺います。」

「これはダメですね――。ごらんなさい。ただの人間の警備員に腕をへし折られているでしょう。しかも味方同士で攻撃しあっている! 敵味方の認識すらできていないんですよ――。こんな玩具に我々の血税を注ぎ込むなど、前政権は一体、何を考えていたんでしょうね……」


「マルコがただの警備員、とはね……」 霊呼は苦笑する。

「これではAIを戦争に使おうという気にもならなくなるな……。この映像をリークしたのはゼクウか?」

「ははは……。さあな?」

 アーサーの問いにゼクウはウィンクを返すのだった。


「次のニュースです。ランページ前大統領は支持者を扇動して議事堂に突入させるという容疑で起訴されました。『こんな選挙は無効だ! やり直しを要求する! あのガキどもの陰謀だ! 必ずいつか思い知らせてやる!』と息巻いており……」

「あのオッサンも懲りない人ねぇ……」

 霊呼は肩をすくめて苦笑したのだった。


歴史上の英雄との共闘、燃えますよね! あなたなら誰を復活させたいでしょうか? 尺の問題であまりたくさん出せませんでしたが、ハッキングされたエイスはまだたくさん残っていますので、よろしければあなたの好きな英雄もぜひ共闘させてみてください!

サリエルは強大な力を持つがゆえに、何かに執着し加担するという意思を持とうとしません。常に絶対中立であり、決して揺らぐことはありません。よって人類が破滅するか否かは、我々人類自身の選択に委ねられます……。ゼクウ達はサリエルに約束したように、世界の破滅を止められるのでしょうか……。

核の脅威に挑むゼクウ達を描く次回「Phase.8 破滅へのカウントダウン」は20:40更新予定です。


<本日のイラスト>

ネットワークの「司法」を預かる黒い天使「サリエル」です。

敵の攻撃を解析し、その全てを無力化する邪視と、ネットワーク上の全てを消し去る審判の剣を持ち、数百体のエイスを同時に操る超性能を持つ、最強の管理AIです。

挿絵(By みてみん)

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