46.グリコ
「よし、君だけ助けてあげるから、この小型アクリルケースに入って!」
キアリーが小さめのケースを差し入れた瞬間だった。
まだ干からびていない周りのグリーンスライムたちが、「涼しいところへ行けるのか!?」と察したのか、我先にとケースの中へ雪崩れ込んできた!
『あーっ! 邪魔すんなや自分ら!! これはワテの席やぞ! 横入りすんなって言うとるやろがい!!』
喋るグリーンスライムは、短い体をムチのようにしならせ、ポコポコと同胞を蹴散らしていく。
すさまじい執念で他のスライムを弾き飛ばすと、スポッとケースの中に収まり、パタンとフタを締めた。
『兄ちゃん! はよ! はよワテをここから外へ連れ出してくれんか!!』
「あ、うん……!」
キアリーは言われるがままケースを抱え、慌てて激暑のアクリル棟から脱出。そのままプラントに併設された、エアコンで冷房がバッチリ効いている快適な社長室へと運び込んだ。
『ふぅ~~~! 助かったで兄ちゃん! 逃げる気なんてサラサラないから、ここから出してくれへんか?』
一応『トラップバスター』をかざしてみるも、危険度は完全にゼロ。危害を加える気がないことを確認したキアリーは、ケースのフタを開けてあげた。
ぷにんとデスクの上に躍り出たスライムは、冷風の当たる場所へすり寄ると、幸せそうに体を上下に伸ばした。
『いや〜〜っ! ここは涼しくて最高に気持ちええな〜! ワテ、これからずっとここに住んでええやろ?』
(……なんて厚かましいスライムなんだ……)
キアリーは思わず呆れ顔になったが、冷風にあたってぷるぷると気持ち良さそうに揺れる緑の姿は、見ているとなんとも愛くるしい。
何より、今まで「天日干しの素材」でしかなかったスライムと会話ができるという体験に、じんわりと愛着が湧いてきてしまった。
「……いいよ。じゃあ、君をここで飼うことにする。名前は……『グリコ』ね」
グリーンスライムの「グリ」と、その言葉のちょっとイラッとするイントネーションから、なんとなくしっくりきた名前だ。
『グリコ? おう、ええ名前やんけ! サンキューな、兄ちゃん!』
こうして、社長室の住人となったグリコ。
生態を観察してみると、基本的に食事を必要としない点は他のグリーンスライムと同じだった。
たまにボリスの青果店から買ってきた新鮮なキャベツやレタスなどの葉物野菜をあげると、体の中心に取り込んで、ジュワッと溶かして吸収するくらいだ。
身体のサイズも、これ以上は大きくならないようだった。
そしてある日、葉物野菜をいつもより多く与えた時のこと。
ぽんっ。
音とともに、グリコの体が二つに分裂した。
生まれたのは、グリコと全く同じサイズの小さなグリーンスライムだ。
「あ、グリコ! 分裂したよ! 弟か妹かな?」
キアリーが目を輝かせると、新しく生まれた方のスライムは「ぷに……」と頼りなく揺れるだけで、何も喋らない。
するとグリコは、フンッと鼻で笑うように(※鼻はない)体を揺らした。
『あ、そっちは喋られへん普通のやつやから、遠慮なく天日干しにしてくれて構わへんで』
「仲間の意識、一切ないの!??!」
『なに言うてんねん兄ちゃん、ワテとアイツは別口や! 早くプラント持っていって干してもうてや!』
自分の体から生まれた分身すら、秒で「出荷対象」として差し出す圧倒的なドライさ。
ある意味、干しスライムよりもドライだなと、キアリーは思った。




