43.レッド、ブラック、グレー
数々の試行錯誤と試食を重ねた末、キアリーはついに「干しイエロースライム」の絶対的真理へと行き着いた。
【幼体】= 瑞々しいが、旨味が浅い(青臭い)
【3m未出産成体】= 水分が多くて美味しいが、削るには少し柔らかい
【1m縮小成体】= 塩分の塊(事故レベル)
「……なら、その中間だ!」
キアリーが狙いを定めたのは、交配を終え、新しい子スライムを産み落とした後、
2メートル程度まで縮んだ親個体だった。
子に生命力を分け与え、ほどよく水分が抜けたその体を丁寧に天日干しにすると――黄金色に輝く、しっとりとしてかつ硬質な「奇跡の乾物」が完成したのだ。
削ればパスタや肉料理を極上のコクで包み込む高級チーズの如く舞い散り、薄くスライスすれば高級酒の風味を何倍にも跳ね上げる至高の珍味となる。
「……完璧だ。塩加減も、熟成された旨味も、水分量も……全部が完璧だ!!」
さっそくこの『特選・熟成干しイエロー』を、ギルドやボリスの紹介を通じて王都の高級料理店や貴族御用達の料亭へと卸したところ――料理界に激震が走った。
『なんだこの濃厚な旨味はーっ!?』
『どんな肉料理も、この黄金の粉末をふりかけるだけで王宮の晩餐に変わる!!』
『至急、我が店に毎月10キロ納品してくれ! 金ならいくらでも払う!!』
注文と金貨の山が、キアリーのもとへ怒涛のように押し寄せた。
「き、キアリーさん……!高級料理店からの前金と今月の売上だけで……あの20メートルアクリルケースの特注代金どころか、向こう数年分のお釣りが来る金額になってますわ……!」
帳簿を確認していたステラが、震える手で金貨の袋を見つめる。
「ふふふ……やりました!これで研究開発費は完全に回収です!」
かつて全財産を失いかけ、膝から崩れ落ちて灰になっていた青年はどこにもいない。
今やキアリーは、グリーン、ブルー、そしてイエロー
の3大スライムブランドを一手束ねる、
名実ともに大陸最高峰の「スライム実業家・キアリー社長」として、その名を轟かせることになったのだった。
イエロースライムの『熟成珍味』が爆発的な大ヒットを記録し、資金に余裕ができたキアリーは
ギルドにまとまった調査協力金を払い、まだ見ぬ「他の色のスライム」の捜索を依頼していた。
そして、イエローの生態解明とほぼ同じタイミングで、ギルドの資料室から最新の調査報告書が届いたのだ。
「えーっと……現在、世界で生息が確認されている他のスライムは3種類……」
書類をめくるキアリーの横で、アーサーとステラが身を乗り出して覗き込む。
レッドスライム
希少度: 低~中(火傷の谷などに普通に生息)
生態: 非常に好戦的。体内に高熱のマグマ状液手を蓄えており、口から激しい炎を噴射する。
備考: 戦闘力が高く、生け捕りは困難。(※キアリー単体の戦闘力を遥かに上回る)
ブラックスライム& グレースライム
希少度: 高(地下深層の鉱脈地帯に生息)
生態: ぷにぷにとした流体ではなく、限りなく鉱物に近い存在。
備考: 包丁も通らず、食用の乾物にするのは不可能と見るのが自然。
「……キアリー、絶対無理ね。諦めたほうがいいわ」
報告書を一読したアーサーが、一切の情け容赦なく言い放った。
「炎を吐く以前の問題よ!あなたこう言ってたじゃない『ボクは戦闘力皆無で、下手したら街の子供より弱い』って! レッドスライムと鉢合わせしたら、炎を吐かれる前に熱気だけで丸焦げよ!!」
「う、うぐぐぐ……っ! 言いましたけど! 自覚してますけども!!」
キアリーは反論できずに涙目になる。
そう、キアリーの戦闘力は「子供以下」
『トラップバスター』という罠発見の才能とスライム天日干しの狂気はあっても、直接戦闘においてはスライムの体当たり一発で死にかねない軟弱ボディなのだ。
「それに、ブラックとグレーの方も……鉱物に近いとなると、天日干しにしてもカラカラの石になるだけじゃありませんこと?」
ステラが苦笑しながら報告書を覗き込む。
「うぅ……たしかに『食べ物』や『お薬』として干して使うのは難しそうですね……」
キアリーはしおしおと肩を落とし、うーんと唸った。




