47.最高級葉物野菜
「ねえグリコ。葉物野菜を食べたら分裂するなら……新鮮なキャベツやレタスを限界まで食べさせ続けたら、無限にグリーンスライムが増やせるんじゃないかな!?」
社長室にて。整腸薬用の『至高のグリーン乾物』が連日品薄状態であることを悩んでいたキアリーは、目の前でキャベツの葉をジュワッと体内に取り込んでいるグリコに、目を輝かせて提案してみた。
もしこの「キャベツ倍倍増殖法」が成功すれば、品薄は一発で解消され、プラントの生産ラインは最高稼働を迎えるはずだったのだが――
『あんなー、兄ちゃん』
グリコは体内のキャベツをゆっくり溶かしながら、呆れた顔で(※顔はないが)ぷるんと揺れた。
『ワテらスライムっちゅうもんはな、基本的に「食欲」なんて大層なもんはないねん。目の前に新鮮な野菜があったら「へー、美味そうやな」とは思うけど、「喉から手が出るほど食いたい!」とはならんのよ。気が向いた時に、好きなだけしか食わん。……フッ、どうや? いかにもモンスターっぽくてクールやろ?』
「ちっともクールじゃないよ!! 全然ビジネスにならないじゃないかー!!」
キアリーはデスクにガックリと突っ伏した。
そう、家畜のように餌をドッサリ与えて大量育成・計画生産しようにも、当のグリーンスライムたちに「食欲」という概念がほぼ無いため、キャベツを目の前に置いても知らん顔でぷよぷよ遊んでいるだけなのだ。
これでは、グリコのように気まぐれでたまに食べて分裂するのを待つしかなく、「工場での大量培養」は事実上不可能だということが発覚してしまった。
「はぁ……整腸薬の注文、ギルドからも大薬局からも山のように来てるのに……」
『まあまあ落ち込みなさんな兄ちゃん。自分らで増やせへんのなら、話は単純やろ?』
グリコがデスクの上をズリズリと滑り、キアリーの手に体をすり寄せてくる。
『外の野山やらダンジョンやらに、腐るほど野生のグリーンがおるやろ。自前で育てるのを諦めて、冒険者ギルドに「グリーンスライム生け捕り依頼」を常時出しまくって買い取る方が、100倍手っ取り早いわ』
「……あ!! そうか!!」
キアリーはハッと膝を打った。
無理に養殖しようとするから壁にぶつかるのだ。
グリーンスライムは本来、森などにゴロゴロ湧いている最もポピュラーな魔物。
冒険者ギルドに「1匹あたり〇〇ゴールドで生け捕り買取」と常時クエストを出しておけば、駆け出し冒険者たちの絶好のお小遣い稼ぎにもなり、プラントには毎日のように新鮮なグリーンが運び込まれてくる!
「すごいよグリコ! まさにその通りだ! 冒険者たちの経済も回るし、うちの仕入れも安定する!」
『ふふん、せやろ? ワテのアイデアを採用するんやったら、今日の夜は新鮮な高級レタス頼むで、社長!』
こうして、培養計画はあっさり撤回され、「冒険者ギルドを通じた野生グリーンの大量買い付けルート」が確立することになる。
そして、その日の夜。
「はい、グリコ。約束の高級レタス買ってきたよ。……って、あれ?」
その日の夜、ギルドへの納品を済ませて社長室に戻ってきたキアリーは、目を丸くした。
てっきりペロリと体内に取り込んで食べるのかと思いきや、グリコはシャキシャキの高級レタスの葉を一枚一枚、器用に体で押し広げてデスクの上に敷き詰めていたのだ。
そして、整えられたレタスのベッドの真ん中に、ぷすんと体を沈める。
『あ〜〜〜〜……これこれ! この瑞々しさと程よいひんやり感が最高やねん……! 高級品はやっぱり葉の柔らかさが段違いやわぁ……』
「……えっ? グリコ、それ……食べるんじゃないの!?」
『は? なに言うてんねん兄ちゃん。ワテ、さっき「食欲なんてない」って言ったばっかりやんか。誰が食うためにねだったと言いましたかいな』
グリコはレタスの葉を毛布のようにふんわりと体にかけながら、心底呆れた顔で(※顔はないが)ぷるんと揺れた。
『ワテらスライムにとって、新鮮な葉物野菜っちゅうのはな……「最高の寝床」なんよ。乾いた布とか木の上に寝たら水分吸い取られてまうやろ? このシャキシャキのレタスの上で寝るのが、ワテら界隈では一番の贅沢なんや』
「寝床!!? 食べるんじゃなくて布団だったの!?!?」
『そうやで。あ〜、今日の疲れが取れていくわ……おやすみ、兄ちゃん。明日の朝も起こさんといてな……』
すやすやとレタスの包みの中で丸くなり、あっという間に静かになるグリコ。
高級葉物野菜を「食べるため」ではなく「最高級のマイコンフォートベッド」として要求していたという事実に、キアリーは思わず脱力してしまった。
「……まあ、グリコが気持ちよさそうに寝てるなら、いっか……」




