45.カンサイベン
その日、キアリーは出荷前のグリーンスライムたちの観察に訪れていた。
20メートルのアクリルケースを横倒しにして敷き詰めた巨大なハウスの中では、無数の幼体グリーンスライムたちが直射日光を浴びている。
見ていると、個体によって反応は様々だ。
キアリーの姿を見つけるとぴょんぴょん跳ねる個体、
強烈な日光を恐れてアクリルケースの隅っこへ必死に逃げ込もうとする賢い個体、
あるいは、半ば諦めて干からびるのを静かに待っている(動く気力がなくなった?)達観した個体……。
そんな中、1体の小さなグリーンスライムが、アクリル越しにキアリーの目の前にすり寄ってきた。
そして、ぷにぷにと体を伸縮させながら、しきりに何か「音」を発している。
(……なんだろう? なにか伝えようとしてるのかな……?)
気になったキアリーは、特注の厚手防護服をしっかりと着用し、アクリル棟の扉を開けて中へ足を踏み入れた。
――ガバッ!!
「わわっ! ちょっと待って!!」
扉が開いた瞬間、まだ乾燥しきっていない元気なグリーンスライムたちが一斉にキアリーへと襲いかかってきた!
かつて一度だけ、ステラと一緒に無防備のままこのアクリル棟に入った際、群がるスライムたちに目と口を完全に塞がれ「史上初・スライムによる窒息死」の危機に瀕したトラウマがある。
それ以来、防護服の着用は絶対となっていた。
とはいえ、単体の攻撃力が無に等しいグリーンスライム。
厚手の防護服さえ着ていれば、いくら人間界最弱クラスのキアリーであっても痛くも痒くもない。ペチペチと体を弾かれながら、キアリーは先ほどの個体のもとへ歩み寄った。
すると、そのグリーンスライムはキアリーの足元までズリズリと這い寄ってくると、体を大きく揺らして――
『なぁ!! ここから出してやぁ!! このままだとワテ、カラカラの干物になってまうわっ!!』
「うわああああああああっっ!!?? 喋ったぁぁぁぁぁぁっ!??!?」
キアリーの叫び声がアクリル棟内に響き渡った。
なんと、目の前のスライムは、滑らかで流暢だけど、キアリーが知らないイントネーションの言葉を喋っていたのだ。
『声がデカいわ兄ちゃん! 叫んでる暇あったらこのハッチ開けてぇな! 太陽光がサンサンと降り注いでアツアツのジリジリやねん! ワテの水分がエグい勢いで奪われていっとんねん!!』
必死の形相(目も口もないが)で、短い体をジタバタと振るわせながら命ごいをしてくるグリーンスライム。
過酷すぎる天日干し環境という極限状態において、そのスライムは種族の限界を超越。
絶望の淵で固有スキル『カンサイベン』に目覚め、人類との対話能力を獲得してしまったのだ。
「え、えええ……!? 喋るスライム……!? ど、どうしよう、干しづらい……っ!!」
『干す前提で喋るなや!! 命の危機やぞ!!』
こうして、スライム実業家キアリーと、世界で唯一、コテコテのどこかの地方の言葉を操るグリーンスライムとの、奇妙で賑やかな出会いが果たされたのだった――!




